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「翔悟」

 大学の学食は随分な賑わいを見せている。そのせいか冷房が入っているというのに、翔悟はうっすらと汗をかいていた。

「なんだ、優二か」

 人気メニューのクリームシチューを食べていた翔悟は手を止めた。鷺沼優二は同じゼミの学生だ。

 スポーツ推薦で入学した体は健全に引き締まっていて、清潔感のある髪型と服装をしている。爽やかだと女子学生からも好評だ。性格も気さくなものだから、こうしてよく一人でいる翔悟に声を掛けてくる。

「溝口と別れたんだって?」

 優二は翔悟がカミングアウトしている数少ない人物だ。いや、しざる得なかったというのが正しいだろう。大学の空き教室で翔悟が溝口とキスしていたとき、たまたま見られてしまったのである。

「どこで聞いたんだ」

「溝口の奴。三年の大岡さんと付き合いだしたらしいぞ」

「・・・」

 溝口と別れたのは、つい一週間前のことだ。

「まあ、あの手のタイプは恋人がいなかったら死んじゃうってタイプだからさ。可愛い顔してるし、言い寄る相手もたくさんいるさ。気にするなよ」

 翔悟の空気が重くなったのを感じとり、慌てて優二がフォローする。

「そうだ、新しいゲームソフト買ったんだ。今日、翔悟の家でオールしようぜ」

「・・・。今、家には入れない」

「えー、何でだよ。あ、もしかしてもう新しい恋人が出来たとか」

「だったらどんなによかっただろうな」

 翔悟は遠い目をした。あれから陽とは連絡を取っていない。そのうち、仕事でまたいなくなるだろうが、まだ自宅で羽を伸ばしているようだ。

「おいおい、なんだよ隠すなよ。新しい恋人出来たんだろう?翔悟も隅には置けないな」

 勘違いしてしまったらしい優二に肘で突かれる。

 電子音が鳴った。翔悟のスマートフォンに電話が来たようだ。画面に〈日ノ宮カヲル〉の文字が表示されていた。

「はい、もしもし」

「このこの」

「痛いって、優二」

『すみません、お取り込み中でしたか、翔悟くん』

「ち、違います、カヲルさん」

 相手の申し訳なさそうな声に翔悟は鳥肌を立てた。カヲルが何を勘違いしたかすぐに分かったからだ。そうとも知らず、優二がじゃれてくる。

『何でしたら、後で掛けなおしますよ。どうぞ、続けてください』

 翔悟は全力で優二を遠ざけた。

「違います!それに続けるって何のことですかっ」

『もちろん、セッ・・・』

「だから、違いますッ」

 電話越しにくすりと笑われる気配がした。からかわれている。

『冗談はさておき。翔悟くんに謝らなければいけないことがあるんです』

「え、どうしましたカヲルさん?」

『急で申し訳ないのですが、しばらく僕の家を海外から来る友人に貸さなくてはいけなくなったんです。僕もNYに一年ほど転勤で・・・』

「・・・。わかりました、それなら仕方ないですよね」

『本当にすみません。この埋め合わせは必ずします』

「気にしないでください。カヲルさんにはいつもお世話になってるから。友達の家にでも泊めてもらいます」

 電話を切ると、翔悟はそのまま頭を抱えた。

「うううう」

 優二がぎょっとする。

「どうした。また振られたのか」

「違う。・・・どうするかな、急に長く泊めてくれる奴の家なんか思いつかないし。優二、お前って実家住まいだっけ?」

「おう、親と弟妹たちのいるうるさい家だぜ」

「無理かー。はあ」

 こんなときこそ友達のいない根暗な自分が恨めしい。

 また、電子音がなった。今度も翔悟のだ。画面には電話番号のみが表示されているだけだ。

「取らないのか?」

「・・・」

 翔悟はやり過ごすつもりだった。だが、電子音は諦めの悪い子どものように永遠と鳴り響く。

 たぶん、ここで無視しようが切ろうが取るまで鳴り続けるだろう。仕方なく、翔悟はスマートフォンに耳を当てた。

「はい」

『遅い。何分待たせる気だ』

「~じゃあ、メールにすればいいだろう」

『今から指定する食材を買ってこい』

 こっちの都合なんて無視だ。

「俺だって暇じゃないんだ」

『カヲルから連絡が合ったぞ。あいつ、しばらくNYらしいな。お前のことをくれぐれもよろしくってさ。どっちが親子だか分からんな』

「あんたが言うか」

 いっきに険悪な口調になった翔悟に、優二は気になったようだ。

「おい、今度は誰だよ、翔悟」

「いや、あの・・・」

『友達も一緒なのか?・・・ちょうどいい。買って来てほしいもの多いんだ。そいつも手伝わせろ』

「冗談じゃないっ。あんたなんかと会わせられるか」

『ほう、もう新しい彼氏が出来たのか。やっぱり俺の子だな』

「あんたと一緒にするなっ」

『違うって言うんなら連れて来い』

 ぷつりと一方的に切れた。

「だああああ」

 翔悟は呻いた。近くに座っていた女子の一団がぎょっとして身を引く。しかし、翔悟に気にしている余裕はなかった。

「しょ、翔悟?」

 恐る恐る優二が声を掛ける。

「悪い、今から家に来られるか」

「別にいいけど。でも、今日はお前の家ってだめなんじゃ・・・」

「都合が変わった」


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