美形の魔族
真っ黒な大きな翼。
禍々しい黄金の角。
雲母のように輝く黒髪。
大理石よりもさらにきめ細かい肌。
そして何より見るものの魂を吸い込んでしまいそうな紅玉の瞳。
銀の刺繍が散りばめられたローブを纏うその魔族は美形でした。
誰もが口をそろえて断言できる美形でした。
タマ様が神々の芸術ならその魔族は悪魔が人を堕落させるために造り上げた幻のようです。
禍々しくも人の目を捉えて離さない引力のような魅力があります。
よく考えれば先の怒鳴り声も美声でした。
あの声とこの顔なら罵られてもいいかもしれないとことのんはちょっと思いました。
魔族の男が一歩前に進みます。
周りにいた人々はまるで気圧されたように一歩引きました。
ゆっくりと足を進めるその姿はどこか優美です。
彼はそのまま真っ直ぐにタマ様の前へ歩み寄ると簡単な立礼をとりました。
「世を惑わすほどの美貌を持つ猫。そなたがタマ殿か」
タマ様は視線だけをそちらへ向けて何も言いません。
「うちのものが肝心なときにした不手際を『ぬっこぬこの会』との交渉の材料としようか。タマ殿、会長殿を救いたくはないか?あのズガガが憎くはないか?その牙で、爪で切り裂いてやりたいと、そうは思わぬか?」