凍った空気に砕氷船
クスリと道化は笑うとそのまま人混みに紛れてしまいました。
あれだけ響いていた鈴の音も消えてしまっています。
いくつもの視線がことのんに集まりました。
誰も何もいいません。
誰も何もいえません。
その場にいる誰もが奇妙に沈黙する空気の中、指一つ動かすことが出来ませんでした。
人々の焼けるような視線を一身に受けることのんの血の気が引きます。
もうちょっとで貧血になりそうです。
静かに輝くタマ様のエメラルドの目に映る表情を読み取れず、ことのんはただ叱られるのを待つ子供のようにじっと息を潜めるだけでした。
「この、馬鹿者ーッ!」
そんなシリアスな空気も読まず、場をつんざいたのは怒鳴り声。
水平にぶっ飛んできた男は見事にことのんとぶつかりました。
「『ぬっこぬこの会』会長殿がズガガにさらわれただと?この無能どもが。聞いて呆れるわ。それでも魔王直属の部隊か!私が直接行った方が早いし確実だった!これで私の結婚が伸びたらその分給料からさっ引くぞ!覚悟しとけよ」
ことのんにぶつかってきたのは金歯のくせに襤褸を纏っていたあの男。
その場にいた人たちが男の飛んできた方向を見ると、魔法を使ったままの体勢でふんぞり返る美形がいました。