「禁忌」の「力」その②
翌日、自宅に中目封戸が訪れた。どうやら自分の持っている「鎖」について話を聞きたいらしい。ここで断って強行突破して逃走することも考えたが、そんなことをして向こうが抵抗でもしようものなら、恐らく鎖がそれに反応してこの人を殺すだろう。なのでここはこの人と自分の為にも事情聴取に応じることにした。自分は事の経緯を正直に話すと中目という人は何処かへと連れて行くと言った。自分の運もここまでかと思い車に乗り込み19分程走り到着したのは大きな古風な門だった。中目さんはこの奥で自分を探している人がいるらしくその人次第で対応を考えるとの事。その言葉に素直に従い門をくぐり中へと進むと「the洋館」のような屋敷が佇んでいた。恐る恐る入り案内された部屋へ入る。そこにはゆったりとした雰囲気の青年がいた。その人は外見からして同い年位。しかし自分よりも頭が何倍も良さそうな感じだった。とりあえずその人の指示で座り鎖について話した。「それで?その鎖は君にとってどうなの?」「いや…その」その人は目の前に座ると微笑みながら語りかけた「別に怒っている訳じゃないんだ。実を言うとその鎖はねぇ人を直接助けたりしないはずなんだよね」「というと…その…伸びたり動いたりしないってことですか?」「うん。この鎖は所有者に幸福や幸運ももたらすだけで不幸に巻き込まれたら他の幸福で補われるんだよ」「つまり多少不幸は食らうってわけですか?」「そうだよ。なのに君は幸運ばかり起こるし能力者に襲われたら鎖が助けるし本当不思議だよ」その人は自分の手首に巻かれた鎖を撫でるとまた微笑み姿勢を整えた「そこで一つ君に提案があるんだけど、私と共にこの国に蔓延る脅威に立ち向かってくれないかい?」「脅威?」「正直ね君のことを最初は倒してでも鎖を回収するつもりだったんだけど、こんなにも鎖に懐かれてるんじゃ回収しようがないし。あと鎖がそんな感じで落ち着いてるなら別にいいかなって」自分は鎖に目をやりこれも幸運なのかと思い安堵した。そのままその人のいう「脅威」について説明を受けた。どうやらこの国には能力者を超えるやばい奴らがいるらしく、最初のうちは形を保っていなかったが日に日に形をしっかりと持ち能力も強化されていっているという。自分はその「能力者」とかいう存在ではない為、現実感がなさすぎて半分くらい何を言っているかわからなかったが、やらなきゃいけないという事だけはよく理解できた。屋敷を後にし帰宅しようとした。すると電車が止まっているらしく足止めを食らってしまった。「こういう時に幸運とやらが起こって欲しいもんだ…」しばらく待っていると線路に誰か歩いているのが見えた。人混みを搔き分け覗き込んで見ると両手に血だらけの駅員を2人、制服の襟を掴み引きずってホームへと歩いてきている様子が見えた。その様子を見てホームにいた人々は悲鳴を上げ一気に改札へと逃げて行った。「なんだよあいつ…」そのころ尊は中目へ愿太郎の生死の有無を電話で伝えていた。「彼はかなり鎖に侵食されているが何故平気なのかわからない。だけど今すぐに殺す必要はないよ」「了解しました。では監視の方は継続させますので」「うんよろしくね」電話を切りテレビを付けると電車が止まっているニュースが流れていた。「これほど公共交通機関の歴史は長いのに…未だにこういう事があるんだなぁ…」そう呟きテレビを消すと使用人に晩御飯の調理をお願いした。「今日はカレーにしてくれ」駅では迫りくる男とそれを見つめる愿太郎の姿が監視カメラに映っていた。「恐らくこいつは俺がやるべきシチュエーションってことか?」いつの間にか右腕に巻かれた鎖を見ると線路へと降りた。ホームにいた駅員は愿太郎に呼びかける「お客様!危険ですのでホームへお戻りください!お戻りください!」しかし愿太郎は駅員を一瞬だけ見ると男へと突き進む。「駅員さん逃げな。ここは俺がやる!10分くれ!10分で電車を動かせるようにしてやる!」その言葉に駅員は謎の信頼を感じその場から逃げた。愿太郎は男の服の模様がしっかりと見えるくらいの位置まで近づくと右手を大きく突き鎖を放出した。更に左手腕からも鎖を出し薙ぎ払うように手を振り横から強烈な一撃を浴びせようとした。しかし男は駅員でそれをガードしがら空きになった愿太郎の方へ突っ込んできた。男が歩くと線路に落ちていた金属片が浮き上がり離れると落ちた。「金属を操る系か?磁石にでもなってるのか?だとしたら俺の鎖はどうなんだ?」そう思い試しに一本放つと男の前で止まってしまった。(くそ!あいつは『天敵』というわけか。しかしどんな能力も必ず突破口というものがあるからなぁ!やってみれば何とかなるかな)すると男は腰に巻いていた有刺鉄線を空中へ投げた。「そうだ…お前の予想通り俺の能力は磁力だ。だが漫画やアニメみたいに細かな精密動作性はない。俺の能力は引き寄せ弾き出すだけだ。」「じゃあ楽勝じゃねぇか!俺の鎖には勝てねぇ!」男はほくそ笑むとギロリと睨んだ「俺はお前みたいな根拠のない自身に満ち溢れた若いやつが大嫌いなんだよ。俺みたいな50代半ばのおっさんを裏でコソコソバカにしてんだろクソが!」「何言ってるんだ?それとこれは話が別だろ」「別じゃねぇよ!そういう考えが少しでもあるなら俺のことを倒すのも少しの心も痛まずにできんだろぉ?社会をナメたクソガキがよぉ!俺は!てめぇをぶち殺す!」すると男は磁力の力を強め空き缶や釘を弾き出し始めた。愿太郎は鎖で防御しようとしたが男の強すぎる磁力が鎖を引っ張り、どう防御しようと男に向けて伸び切ってしまいどうにも防御できない。「くそ!引っ込めようにも強すぎて無理だ!どうにかこいつを!この鎖が伸びきった状態で倒すしかない!」次々と襲い掛かる金属片を回避しようとするが両手をほぼ拘束状態のため身体を捩ることしかできず何発かは食らってしまった。「くそ!どうすりゃ!」「もっと社会の厳しさを知れ!そして!年長者を敬いやがれ!クソガキ!」「お前」「…!なんだ!お前だと!俺の名前は石田拓郎だ!」「じゃあ石田。年長者だからって敬われるわけじゃないんだぞ。敬われる年長者というのはな!それ相応のことをしてそれ相応の人間性を持ち合わせているんだぞ!お前はそれ相応のことをしたか?」「してやった!おれは有名大学にも入った!色んな賞も取った!何回も個展を開いた!ほら!敬いやがれクソガキ!」愿太郎はため息をつき石田を睨む「それは全部『自分のため』だろ?誰かのためにやらなきゃ!それはエゴだ」石田は更に磁力を強め周辺に落ちていた金属片を先ほど以上の数を弾いた。「俺って人間は!この力がなくても負けねぇが!この力でもっと無敵になる!」愿太郎は勢いよく飛び上がった。「あんたが磁力なら俺を吸い寄せられるよな」「何言ってんだ!」「あんた人によって態度変えるだろ?正解だろ?俺そういう人間大嫌いなんだよね~」そういうと愿太郎の身体が石田の方向へ物凄い速さでよく引き寄せられていく。「なんだとてめぇ!」「俺は今鎖を引っ込められない。なにせあんたの磁力が強すぎてな。だから出すことにしたんだ鎖をよ」石田は愿太郎の着ていたシャツが少し盛り上がっていることに気が付いた。「まさかお前!全身に鎖を!」「あぁ!俺はクラピカとかそういう鎖使うキャラみたいに賢く使えないからな!こうやってバカ正直に使ってやるぜ!」「まずい!それ以上速く来られたら!しかも重みが乗っかっていたら!多少…!」石田の顔面には愿太郎の蹴りが炸裂した。「そうだよな…軽いものなら反動無く引き寄せられるが…重みがあるなら多少反動が来ちまうよな…速さが乗った分!強い反動が!」「ぐえぇぇぇ!」石田は後方へ吹っ飛び頭をぶつけ気絶した。浮かんでいた金属片も落ち鎖も愿太郎の方へ這いずり戻ってきた。スマホを出し時間を見ると8分が経過していた「2分巻いたな…さてとこいつは線路脇の茂みにでも捨てて置こうか。というか有刺鉄線出したんなら使えよ」そうしてホームに戻り改札付近に避難していた駅員に告げた「8分だ…8分に短縮しておいた」ホームへとよじ登る愿太郎の背中に駅員は深々と礼をした「…あ、ありがとうございます」その様子を見ていた中目は愿太郎の前へと立ちはだかった「尊様がお前を生かしておくと判断されたが…俺からしてみればお前の能力…いや道具か?それは使い方次第では善になるが一歩使い方を誤れば悪だ」「俺は!この力を悪用なんか!しかも俺が使えば安全だ!」「お前では制御しきれていない。現に今お前は一人の男を気絶させた。あの様子じゃ当分目は覚まさないだろう。それほどの威力を出す鎖のどこに安全性があるんだ?」中目の鋭い目つきに愿太郎は萎縮したが負けじと反論する。「俺だって!この鎖のせいで変なことになっているのはわかっているし!簡単に保証できるほど安全じゃないのもわかっている!だけど!この鎖を必ず使いこなしてやるんだ!だから!俺を認めてくれよ義兄さん!」その言葉に中目は大きく首を傾げる「義兄さん…?そういやお前名前は確か…源とか言ったな」「…俺のことを知っててこうしてるんじゃないのか?姉さんに危害を加えさせないために」愿太郎は必死に自分の顔を指さしながら訴えた「…あ」「まさか忘れてたの⁉俺ですよ!源愿太郎です!」「あぁ…どこかで見たことある顔だと思っていたが…そうだった…そうだ君は愿太郎くんか…」中目は頭をかくとしばらく考え込んだ。その後中目はどこかへ電話をかけると愿太郎の腕を引っ張り車へ乗せ何処かへ運転を始めた。「あの…義兄さん…」「飯食ってけよ疲れたろ?」「いいんですか?」「あぁ久しぶりに会ったし色々話したいし」「ありがとう…ございます」中目の住んでいる部屋へ入ると姉が物凄い笑顔で出迎えた。「おかえりなさい~!愿太郎も久しぶりぃ!」「姉さん久しぶり」リビングには豪華な夕飯が並べられており準備は万端だった。「二人共どうしたの?どうして会ったの?」「あ~いやたまたまね」「うんたまたまです」「そっかぁじゃあ食べよ!」「いただきます!」三人の声が揃った。テーブルにはカレーを中心に、色とりどりの料理が並んでいる。湯気と一緒に立ち上るスパイスの香りに、愿太郎はふっと息をついた。「……なんか、安心するな」「でしょ~?」姉が嬉しそうに笑う。「今日はちょっと頑張ったんだからね!」「マジでうまいよ」素直に言うと、姉はさらに機嫌を良くした。中目はそんな二人の様子を見ながらゆっくりとスプーンを動かす。「……さっきまであんなことがあったとは思えないな」「ですね」愿太郎は苦笑する。しばらくは、穏やかな時間が流れた。テレビの音。食器の触れ合う音。他愛のない会話。その全部が妙に現実感を持って胸に落ちてくる。ふと、愿太郎は右腕を見る。鎖はいつも通り静かに巻き付いていた。さっきまでのような暴れ方も、妙な気配もない。まるで何もなかったかのように。スプーンを持つ手が少し止まる。「愿太郎?」姉が不思議そうに顔を覗き込む。「あ、いや……なんでもない」「ならいいけど。ちゃんと食べなさいよ?あんたすぐにカップ麵とかカロリーメイトとかしか食べなくなるんだから」「わかってるって」中目がそのやり取りを見てふっと小さく笑った。「昔と変わらないね」「何が?」「愿太郎くんが怒られてる様子」「そうですか?」三人の間に、少しだけ笑いが広がる。その時。愿太郎の手首で、ほんのわずかにカチ、と音がした。「……?」一瞬だけ視線を落とす。だが鎖は、変わらず静かだった。気のせいかと思い、顔を上げる。「どうしたの?ていうかそのブレスレットいいじゃない。どこで買ったの?」「いや、なんでもない」再び食事に戻る。カレーの温かさが、じんわりと身体に広がっていく。窓の外では、いつも通りの夜が流れていた。人も街も何も変わらない。けれどそのいつも通りの裏側では何かが確実に動き始めている。そんな気配だけが静かに残っていた。愿太郎はスプーンを置き背もたれに軽く体を預ける。「……まあいいか」今はただこの時間だけでいい。「おかわりある?」「あるわよ~!」姉の声とカレーの匂い。それだけで十分だったのかもしれない。「愿太郎くん。後で話したいことがあるから部屋までいいかな?」「はいわかりました」夕飯後皿洗いを終えて中目の部屋へと入る「というわけでその鎖のことなんだが引き続き監視させてもらいたいんだ」「監視ですか」「そう。でも日常生活には支障の無い程度に済ませるから」しばらく考え込んだ後決心をした「はいわかりました。でもさすがに家の中にカメラとかやめてくださいよ?」「流石にそこまではしないよ安心して」愿太郎が帰宅後中目は本部へ連絡をし調査を進めた。「あの鎖が今の所味方でよかった…大変な事に巻き込まれたな…愿太郎」そう一言天井に呟くと仕事を続けた。




