第2章 2.聖堂の地下
第2章 2.聖堂の地下
この街に入った魔術師たちの目的は何だろうか。
このタイミングに集中して多くの魔術師が集結している。
『この街で良くないことをしようとしている』とナタリアは最初に言っていた。『目的はセージと同じ』とも。
つまり彼らの目的は、この地を統括してきた今は眠る王たちの秘宝だ。自分もまたその目的のために日本からここに来たのだ。
しかし、王の宝は、表に出され公の場に展示される機会もある。
他の魔術師たちはどうだろうか。目指す秘宝は俺と同じなのか、それともそれぞれ異なっているのだろうか。
目的の物が異なるのであれば、極力戦闘は避けたい。
先手必勝を良しとする性格のため人のことは言える義理ではないが、これまでに会った3人は好戦的だった。
一人目は、スーツを来た周りのやつらが拳銃を向けてきた。2人目は問答無用で撃ってきし、3人目はこちらが先に攻撃したが、その前に魔物を出していた。そもそも、すでに人を殺していたのだ。
彼女はこうも言っていた――『沢山の人がセージに会いに来るよ。みんな、死神みたいに怖いの』と――。
これまで、ナタリアの言うことは当たっていた。
沢山の、人殺しの魔術師が俺の前に現れる。戦闘は避けられない運命と考えるべきなのかもしれない。戦わない方法は出会わなければいい。しかし、情報を得るためには、より情報へ得ているかもしれない魔術師に出会う必要がある。求める秘法が、どこにあるのか知らないのだから。
***
「入ろ」
ナタリアはブラウンの髪とスカートをなびかせて進む。
彼女を追うようにして、そびえ立つ城の城門に足を踏み入れた。
城門を潜った瞬間、空気が変わる。聖域の名に相応しい厳格な空気を感じた。
少し歩くと、聖堂が現れる。この時間、多くの観光客が集まっている。
全てを視界に入れることも難しい高さの2つの塔は、この街の至る所から視界に入れることができるほどに壮大だ。
「セージがさがしていた2人のひと。このなか」
ナタリアの指が聖堂の扉を指さす。
彼女の瞳はいつものグリーンから、まばゆいダイアモンドへ変わっていた。
やはり、この子の魔力は絶大だ。背筋に悪寒が走る。
チェーンにつながれた銀のユリのペンダントを取出し胸に抱く。5枚の花弁の先にはグリーン、オレンジ、レッド、クリア、そしてブルーのガーネットがあしらわれている。
「かみさま……」
あどけない口調で神に願う。
神の加護がナタリアを包む。
この地の加護を受けたガーネットの魔術に加え、ナタリアの膨大な魔力から創りだされたベールだ。まず間違いなくそこらの魔術も弾丸も通らない。それどころか、あの男のガーネットすら通じないのではないだろうか。
開かれた扉から聖堂の中に入り、素早く中の人間に目を走らせる。
外と変わらず、多くの人が押し寄せていた。
ステンドグラスに日光が差し込み、色とりどりの模様が聖堂の壁や床に映し出されている。
それらを楽しむ観光客の中に、あの大柄な男と長身の男は見当たらない。
「おく、いこう」
「ああ。ナタリア、気をつけて」
「だいじょうぶ」
奥へ進む。祭壇の前にある地下室へ続く階段を降りる。壁に反響し、足音が響く。
階段を下りると大理石できた地下室が目の前に広がる。
聖堂を支える柱が等間隔に立ち並んでいる。
ここには歴代の王たちが納骨されているらしい。
「いた」
――!
360度を素早く見回す。室内は静まり返っている。誰の気配もしない。
ならば――。
《正位置 剣のペイジ》――探しものを見つける――。
効果時間は5秒未満だが十分だ。再度、360度に目を向ける。
――それでも見つからない。
「セージには観えない?」
「ナタリア、どこにいる」
「あそこ」
指を指す先を見るが――やはり見えない。
ナタリアにだけ見えている?
未来確定の魔術を行使した以上、絶対に見えるはずなのだ。
魔力値が桁違いに違う加護に身を潜ませているというのなら話は別だが、そのようなものも感じられない。
なぜ、ナタリアに見えて、自分には見えないのか。――探しているモノが違う?
――魔眼。
彼女の目は、ダイアモンドの輝きを放っていた。
この子は何を見ているのだ?
「ナタリア、君には何が見えているんだ?」
「……セージがさがしている2人」
どういうことだ……。
いや、この子もいるのだ。俺には見えなくとも、魔眼の持ち主が2人の男はここに居るというのだ。ここは一旦引こう。ナタリアがどんなに強固な結界に守られているとしても、やはり戦闘は避けたい。魔術戦では何が起こるかわからない。