さらわれたのは末娘
襤褸を纏った男がことのんに伝言を預けた瞬間、悲鳴が聞こえました。
場所はおそらくコンテスト参加者の控え室。
男を突き飛ばすようにしてことのんはその場所に走ります。
たどり着いたその場所でことのんがみたものは、袈裟懸けに切り捨てられた護衛と執事。
腕を折られた二人のメイド。
そしてさらわれてしまった末娘の靴の片割れでした。
「これは、一体どういうことだ!私のかわいい末娘はどこに行ったんだ!」
叫ぶ領主様の言葉にことのんは我に返り、襤褸を纏った男の姿を探しましたが悲鳴で混乱している雑踏に紛れたのか影すら見えません。
ことのんは先ほど男の言ったことを領主様に伝えました。
「百万…!一地方領主の私がそんな大金を簡単に用意できるわけがないっ!くそ、どうすれば」
「ご安心なされよ、領主殿」
悲嘆にくれる領主様を一喝したのは、ことのんたちとともに馬車にいたあの老人でした。
「今日この日で幸運でございましたな。領主様、ここにおられるこの女性が一体どなたかお忘れいたしましたか?」
ことのんはものすごくイヤな予感がしました。
領主様はその顔をぱっと上げてことのんをみました。
「勇者ことのんよ!私のかわいい娘を救い出しておくれ!」