「リヒテンシュタイン」 lichtenstein ウイルヘルム・ハウフ作 試論
これは若死にしたハウフの唯一の長編小説である。
私は、古い一冊のこの「リヒテンシュタイン」の邦訳本を持っている。
この本の奥付を見ると発行は昭和19年10月富士出版3000部となっている。
これは1944年、まさに大日本帝国が国家興亡の大戦争を戦っていた真っ只中である。
1945年8月日本は敗戦を迎えることになる。
その10ヶ月前の発行というこの本、よほど軍部に奨励されたかあるいは、慶賀されなければ発行などできぬ時局であったはずだ。しかも外国文学である。
これは内容が歴史物(騎士物語)であること、そしてなによりも、同盟国ドイツ文学であったことが大きい理由だろう。
紙質も粗悪で黄変した紙に活字もうすれたり欠けていたりと最悪な状態。表紙も取れて補修してある。
しかし、読むに不都合は特にない、十分読むことは出来る。そして原書から転載された挿絵もきれいだ。
だがあの当時、戦時下の日本で果たしてこんな騎士道物語を読んでいる余裕なんてあったのだろうか?
210mm×150mmのサイズで全530ページの大冊である。ハウフ24歳の時の作品でこれだけの
長編が書けたのだから筆力はあったといえるだろう。
断崖絶壁に立つリヒテンシュタイン城は今見ても壮麗だが、この城の相続者の末裔がハウフのこの小説を読んで荒れ果てた城を修復仕様と思い立ったという逸話ものこされている。
ハウフには他に、「皇帝の絵姿」「「隊商(岩波文庫)」「悪魔の回想録」「月の中の男」「ユダヤ人ジュス」「ポンテザルの乞食女』などの中編小説がある。
私は「ラウラの絵姿」という翻訳を(大正時代に訳されたもの)を読んだことがあるが詳しい内容は忘れた。
付記。国会図書館デジタルコレクションで全文が公開されていますので読めます
中では「隊商」が特に有名だ。これは岩波文庫にあるので比較的手に入れやすい。
とはいえ今は多分絶版であろう。
「コウノトリになったカリフ」「幽霊船」などを含む好短編の童話が収められている。
「幽霊船」は子供向きの童話とは思えないほどの血まみれシーンも出てきて、これは一種のホラーであろうか?