初めての転移魔法
がっつり奪われた体力を、魔術師さんの魔術で何とか立ち上がるところまで回復したことのん。
いまだ足下は覚束ないですが、ことのんは踏ん張りました。
そんなことのんの様子をじっと見ていた執事さんは、不気味につり上がっていた口元を戻し姿勢を正しました。
病的な肌の色さえなければ、ロマンスグレーなおじさまな気がしないでもありません。
「では、外へ案内いたしましょう。どうぞこの陣の中へ」
そう言って指し示されたのは床の上にキラキラと描かれた魔法陣。
ことのんたちがその中央に乗ると、淡い輝きとともに視界がゆがみました。
シェイカーで力任せに振られたような浮遊感が収まると、ことのんの頭は痛みを訴えてきます。
こんな衝撃を受けるようなモノを、あの黒尽くめの男や美少年魔族は使っていたのかと思うと、尊敬の念すら抱きます。
しかし両隣をことのんが見ると、剣士さんも魔術師さんもしっかりと立っていて別に不調はなさそうです。
ことのんの魔法に対する抵抗力の低さはこんな所でも発揮されるようです。
あんなに歩いた部屋からお屋敷の玄関までを、一瞬で移動した魔法陣。
こんなにも便利なのに自分だけ使えないとわかり、ことのんはひっそり涙を流しました。