蛇に睨まれた蛙
辺りには倒れ伏した多くの人々。
魔力の多い人がより強い影響を受けたのでしょう。
哄笑の影響を受けずその場に突っ立っていたことのんは、ニヤリと笑うズガガと目が合いました。
ザワリ、ザワリとことのんの背筋が泡立ちます。
頭の中が真っ白になったことのんにはズガガしか見えませんでした。
くわりと大きく開けたズガガの口。
その中に、まるで見せびらかすかのようにずらりと並んだ鋭い牙。
そして脳を強く揺さぶる奇妙な音階を伴う哄笑。
ズガガガガと特徴的なその声一つで、先程まで堅固に見えた魔術師さんの金の糸が震えるようにしてゆるみました。
「危ない、ことのん!」
ズガガの前で棒立ちになっていたことのんの手を引いたのは、会長様でした。
その力の強さに、硬直していたことのんはバランスを崩して倒れ込みます。
受け身もとれずことのんが強かに体を打ち付けた瞬間、突風がことのんの頭上を走りました。
その一拍遅れて響いたのは悲鳴。
さらに遅れてガラスの砕けるような魔法の強制解除音が儚げになりました。
周りの視線に促され見上げたことのんの目に映ったのは、すでに空高く舞い上がったズガガと、まるで荷物のようにその足からつるされている会長様でした。