決戦の日の朝
宿屋の娘にとっての朝とはまだ日の昇りきらないうちをさす言葉です。
真っ暗な部屋で目を覚ましたことのんは隣接した洗面所で簡単な身支度を整えました。
今日は、あのズガガを倒しにいく予定なのです。
正直ことのんが行っても足手纏いが良いとこなのですが、持ち前の空気を読むスキルのせいで逃げることができません。
こんなヘタレでもことのんは選ばれし勇者なのです。
頬を叩いて気合いを入れるとペチンと間抜けな音が鳴りました。
洗面所をでると侍女に包帯を解かせたタマ様が優雅にブラッシングを受けていました。
タマ様のあまりの美しさに櫛を持つ侍女の手も振るえています。
タマ様の身支度が整うと外からノックの音がしました。
侍女が扉を開けるとそこに立っていたのは美形の魔族。
長く艶やかな黒髪を一つに纏め、魔術師特有の装飾を身につけています。
「では、タマ殿。巨悪を倒しにいきましょう」
にっこり笑って美形の魔族が手を叩くとどこからか道化がパッとことのんに走り寄ってきました。
そしてことのんのポケットから何かを取り出して美形の魔族に渡しました。
美形の魔族が手のひらで転がすそれはどうやらポポロンの町でおじいさんにもらったロケットのようです。