「泣き虫天使」と「超絶紫電」その①
聖フィーリス女子学園
暁が誇る国内最高の教育機関である。東京都23区同等の土地を持ち学園エリアと居住エリアに分けられている。学園専用の地下鉄やモノレールなどのインフラも整備されている。年間施設費は13兆円を超えており国民も高額な施設費に苦言を呈している。しかし聖フィーリス学園は単なる教育機関ではない。それは暁という国家の「未来そのもの」を「選別」し「育成」し、そして「巣立たせる」ための重要な「エリア」なのだ。学園エリアの中心には空を貫くようにそびえ立つ本校舎「セラフィム・タワー」が存在する。その高さは地上数百階に及び上層に行くほど選ばれた者しか立ち入ることができない階層構造となっていた。「下層」は「一般生徒区画」ほとんどの生徒はここに分類される。「中層」は「成績上位者および特待生区画」全体の12%がここに分類される。「上層」は「選定者」と呼ばれる、ごく限られた存在のみが入ることを許された領域である。上位0.1%の生徒がここに分類される。そして「最上層」そこには公式記録に存在しない「第零層」があると噂されていた。学園での教育は通常の学問に留まらない。「戦闘術」「諜報」「心理操作」「異能制御」さらには「次元干渉理論」と呼ばれる禁忌に近い分野まで扱われている。特に暁元年に現れた多次元侵略者「イエス・■■■■・アルケミスト」との戦い以降、学園のカリキュラムは大きく変質した。「敵はこの世界の理から外れている」それが学園の基本思想であり、生徒たちは現実を超えた戦いに適応することを前提として教育される。居住エリアは一見すると理想都市そのものだった。治安は完全に維持され犯罪発生率はゼロに等しい。AIによる全域監視、ドローン警備、そして生徒自身による自治組織が秩序を保っている。しかしその裏側では、「選別」が日常的に行われていた。「成績」「適性」「忠誠度」「精神安定性」あらゆる指標によって評価された生徒はランク付けされ、一定基準を下回った者は静かに姿を消す。「退学」という表向きの処理。だがその後の行方を知る者はいない。学園の頂点には「理事会」が存在する。その構成員は公表されておらず、顔すら知られていない。ただ一つ確かなのは、彼らが暁の統治者である「尊」と何らかの関係を持っているということが一部では「聖フィーリス学園こそが暁の真の中枢である」と囁かれている。そして今年。例年とは明らかに異なる動きがあった。入学者の中に観測不能の「異端児」が一人紛れ込んでいた。如何なる記録に存在せず過去も未来も読み取れない存在。その生徒の名は「神代ライア」彼女は入学式の際に理事長が話している壇上に乗り上げると高らかに宣言した「このあたしが‼この学園の生徒会長ぶっ倒してやらぁ‼」入学生は困惑し他の教員も止めに入ったが彼女はそれらを振り払い、背負っていたエレキギターを演奏し始めた。演奏するたびに彼女の結ばれた銀髪は激しく揺れた。その演奏はプロほどでは無いが抑圧された緊張感をぶち壊すには十分すぎるほどの演奏だった。当初困惑していた生徒も次第にノリ始め演奏終了後には大歓声に包まれていた。しかしその空気を一気に凍てつかせた存在がいた。それが聖フィーリス女子学園生徒会長2年の「金糸雀ケ原・アテネ・イリア」だ。アテネは長い黒髪を右手で払うように整えるとライアの演奏を「不潔で侮辱的」と一蹴し学園の理念と抱負を淡々と語り始めた。アテネはスピーチを終えるとライアを睨み付け説教を始めた。「あなた…一体どういうつもりなの?ここは神聖な入学式よ?こんなことして恥ずかしくないの?制服も着てないし部外者か何かかしら?」ライアは圧倒されつつもニヤけながら反論をし返す「あたしは神代ライア‼今年入学の一年だ!それにあんたみたいなお堅い真面目ちゃんにはあたしの演奏はわかんねぇよバーカ!」アテネは若干のイラつきを覚えるもライアの腕を掴むと背中から天使のような蒼白い翼を生やし何処かへと飛び去っていった。その光景に会場の全員が驚愕したが、理事長は得意の話術で場を落ち着かせ何とか入学式を終えることができた。飛び去ったアテネはライアを誰の目にも付かない屋上へ連れて行くと再び説教を始めた。「というか何なのですかあの宣戦布告とも取れる発言は」「言葉のまんまだよ会長さん」「なら今ここでやってもよろしくて」アテネは銃のハンドサインを組むとライアもギターを構えバチバチと紫色の電気を発生させた。一触即発の雰囲気の中、ライアはアテネに近付きニヤリと笑う。その瞬間ライアは尋常ではない速さの演奏テクニックを見せると周辺に漂っていた電気が増強し始めアテネに襲い掛かった。最初は無暗に打ち放つ攻撃だと思っていたが回避していく度に追尾している事に気付き、アテネも全力で応戦をした。アテネの手から放たれる矢のようなオーラの塊はコンクリートをいとも簡単に破壊する程の威力を誇る。聖フィールス女子学園には多くの能力者がいるがアテネに勝るものはいない。年に何度かは決闘を申し込まれるがどれも秒殺している。それほどの力を持つアテネもライアにはかなり苦戦を強いられた。屋上に轟音が響いた。紫電と蒼白の光がぶつかり合い、空気そのものが悲鳴を上げる。コンクリートはひび割れ手すりは衝撃で歪み、周囲の監視ドローンが一斉に警戒態勢へ移行した。だがそのすべてを無視するかのように、二人の戦いは加速していく。「ちっ……!」アテネは舌打ちをした。目の前の少女「神代ライア」の攻撃は、ただの電撃ではない。「音」に同期している。演奏のリズム、テンポ、強弱。それらすべてが電撃の軌道と威力を制御している。(ただの異能じゃない……「制御系統」が異常すぎる……!)アテネは瞬時に理解する。この女は、「戦闘のために音楽を使っている」のではない。「音楽そのものが戦闘」になっている。「どうしたよ、生徒会長様ァ!!」ライアは笑う。指は止まらない。弦は鳴り止まない。ギターから放たれる紫電は、まるで意思を持つかのように空間を駆け巡り、逃げ場を封じていく。「避けてばっかじゃ勝てねぇぞ!!」その瞬間。アテネの瞳の色が変わった。冷たい蒼から「透き通る白」へ。背中の翼が一際大きく展開し、羽一枚一枚が刃のように鋭く輝く。「調子に乗りすぎです」静かな声だった。だが次の瞬間、彼女の姿は消えていた。「どこいった?」ライアの視界から、アテネが完全に消失する。次の刹那。ドンッ!!凄まじい衝撃がライアの腹部を襲い、その身体は数十メートル吹き飛ばされた。屋上の床を転がり、壁に叩きつけられる。「ぐっ……ははっ……いいじゃん!」それでもライアは笑っていた。口元から血を流しながら、ギターを離さない。「今の……いいじゃん……!」「これで終わりにしましょう…『天位解放・第一階梯』」アテネはゆっくりと歩み寄る。その周囲の空間は歪み、重力すら彼女に従っているかのようだった。「これで終わりです」右手を掲げる。光が収束する。矢の形を取るそれは、先程とは比べ物にならない密度と威圧を放っていた。しかしライアは立ち上がる。フラつきながらも、笑いながら。「はは……最高だよ……」ギターを構える。今までとは明らかに違う構え。低く深く地面に叩きつけるようなフォーム。「こっからが本番だ」その瞬間。音が消えた。いや、違う。「周囲のすべての音」がライアに吸い込まれた。すべてが消え世界が「無音」に包まれる。「この力は一体…神代ライア…あなた一体何者?」初めてアテネの表情が崩れた。「オーバービート‼」ライアが弦を叩く。ズガァァァァンッ!!次の瞬間、音が「爆発」した。それはもはや電撃ではない。空間そのものを振動させ、破壊する「衝撃波」だった。アテネの放った光の矢が、接触した瞬間に粉砕される。「なっ――!?」防御が間に合わない。衝撃はそのままアテネを直撃し、彼女の身体を空中へ吹き飛ばした。屋上の端まで弾き飛ばされ、ギリギリで体勢を立て直すアテネ。翼が乱れ、呼吸が荒くなる。「……あり得ない……」彼女が初めて見せる明確な動揺。ライアはゆっくりと歩み寄る。足取りは重い。だがその目は完全に勝利のそれだった。「言ったろ?」ニヤリと笑う。「ぶっ倒すって」その時だった。「ピピッー」空間に無機質な電子音が響く。直後、屋上全体に半透明の結界が展開された。『そこまでです』どこからともなく声が響く。感情のない冷たい声。「両者ともに違法な戦闘行為を確認。規定違反により強制停止を命じます」空間が「固定」される。ライアの電撃もアテネの光もその場で静止した。まるで時間を切り取られたかのように。「……理事会ですか……面倒事になりましたね」アテネが小さく呟く。ライアは舌打ちした。「ちぇ……いいとこだったのによ」その瞬間二人の脳裏に同時に「声」が直接響いた。『神代ライア、金糸雀ケ原・アテネ・イリア。両名を特別観測対象に指定し第零層への招待を、許可する』アテネの目が見開かれる「そんな!お待ちください!私はただ彼女の愚行を!!」ライアは「……ははっ‼一緒に行こうぜ生徒会長さんよ‼」楽しそうに笑った。4時間後二人は最上階の部屋へと通された。中は全てが白く殺風景すぎる世界だった。『今日から貴方達二人にはここで教育を受けてもらいます。これによって金糸雀ケ原・アテネ・イリアの生徒会長の地位を剝奪し副会長である桜坂茜氏に生徒会長の座を付与します』アテネは声が流れているであろう虚空へ叫んだ「そんな!待ってください!」『そして神代ライア氏には40日後に行われるデッドマンズバトルに参加してもらいます』「デッドマンズバトルだなんて!彼女はまだ新入生ですよ!停学処分が妥当です!」「なにそのデッドマンズなんちゃらって?」『そうですね。新入生である神代ライアさんには説明いたしましょう。デッドマンズバトルとは簡潔に言うと退学か在学かを賭けた戦いです。勝負は一対一の決闘スタイル。負ければ退学。居住区域からも即刻退去してもらいます。しかしもし勝利すれば在学を認めます』「へー楽ショーじゃん!」「貴方わかってないわね」アテネは乱れた呼吸を安定させるとライアの目をしっかりと見つめた「いい?ここの学園に所属していればこの国で働く先には孫世代まで困ることはないの。更に居住区域で暮らしている家族には毎月暁の平均月給以上のお金が入るの。それを易々と手放す人間がいる?いいえいないわ。殺してでもそれにしがみつこうとするのよ」「だから?」「対戦相手は失うものがない無敵な奴らしかいないってことよ!能力も見栄えなく使ってくる!このデッドマンズバトルで年間何十人もの生徒が死んでるの!」『それでは検討を祈ります』それ以降声は聞こえなくなり教室内は静まり返った。「はぁ…本当に面倒くさくなりました」落ち込むアテネを横目にライアは教室内をグルグルと散策し気になる場所を重点的に見ていた。アテネは項垂れこれからの事を考えていた。大体10分が経った頃教室内に声が再び響き渡った。『これにて今日の日程は全て終了しました。各自用が済んだ方は気を付けて下校してください』「おーはやくね?」「まぁ…今日は入学式ですもの」ライアはそそくさと荷物をまとめギターを整備するとアテネの腕を引っ張り共に下校しようと誘った。「行きませんわ。貴方のせいで私の学園生活は滅茶苦茶になったんですよ」「いーじゃんかえろーよ」「嫌です」「じゃあお詫びに何か奢るからさー」「何もいりません…」「あーあせっかく家の近くのパフェでも食おうと思ったんだけどなぁ」「………本当に何でもよいのですか?」「いーよ何でも」「じゃあ…」二人はカフェに入りアテネは「ストロベリーマウンテンパフェ」をライアは「ブラックチョコパフェ」を注文した。「へー甘いもの好きなんだ?」「そう…です」アテネは頬を赤くさせながら辺りをキョロキョロしていた。「なんでキョロキョロしてんの?」「私は…そのあまりこういう姿を見せたことがないので」ライアはその様子にニヤニヤしながらもライアはその様子にニヤニヤしながら頬杖をついてアテネを眺めていた。「ふーん……」「な、何ですか」「別に~」わざとらしく視線を逸らす。「生徒会長サマにも普通の女の子っぽいとこあんじゃんって思ってさ」「……いつも普通です」アテネは小さく言い返す。だがその声はどこか弱い。「いや全然普通じゃねーでしょ。翼生やして人さらうし、ビーム撃つし」「……それは貴方も同じでしょう」「そうだねぇ~」ライアはあっさり認める。「でもさ」ストローをくわえながら言う。「今の方がよくね」「……?」「さっきみたいにキョロキョロして、パフェ食ってる方がなんか人間っぽくて好きだよあたしは」アテネの手が止まる。「……意味が分かりません」「いーんだよ分かんなくて」ライアは笑う。「そのうち分かるしわからせるからさ」少しだけ沈黙が落ちる。だが、それはもう気まずいものではなかった。「……」アテネはもう一口、パフェを食べる。今度は、隠そうとしなかった。「……美味しいです」小さく、呟く。ライアはそれを見て、満足そうに笑った。店を出る頃には、外はすっかり夕暮れになっていた。高層ビル群の隙間から差し込む橙色の光が、街全体を染めている。「じゃ、ここでいいわ」アテネが立ち止まる。「ねぇーうち寄ってく?」「必要ありません」少しだけ間を置いてから、「……今日は、ありがとうございました」ライアは一瞬きょとんとしたあとニヤッと笑った。「きょうはありがとーな、生徒会長」「……元、です」「あーそっか」肩をすくめる。「じゃあこれからは何て呼べばいい?」アテネは少しだけ考えて、そして「……好きに呼べばいいです」「じゃあアテネね」「……勝手にしてください」そのままアテネは背を向けて歩き出す。だが数歩進んだところで、ほんの一瞬だけ振り返った。「明日……遅刻しないでください」それだけ言って、今度こそ去っていく。ライアはその背中を見送りながらポケットに手を突っ込んだ。「……はは」小さく笑う。「ちょっと面白くなってきたじゃん」空を見上げる。夕焼けの向こうに、セラフィム・タワーが影のようにそびえている。その最上層の誰も知らない「第零層」の謎は深まるが「ま、明日も暴れてやるか」そう呟いて、ライアも歩き出した。




