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神隠しの現実  作者: 月蛉
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始まりは神社

 いつも通り仕事を終え、仕事場であるスーパーで夕飯の買い物を済ませ顔馴染みのレジの店員と一言二言を交わし、従業員が多く車を多くとめる第二駐車場に向かい、人通りの少ない自動ドアを潜る。

 携帯で娘に帰るメールをしていたからか、気付かなったのは言い訳に入るのだろうか。

 ながらスマホは危険だと聞いて居たのにも関わらずやってしまった。

 足元の感触が慣れたアスファルトでは無い事に気が付き、視線を上げる。

「?」

 いや、おかしい。

 足元の感触が硬く無い。

 子供の頃、時々手伝った畑とか、農道の感触と言うか。

 柔らかい土に踏み込んだ懐かしい感覚に辺りを見渡す。

「………どこ、ここ」

 思わず声が漏れる。

 おかしい‼︎

 今までスーパーに居たのに、明かりが見え無い。

 アスファルトが無い。

 振り返ってみても、自動ドアが無い。

 あるのは、神社の鳥居だ。

 参拝者の多い神社なのか参道は踏み固められている。

 ただ少し傍に移動しただけで、柔らかい土になることがおかしい。

 いやいやいや?まず確認しようか。

 携帯、圏外。

 辺りを見渡す、人家らしき灯り無し。

 街灯、皆無。

 星空、良く見える。

 月、うん、今日は新月だった。

「いやいやいやいや、落ち着こうか。自分」

 高校時代にオタク文化に触れて、未だに完治して無い。いや、ネットと言う文明の利器により、更に抜け出すことは難しく、愛娘も気が付けばオタク、と言う、ちょっと人様には言えない様な、しかも母子家庭。

「ヤバイ。アイツ困るだろうなー」

 心配しては居ない。

 が、この状況はきっと羨ましがられる自信があるのは親として、娘を理解して居るからだ。

 常々、異世界トリップしたい、などと中2まっしぐらな台詞を言われて居たのだ。

「おかーさんは無実デスヨー」

 聞こえないと分かっていても言わずに居られないのだ。

「うん、帰る方法探さないと」

 いやいや、大穴で此処が日本の山奥と言う事も有るからね?

 ほら、時々眉唾物の話で、壁にぶつかった筈なのに数キロ先の場所に居たとか、夏の風物詩やら、耳袋的な本に書いて有るからね。

 それなら、しばらく贅沢は出来なくなっても物理的に帰れるから。

 うん、OK。

 確認する為にも神社の神様の名前確認しよう。

 そうだ。

 神社なんだから、日本だって。

 うん、絶対。

 違ったらどうしよう、とか考えない。

 私は、あの子を成人するまで育てる義務があるのだから。

 あの子が成人したら、別に暮らして、親離れを企んでいたりする。

 私が中々親離れ出来なかった原因の一つに、私の両親の子離れ出来て居なかった事が大きく関わって居る。

 成人した娘に、しかも、仕事にまで口挟んで来た挙句、する気無いっつった結婚まで強行してくれたのは黒歴史に認定している。

 お陰で、身体壊して婚家追い出されましたが?何か?

 養育権だけはもぎ取ったがな。

 ちなみに、相手との離婚協議中は、調停委員の皆様の生温い視線が、痛かったですよ?

 何でこんなのと結婚したかな?

 って、視線が刺さって痛かったですよ?

 知らねーわ、断ったのに人の人生にまで口出ししまくられたんだよ。

 挙句、お母さんのが先に死ぬんだなどと言われたからね、そこまで言われて実家に居るのもバカバカしくなって、娘を連れて実家を出たら文句の電話がやかましい。

 どうしろと?結局何もかもが気に入らないんだろうねぇ。

 わかってるけどね。

 流石にこの年齢では言い訳が見苦しいし、口を閉じる事にしてますが何か?

 ええ、分かってて言ってますが?

 ううう、此処で考えてても駄目だからね?さっさと現在地調べよう。


 うん、分かってました。分かってましたよ?私が主人公体質じゃあ無い事は。

 でもね?選りに選って“稲荷神社”って何さ。

 日本全国に有ると言っても過言じゃあ無いよ?

 沖縄には無いらしいけど。

「も、今夜は此処で休もう」

 幸い、暖かいし、虫もそう居ない様だし。蚊も見当たらないし、上着有るしね。

 流石にこの状態でお腹すく程豪胆じゃあ無いが、身体を休めるのは悪いことじゃあ無い。

「お邪魔しまーす」

 そう囁いて、社の拝殿傍の舞殿前の階段に靴を揃えて置いてから、舞台に上がり込むと、

 下半分くらいある壁に背中を持たれかける様に座り込んだ。

「寝るには早いんだけど」

 体力温存って大切だ。

 学生時代の健脚大会でそれを思い知らされたのは、良い思い出かもしれない。

 途中迷って夜明かしした時は、寒さと飢えと、疲れ切ってて判断が出来ていなかった。

 とにかく動くのも億劫で、道の真ん中に座りこんでて探しに来た先生に出会えた時に、“無事で良かった”ではなく“そんな所に居たら危ないだろう馬鹿”だったのだから、物申したい所であった。

  しかも、迷って座り込んで居たのは学校の裏山脇の道。

 うん、普通気が付くよね?って所だったのが一番イタイ。

 娘の学校に出向く度に視線が遠くなるのは、仕方ない事だよね。

 学校にクーラーが付いているとか、扇風機も普通に在るし、女の子も技術の授業があって、男の子も家庭科やる時代だ。

 羨ましい。

 さて、馬鹿言ってないで大人しく休むか。

 空が暗くて時間が判りにくいが、仕事が終わってからそんな時間経って無いから、多分午後7時ごろの筈。

 日が昇ってから動いた方が良い。大人しく朝を待とう。

 そんな事を考えながら上着を掛布の様に足の上に広げた時、視界の端で何かが動いた。

「!」

 声もなく飛び上がった。

 ビビりなんだって、これでも!

 怖がりなの!チキンなの!

「………人間、か?」

「はい?」

 誰だ、じゃあなくて、人間と来た。

 え?

 此処日本じゃあ無いの?

「あの、此処は日本では無いんですか?」

 恐る恐る聞いてみた。

 なんと言うか、大きな人だ。2mはありそうだ。

 着ている服も変わっている。

 昔、TVで観た“マタギ”みたい。

 ああ、狩人?そんな感じがする。

「いや、ちゃんと日本だ。山奥っつーだけだなぁ」

「良かった。帰れる」

 これが大事。

 何より大切な事です。

 娘1人にしておいたら、私のゲームが全滅………コホン。

 あー、食事バランスが最悪ですよ。

 コンビニでバイトしてるから、弁当買って帰って来るし。新作カップ麺とかでお腹一杯にしやがるからね?

 母としては心配が尽きないんですよ。

「あれ?山奥?」

 あれ?可笑しくね?だって、今住んでる地域も田舎ですよ?

 トンネル越えたらゴルフ場5個くらいありますよ?

 あれって、土地無いと作れないですよ。

 あと、山。

 モトクロストライアルの出来る場所もあります。車で30分掛かりますが、市内です。同じ市です。

 まぁ、昔は2つ向こうの町だったけどね。市町村合併して同市になりました。

 だから、実質山奥に近い僻地なのは認める。

「此処は、人間達が勝手にコクユウリンとやらにした土地の奥の方だぞ」

 いやいやいや、その物言いが自分は人間じゃあ無いと言っているー⁈

 え?え?マジか。

 うわ、サイアク。リアルにorz仕掛けた。

「大変申し訳ありません。同族がご迷惑お掛けしております」

 こんな時何て言ったら良いのー⁈

 つか、超ド庶民の私が頭下げたって何も変わらないって‼︎

「面白い人間だなぁ、お嬢さん。まぁ、こんな所で夜明かしは身体に毒だから、ウチで良かったら来ると良い。一晩寝て落ち着いたら人里近くまで送ってやろう」

「助かります」

 とにかく、上着を手に持ち靴を履いて彼の近くに行く。

 うん、人間じゃあ無いわ。

 目が一つって、昔話か。

「ちょっくら歩くけど、大丈夫か?」

「はい、お世話掛けます」

 此処で叫ぶとか無いから。

 私はそんな恩を仇で返す真似はしません。

 一泊の恩を仇で返す卑怯者ではありません。

「私は、高波華苗(たかなかなえ)と申します」

「名字が在るって事は、お偉いさんなのか?」

「いえ、今の時代は名字が無い方が有り得ない事です」

  普段歩かない土の路を歩きながら応える。

「時代は変わったなぁ。此処に人間が紛れ込んで来てた全盛期は、名前さえ無い子供が多かったからなぁ………。ああ、俺は一郎太ってんだ。村の入り口付近で番人紛いの事をして居る」

「番人って………」

 そんな物騒な場所がまだあるのか。

 世の中知らない事だらけだなぁ。

 しかし、こんな暗い中でスタスタ歩かれると付いて行くのが大変ですよ。

 まぁ、影が大きいから見失う事は無いんだけどね〜。



 歩く事30分、ようやく家の形が見えてくる。

 昔の日本家屋、ちょい小さめで土間と(かまど)囲炉裏のある上り口に仏間と部屋が2つ?風呂は分からないけど、そんな感じかなぁ。

 外から見た感想。

「取り敢えず、明かり付けるで」

「はい、お邪魔します」

 ガタガタと音を立て開けられた扉は引き戸で、レールじゃなくて、下に溝が掘ってある昔懐かしいアレだ。

 本当に時代の流れを感じる。

 鍵も無かったねぇ、そういや。

 明かりって、囲炉裏の火ですか。

 うん、なんか懐かしい風景ですね。

 アレです。田舎に泊まろうよ企画的なアレか、もしくは海外青年協力隊的な雰囲気です。

 私が体験するとは思わなかったですが。

「取り敢えず立ってないですこっち来て座ると良いよ」

「お世話になります」

 取り敢えず勧められた丸く編まれた茣蓙(ござ)に座り、向かい側に腰を下ろした一郎太さんを見る。

 目が一つで、大きいからイマイチ判断し難いが、悪い人では無いだろう。

 いや、悪い人でももうどうしようも無いのはココに居る時点で諦めるべきかもしれないが。

「で、お嬢さん。華苗さんと呼べゃあいいのか?」

「お嬢さんって歳ではありませんよ。もうすぐアラフォーです」

 暗いから若く見えたんだろうか?流石にこの歳でそう呼ばれるのは恥ずかしすぎる。

 てか、この人の方言はかなり地元に近い。明日から仕事は三連休だからその間に帰れるかもしれない。

「アラフォー?」

「あ、失礼しました。40代前後を最近はそう差します」

 そうか、此処には情報が入って来にくいよね。

 失敗失敗。

 しっかし、私の知識は偏ってる自覚がある。普通に生活してたら知らない事を知ってて知らなければいけない事を知らない時がある。

 ええ、近所の奥さんがマンゴー食べられないと聞いた時に“ああ、漆アレルギーですか”って返して驚かれた事には、逆に驚いた。

 そっかー、マンゴーが漆科って事は常識では無くトリビア的な知識でしたか。ってなったからね⁈その位、他の人と常識が違うと理解してますからね。

 お陰で立ち話も、世間話も出来ませぬとも。

 ええ、会話が続かないです。

 興味が違うのです。科学博物館へ行けば2日潰し、映画を観に行けば吹き替え版は絶対観られない。

 日本の映画は基本ホラーしか見ません。だって、演技が下手な俳優さんが1人でも居たらその時点で現実に立ち返ってしまって激しく冷静になって楽しめなくなるのです。

 物凄く厄介な客です。マジックを見たらタネを考えて、何割かは理解してしまうので………アレ、私エンターテインメントを楽しめない人ですな。

「華苗さん?食べられない物はあるかね?」

「ふぁっ⁈……あ、手伝います‼︎ごめんなさい、私ぼーっとしてて」

 いつの間にか囲炉裏に鍋がかかっているし、串に刺した魚が焼け始めている。

「囲炉裏で料理した事無いだろう?良いから今日はお客様で居て良いからね?」

 思ったよりも疲れて居るんだな。とりあえず用意された茶碗とお椀、箸を並べる事にする。

 お櫃からご飯をよそって汁物も囲炉裏にかけてある鍋から直接注いだ。

「最近はキノコ嫌いだとか、話を聞くからなあ」

「私はナス科がダメですね。ナス食べると気分が悪くなります。今年はトマトを食べたら口の中が腫れました。ピーマンと獅子唐が食べられなくなったら、食生活が貧しくなります」


 そんな会話を楽しみならが、囲炉裏の側に布団を引いてもらい寝ることになった。

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