交渉の甘言
唄うように言葉を連ねる魔族をタマ様はそのエメラルドの目で見つめます。
「知っているだろう、タマ殿。ズガガを殺せるのはズガガだけ。しかし、それでは、タマ殿のその無念は晴らせない」
バシリと鋭い音が鳴りタマ様の尻尾がしなりました。
じれたように目を細めその鋭い牙がかすかに覗きます。
「あなたにズガガを殺す爪と牙を渡せるといったら、あなたは対価として何を差し出す?」
どこか甘美な魔族の囁きにそんな事は出来っこないと叫んだのは魔術師さんでした。
度重なって魔法を破られた反動でボロボロになっていた腕はすでに治療されています。
ズガガを殺せるのはズガガだけ。
その魔族が言っていることはタマ様を何らかの方法でズガガへと変えるということに他ならない。
その研究が無惨な成功に終わっているのを私たちは森で見たのだ、と。
ことのんは白濁した液体となった屋敷の主人を思い出しました。
あれですら成功と言われるのです。
魔族の言っていることは荒唐無稽に思えました。
「魔術師。それは所詮人間の魔力で行った研究だろう。そして個人の好奇心程度の研究だろう。だが、我らは違う。強靱な肉体を我ら魔物がどれほど切望したか。ズガガの研究は完成している」