儚いものは美しい
「だからタマ殿は爪を研ぐ。確実にズガガを滅ぼすためにな」
美形の魔族は口元に笑みを浮かべます。
「ズガガとなったタマ殿はさらに美しくなるだろう。天の神が作り上げたその美貌にズガガという邪悪が混じるのだ。影が濃くなればそれだけ光は輝きを増すものだ」
いかにも楽しそうに美形の魔族は語るのでことのんは一歩引きました。
儚いものが美しいと言う価値観は永久を生き、死ぬことのない強靱な肉体を持つズガガが邪悪であるのと対になる考えです。
短い命を持つ生き物と脆い体を持つ魔物は大きく文化が違うため善悪も価値観も互いに相容れませんが、ズガガが赦すべからざる悪であるという一点においては共に手を取り戦うことすら辞しません。
それこそ遙か昔の約束を守るほどに。
ことのんが美形の魔族にタマ様もがズガガになるのなら、タマ様も命を食べるようになるのかと聞けば違うようです。
タマ様が受ける処方はズガガに近づくだけで、ズガガそのものになってしまうわけではないようです。
技術や理論的な詳しいことはわからないそうです。
ただ、もしズガガがそのものになってしまうならば、森の中の屋敷にいた主人のように自我すらなく生き続けることになってしまうそうです。