馬車にゆられて
タマ様と一緒にズガガが引く世にも珍しい馬車に乗り込んだことのん。
傲岸不遜な美形の魔族は片手をひらりと翻すと転移魔法で先に行ってしまいました。
黒ずくめの男は御者となっているので狭い馬車の中はことのんとタマ様だけです。
タマ様はその宝石のような目を閉じ、すっかりリラックスしているようです。
二人っきりの沈黙に耐えきれないことのんは別れた剣士さんと魔術師さんに助けてと、真剣に思いました。
魔族のうじゃうじゃ居るだろう場所に向かってことのんがいったい何をできるというのでしょう。
ことのんよりもタマ様の方がずっと強いのは明白です。
ズガガのひく馬車は時折浮遊感を感じさせながら進みます。
窓の外をのぞくと羽を持つ魔物が併走していました。
うち一体とパッチリ目のあってしまったことのんはそそくさと窓から視線を逸らします。
そして口には出さないものの、ことのんには不安がありました。
太古より恐れられているズガガにさらわれてしまった『ぬっこぬこの会』の会長様。
タマ様がズガガとなり助けに行くまで会長様は無事でいられるのかと。
おそるおそるタマ様に訪ねると、視線をやるのも煩わしいのかその優美な髭を一度だけそよがせるだけでした。