羽をはやした少年
息を潜めたことのんたちと壁一枚へ立てた向こうで、相変わらず少年の哄笑が響きます。
「でだ。壁の裏にいるお前等も出てこいよ」
どうやらバレていたようです。
剣士さんと魔術師さんは勇ましく躍り出ました。
ことのんはおっかなびっくり顔を覗かせます。
少年は柔らかな茶色の髪に、大きなハシバミの目で笑っています。
「人間ごときが。よくこの場所がわかったね?」
少年の問いに答えることなく、剣士さんが腰から剣を引き抜き、上段から少年に向かって切りかかります。
ガキンッと重い金属のぶつかる音が弾けました。
剣士さんの力強い剣を受け止めたのは、少年の背中からはえた四枚の銀色の羽。
少年は人型の魔物でした。
その羽はまるで昆虫の羽のようなのに、剣を受け止めてなお形を歪めることすらしません。
「生意気だね」
秀麗な顔を歪めて少年が剣を弾くと同時に、その四枚の羽が刃のように剣士さんを襲います。
巧みな剣裁きで剣士さんが対応するものの、圧倒的な手数の差にジリジリと圧されていきます。
魔術師さんは手の中で魔法陣を展開させ、いつでも魔法を放てるようにしています。
少年が後一歩でも末娘さんから離れれば、その魔術が放たれ、少年を襲うでしょう。