第6話 ルール1 受け入れること
テルの言葉は、照平の心に深く突き刺さった。
……俺は結局、新しい会社に入ってもこの異世界に来ても、相手の習慣を否定して、自分のやり方を押し付けようとしていただけだったんじゃないか。
……村に戻ろう。もう一度やりなおすんだ。
照平の目には強い決意が宿っていた。
テルはそれを見ると安心したように微笑み、馬車へと戻って行った。
照平はお礼を言おうとあわてて呼び止めようとしたが、馬車の中にいた別の男がテルを呼ぶ声と重なってテルには届かなかった。
村に戻った照平は、まずこれまでの行動について謝った。
ありがたいことに村の人々は照平にまた住む場所と仕事を与えてくれた。
そして照平は、その日から行動を変えた。
まず、文句を言うのをやめた。
そして、今まで馬鹿にしていた村の習慣を、完璧に真似て実行し始めた。
朝の祈り、種まき前の儀式、意味不明な呪文を唱えながら行う堆肥づくり。
(なんで木の棒で土を掘らなきゃいけないんだ。効率が悪い)と内心で思いながらも、彼は誰よりも真面目に、熱心に、その手順を繰り返した。
最初はぎこちなかったが、照平の態度の変化は、村人たちにもすぐに伝わった。
「旅の者が、あの祈りを真面目にしているぞ」
「この前の堆肥づくりも、文句一つ言わずに、長老の教え通りにやっていた」
長老は、照平の姿をじっと見ていたが、何も言わなかった。
しかし、長老の妻が、夕食の際、照平にそっと焼きたてのパンを多めに差し出してくれた。
……あぁ、これが……受け入れられるってことか。
「郷に入っては郷に従え」
今まで否定的に考えていたこの言葉の重要性が今なら身にしみて分かる。
結局のところ、新しい環境で認めてもらうことで初めてスタートラインに立てるのだ。
元の世界で何度も失敗してきた当たり前のことに、異世界で初めて気づかされた。
非効率に見える習慣も素直に受け入れることで、照平が「この村の一員になろうとしている」という意思表示として機能していたのだ。
つづく




