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プロローグ

 叩きつけるような雨音と轟く雷鳴。


 洋館に忍び込んで1時間あまりが経過していた。

 金品狙いの強盗というわけではない。喉から手を伸ばしてでも欲しいものがあった。俺にはある秘宝が必要なのだ。魔術師として魔術を完成させるために。


 ただ、それがどのような形ものかは分からない。けれど、魔術と秘宝とは共鳴しあう。だから見れば分かる。


 それがあるという噂を聞けば、どこへでも行った。

 初めは美術館に足を運ぶだけだった。その後は金持ちが集まるオークション。

 そして今では世界に名を馳せる億万長者やマフィアの屋敷にまで入るようになっていた。


 

 几帳面に手入れの行き届いた廊下を進む。

 曲がり角に差し掛かったとき、角の向こうから女の話し声が聞こえてきた。


「その花瓶は特に旦那様のお気に召すものです。丁寧に扱って下さいね」

「はい」


 テーラードジャケットに仕込んだ投擲用のナイフを意識しながら角を曲がる。

 メイドが2人。片方は新しく入ったばかりだろうか。


 2人はこちらに気付かない。

 手の甲に描いた悪魔バエルの紋章による透過の魔術による効果だ。

 警戒は外さない。簡易的な魔術だ。見える奴には見える。

 

 屋敷の主の部屋だろう。部屋の大きさに違和感を感じた。

 ジャケットに入れたタロットカードを1枚手に取る。


 《正位置 剣のペイジ》――探し物の発見――。


 隠し扉を見つける未来を確定させる。

 ――未来を確定させる魔術。確定できる未来は5秒に満たない先まで。


 カードに魔力を込め360度を見渡し、隠し扉を確定させた未来の通りに見つけた。


 このカードで秘宝そのものを見つけられるなら楽なんだがな。そうもいかない。

 『未来』は数多く存在するが、神の手により既に用意されている。生命は皆、そのどれかに進むだけだ。

 今から5秒先までに秘宝を見つける未来が用意されているのなら俺は難なくその未来をたぐり寄せることができる。

 だが、存在しない未来を創り出すことなど俺にはできない。



 隠し扉の向こうにはまた廊下があった。

 さらに警戒した方が良さそうだ。慎重に先へ進む。

 その先に黒服の男が立っていた。手にはサブマシンガンが1丁。


「てめえは、ここがどこだか分かってるのか?」

「…………」


 見えている。

 この男は、魔術師(、、、)だ。

 男は、銃を構え、俺に狙いを定める。

 銃口の先に、魔法陣が展開。銃弾の加速、威力の増大、または魔弾、どれだろうな。


 男が口を開く。

「死ね」

 お前がな。


 ――[00:00.000]――

 ジャケットに入れた2枚のタロットに意識を移す。

 内胸ポケットの1枚《逆位置 剣の10》――束の間の幸運――に魔力を注ぐ。5秒に満たない未来まで幸運が確定。

 同時にこれまで何度も数え上げた5秒間のカウントダウンが始まる。


 ――[00:00.236]――

 床を蹴り、対峙する男に向かい走る。わずか5秒未満。出来損ないの魔術が効果をなくす前に――。


 ――[00:00.530]――

 男は銃の引き金を絞る。小気味の良いスタッカートのような銃声音。毎秒十数発を数える銃弾が全身を掠めていく。

 走る痛みを無視して男に接近。この幸運の前に、どのような銃弾だろうと恐れるに足りない。


 ――[00:02.354]――

 リズミカルな銃音が崩れ、男から焦りが見え始める。

「ふざけるなァ」

 銃器を持つそいつに対し、こちらは何も持たずにただ走り詰め寄るだけ。

 この男を襲う戦慄は、これまでもよく見てきたものだ。


 ――[00:03.552]――

 ジャケットから1枚のカード《正位置 剣の10》――身動き不能――を取り出し放る。それと同時にナイフを一本、もはや銃を乱射するだけの男に投げ放つ。


 ――[00:04.145]――

 ナイフはカードを突き刺し、ナイフとカードはそのまま男の腹部に突き刺さる。


 ――[00:04.754]―― 

 男が仰向けに倒れる。銃は無作為に弾を打ち出し、弾装を空にして、男の手から落ちる。



 《正位置 剣の10》の効果もやはり5秒未満。けれどそれで十分。

 男に止めを刺し、辺りを見渡す。

 廊下にはいくつもの小さなクレーター。

 威力の増大か。


 もう息をしていない男を背にして、奥にある扉を開け放つ。

 室内には、古代から現代までの宝物の数々が整然と並べられていた。

 ここにはあるだろうか。だが、あまり期待はしていない。

 一つ一つに目を向けていく。


「ち、無いな」


 ここもハズレだ――。


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