ライオットガール
いっそ飛んでしまえば良いのに。
そんな考えばかりが過ぎる午前一時二分。四階建てのマンションの屋上には冷たくて気持ち良い風が吹いていた。
一歩、また一歩。この体が空へ近付いていく度に、自由がすぐそこで笑っているように見えた。
鉄格子に手を掛けて小さな体を精一杯持ち上げる。体勢が前のめりになるほどにお腹が圧迫されて苦しい。逃げ出すように体を前に落とした。すぐ目の前に静かな街並みと綺麗な地上の星屑。とても魅力的だ。
深く息を吸って、吐く。何度も何度も繰り返す。
引き返したって良い。今日がダメでも明日がある。明日がダメなら明後日……
「ダメ……ようやく決めたんだから」
ほんの数センチずつ前へ進む。もうここは屋上の縁。その先には壁も鎖もフェンスも人の目も無い。
「お母さん、お父さん、お姉ちゃん、ごめんなさい。ヤコは悪い子です。もうヤコは、疲れたのです」
最後の一歩。出した足の下には何も無い。その先にも、その上にも何も無い。
――これでやっと眠れる。
体が傾いていく。一瞬にして変わる視界。真っ暗な地面しか見えなくなった。
怖い。私の最期を看取る人は誰も居ない。私は一人ぼっちなんだ。これまでも、そして最期の最後まで。
「……やっぱり嫌だ! 死にたくない!」
声を張り上げた。誰かの耳に届くように。そんな我侭、誰が聞くというのだろう。こんな身勝手、誰が救ってくれるというのだろう。
「ほら、やっぱり生きていたいんだ。人間って皆そうなんだよ?」
「えっ?」
体がぐっと持ち上がる。ううん。持ち上がっていない。凄くゆっくりになった。凄くゆっくりと地面が近付いてくる。
「いたっ……」
ほっぺがアスファルトと少し擦れちゃった。
「怪我しないで済んで良かったね」
また声が聴こえた。
「だ、誰? 誰か居るの?」
右に左に、あちこち確認して回ってもどこにも誰の姿も見当たらない。
「ここだよ。ここ」
信じられない気持ちを抑えながら、そっと頭上を見上げた。
「初めまして、私はライオット。せっかくだからあなたを選んであげるわ」
目の前に居たのは20cmほどの大きさの真っ白な生き物。でも宙に浮かんでいる。狼や狐のように鋭く細い顔に大きな口。そして体の半分ほどを占める大きな三本の尾。
そこまでは覚えている。でも、そこからは何も覚えていない。だって、そんな生き物存在しているはずないもの。