どんなものにも使い用はある
目の前で劇的に変わっていく光景に、ことのんは呆然と見入っていました。
あの溢れようとしていた白い水は、たしか執事さんの我が主で、ズガガだったはずです。
それがどうしてこうも簡単におとなしくなったのかサッパリでした。
「確かにいただきましたよ。我が主も満足していらっしゃるご様子」
あんなにも怖かった執事さんの顔も、だらしなくにやけてしまっては威力減です。
意味が分からないと、力が抜けてへたり込んだままのことのんは、説明を求めて声を上げました。
そっと近づいた魔術師さんがことのんの肩に手を当てます。
その触れた場所からじんわりとあたたかい何かが流れてきました。
この感覚にことのんは覚えがあります。
よくお世話になっている疲労に対する回復魔術です。
あの金色の液体は執事さんの言った体力と魔力だったのでしょう。
魔術に対する抵抗力の低い普通の人間なことのんは、攻撃魔術はもちろん回復魔術もよく効きます。
気絶する寸前まで体力を奪い取ってしまっても、一番簡単な回復魔術でお釣りが来るというお手軽さです。
剣士さんや魔術師さんでは、こうはいかないので渋々ながらも納得です。
どうにも捨て駒的な役割であるのは気のせいでしょうか。