生け贄という名の餌
決して高くない岩を剥き出しにした天井に、届かんばかりに大きく持ち上がった白い水。
水が溢れるのを押しとどめるのは無数の魔術。
池の傍らに立つ、明らかに狂った目をした執事さん。
肌を刺すような緊張を纏う剣士さんに魔術師さん。
そんな中、ことのんはただ立ち尽くすばかりでした。
無力ってツラいネ。
「我が主は神になられた。我が主は、ズガガになられたのです!」
ピュッとことのんの喉を空気が滑り落ちていきました。
首筋がざわざわと逆立ちます。
ことのんが剣士さんのようなショートヘアーだったなら髪の毛が一本残らず逆立っていたでしょう。
ことのんはどうして執事さんがことのんたちをこの部屋へ入れたがっていたのか納得しました。
ズガガの主食は命です。
ことのん含めて三人分の命を彼の言う主人の餌にしようとしているに違いありません。
剣士さんが剣を低く構え、魔術師さんが杖を掲げます。
ことのんも逃げる準備はばっちりです。
「おや?よもや逃げようと言うのですか?あなたがたは我が主に恩がある。一晩の宿と一飯の恩が。それを仇で返すおつもりですか?」
にたりと笑う執事さんの口はその笑みが深まるとともに、目尻にまでつり上がっていったのです。