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ステラ・ミュラー視点

――なぜ、この少年を面白いと思ったのか


彼は、奇妙な少年だった。


怯えていないわけではない。

恐怖を理解していないわけでもない。

それなのに、踏み込む。


帝国で生きていれば、誰でも知っていることがある。

知っていて当然のこと。

説明される前から、避けるべき線。


彼は、それを知らなかった。


血を差し出す意味。

外国人がどこまで許されているか。

護衛がいることが、決して安全の保証にならないこと。


普通なら、言葉にされなくても察する。

察して、距離を取る。


けれど彼は、いちいち聞く。

そして、聞いた上で進む。


――ああ、とステラは思った。


この少年は、帝国の常識で生きていない。

帝国の恐怖で育っていない。


違う場所。

違う価値観。

違う“空気”。


まるで、別の世界から来た人間のような感覚。


だからこそ、

彼の中には妙な“隙”がある。


知識が足りないのではない。

経験が足りないのでもない。


最初から、前提が違うのだ。


それは愚かさではなく、

帝国ではほとんど失われた性質だった。


だから彼は、

恐ろしいほど冷静で、

同時に、驚くほど無防備だった。


「面白い方」


そう評したのは、決して戯れではない。


この少年は、

壊れるか、

それとも――

帝国の“味”を変えてしまうか。


どちらにせよ、

記憶に残る存在になる。


ステラ・ミュラーは、

そう直感していた。

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