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第19話 転校生が多すぎる

朝のホームルームが始まる前から、教室はざわついていた。


原因は分かりきっている。

転校生だ。しかも、一人や二人じゃない。


「なあ……また転校生来るってマジ?」


「この前来たばっかだろ?」


「この学校、何かの受け皿か?」


そんな声があちこちから飛ぶ。

俺は自分の席に座りながら、内心で同意していた。


(……転校生、多すぎだろ)


シャルが来た時点で、すでに十分お腹いっぱいだった。

帝国からの留学生、というだけでクラスの話題を独占したのに、

さらに追加が来るらしい。


黒板の前に立った担任が、軽く咳払いをした。


「えー、皆、静かに。

今日は転校生の紹介がある」


——ある、じゃない。

複数形だろ、それ。


「まず一人目だ。入ってきなさい」


教室の扉が開く。


入ってきたのは、背の高い少年だった。

銀色に近い淡い金髪。

耳が、わずかに尖っている。


一瞬、教室が静まり返る。


(……エルフだ)


ファンタジーの世界ではお馴染みでも、

現実で見るとやっぱりインパクトが強い。


「……耳、見えたよな?」


「見えた……よな?」


ヒソヒソとした声が広がる。


少年は一礼して、落ち着いた声で名乗った。


「……エリアスです。

よろしくお願いします」


それだけ。

余計なことは何も言わない。


拍子抜けするほど、普通の挨拶だった。


「続いて、二人目」


まだいるのかよ。


今度は、扉が勢いよく開いた。


入ってきたのは、明らかに人間じゃない少年だった。

獣の耳。尻尾。

体格もよく、立っているだけで存在感がある。


「うわ……」


「マジで獣人……?」


教室の空気が一気にざわめく。


本人はそれを気にした様子もなく、豪快に頭を下げた。


「ガルムだ!

今日から世話になる!よろしく!」


声がでかい。

態度もでかい。


だが、敵意は感じない。

むしろ体育会系のノリだ。


担任は、何事もなかったかのように言った。


「二人とも、海外からの留学生だ。

席は……」


その瞬間、教室のあちこちから声が上がった。


「いやいやいや!」


「ちょっと待ってください先生!」


「この学校どうなってるんですか⁉」


完全に総ツッコミだ。


「転校生多すぎだろ!」


誰かが叫び、教室が一気に笑いに包まれる。

だが、その笑いはどこか引きつっていた。


俺も、思わず苦笑する。


(だよな……)


シャルが、横で小さく息を吐いた。


「……賑やかですね」


「賑やかどころじゃないだろ」


小声で返す。


担任は手を叩いて場を収めた。


「えー、質問は後だ。

席についてくれ」


エリアスは静かに、

ガルムはやや不満そうに、

それぞれ指定された席へ向かった。


……どちらも、俺からそう遠くない席だ。


(偶然、だよな?)


そう思おうとしたが、胸の奥がざわつく。


なんだなんだ。

俺が帝国に行ってから、状況変わりすぎじゃないか?


合衆国の内戦終結。

ユーラシア北部の内戦終結。

そして、この学校に集まる異種族の留学生。


(俺が原因じゃないよな……?)


自分に言い聞かせるように、心の中で呟く。


(まだ何もしてないし……)


過去改変の力は、使っていない。

少なくとも、意識的には。


それなのに、世界の歯車が一斉に動き出しているような感覚が拭えなかった。


休み時間になると、当然のように新顔二人の周りに人だかりができた。


「耳、触っていい?」


「尻尾って動くの?」


ガルムは苦笑しながらも、割と大らかに対応している。


「やめろやめろ!

引っ張るなって!」


エリアスの方は、質問に一つずつ丁寧に答えていた。


「文化の違い、です」

「慣れれば問題ありません」


その様子は、妙に“出来すぎている”。


(……露骨に政治の話はしない、か)


連邦も帝国も、やり方が上手い。


「なあ」


不意に、ガルムが俺に声をかけてきた。


「お前、この前来た転校生だろ?」


「……ああ、そうだけど」


「やっぱそうか!

転校生同士、仲良くしようぜ!」


距離の詰め方が早い。


「よろしく」


とりあえず、それだけ返す。


エリアスも、静かにこちらを見て一礼した。


「よろしくお願いします」


その目は、穏やかだ。

だが、何かを観察しているようにも見えた。


(……気のせい、だよな)


そう思いたい。


昼休み、シャルが弁当を広げながら、小さく言った。


「……連邦、動きが早いですね」


「え?」


思わず聞き返す。


「いえ、独り言です」


そう言って、彼女はすぐに話題を変えた。


だが、その一瞬の表情は、いつもより硬かった。


(……シャル、ピリピリしてるな)


無理もない。


エルフ帝国。

獣人連邦。

そして帝国。


ユーラシア大陸北部で内戦していた勢力が、

今度は“留学生”という形で動き出している。


しかも、その舞台が日本だ。


(日本、どこの味方になるかで勝敗が決まる……か)


昨日のニュースと、シャルの説明が頭をよぎる。


放課後。

帰り支度をしていると、ガルムが大声で言った。


「なあ!放課後、部活見て回らねえ?」


「もう馴染む気満々だな……」


クラスメイトたちが笑う。


エリアスも、小さく頷いた。


「学校生活には、慣れたいので」


普通の会話。

普通のやり取り。


なのに、どうしてだろう。

胸の奥で、警鐘が鳴り止まない。


(……俺、中心にいる気がする)


いや、気のせいだ。

たまたまタイミングが重なっただけだ。


そう思わなきゃ、やってられない。


シャルが、俺の方を見て、ほんの少し眉を寄せた。


「……日本は、帝国の味方ですよね?」


小声だが、真剣な問いだった。


「え?」


「いえ……」


彼女はすぐに視線を逸らした。


「なんでもありません」


でも、その空気は確かに張り詰めていた。


(……冷戦、始まってるな)


銃声も、爆発もない。

だが、確実に始まっている。


そして、その最前線が——

この教室だ。


「はあ……」


俺は小さくため息をついた。


転校生が多すぎる。

それだけの話なら、笑い話で済んだ。


でも現実は、

世界の思惑が、

日本という場所に、

そしてこの学校に、

集まってきている。


(……ほんとに、俺が原因じゃないよな?)


誰にも聞こえないように、もう一度だけ呟いた。


答えは、まだ出ない。

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