氷と鎖の魔術師
王女様を救いにいくはずだった勇者ことのん。
まだ城下町なのに早くもピンチのようです。
男が伸ばした腕の周りに冷たい風が溜まっていきます。
男はおそらく氷の魔術を使うのでしょう。
魔術師さんが氷に強い炎の魔術を使おうとする一方で、剣士さんは魔法が放たれる前に終わらせようと男に向かって走り出しました。
勇者ことのんは心の中でだけ二人を応援していました。
剣士さんの繰り出す剣戟を男の周りを這いずる鎖が絡め捕ります。
男の手にあった魔術が完成する瞬間、剣士さんは見事な体捌きで後ろに下がり、炎をその両手に纏った魔術師さんが男の前に躍り出ました。
剣士さんは鎖と戦いながら魔術師さんが男から見えないよう隠していたのです。
魔術師さんの高らかな呪文の詠唱とともにオレンジの炎は男に襲いかかりました。
後ろにいたことのんにもその熱気は伝わってきます。
男の魔法が魔術師さんの炎の魔法に負けて、狭くない部屋の室温がぐっと跳ね上がりました。
「くそっ、魔王様の婚姻に生け贄が必要なのに!勇者ことのんめ、覚えていろ!」
念のため言っておきますが、勇者ことのんは今回何一つ活躍していません。
抜いただけのタガーナイフがちょっと悲しげでした。
炎の魔法は氷の魔法に対して効果抜群なようです。