ヘタレの惚気話
ふてくされた美形の魔族と一緒にクラッカーを摘んでいる勇者ことのん。
クラッカーは香ばしく焼けた生地に様々な野菜や果物が練り込んであるので見た目も味も栄養も手の込んだ一品です。
しかし先ほどのやり取りを見た後だと、どうしてもこの美形の魔族に野菜を食べさせるために作られたような気がしてなりません。
「なあ、勇者殿」
二枚一度にクラッカーをかじりながら美形の魔族が話しかけてきます。
気怠げな姿なのに様になるのは彼が美形だからこそでしょう。
「先ほどの話なのだが、わがままは言わない方が、女性は、好きなのか?」
そっぽを向いて下を向いて、長い髪のせいで顔色はほとんど分かりませんがとがった耳の先が赤くなっています。
ことのんはその美形の魔族の態度にピンときました。
この魔族はヘタレであると。
もしくは乙男でしょうか。
ことのんがそうだと言えば目に見えて落ち込みました。
くえないイケメンの面影はもはや跡形もなく、ことのんの滅多に出てこないS性が騒ぎます。
結婚が延びるとか言っていたなと思い出したことのんは、恋人にも嫌われちゃうよとささやきました。
それがとんだやぶ蛇だと気づいたのは魔族が目を輝かしてのろけ出してからでした。