第5話 先駆者はだいたいいつも偉大である
あれから何時間たっただろうか。
村にも戻れない。街にも入れない。
照平は街の入口近くの道端で途方にくれていた。
すると突然、馬車が照平の前に止まった。
馬車は決して貴族が乗るような立派なものではなかったが、質素な作りの中に気品のようなものが感じられた。
1人の男が馬車から降りてきて照平の前で立ち止まった。
服装は上下ともに白で、光沢のある生地だったことから、教会かなにか宗教に関わる仕事をしているのだろうかと照平は直感的に思った。
歳は照平と同じくらいに見えたが、背筋がピンと伸び、歩き方にも何か雰囲気を感じた。
しかしなぜだろうか、初めて会ったその男はどこか懐かしいような安心感があった。
男は照平を見ると、まるで照平を探していたかのように話しかけてきた。
「きみ、随分と浮かない顔をしているな。この世界が期待と違ったか?」
突然のことに照平は言葉が出なかった。
男は低く優しい声で続けた。
「俺はテル。きみと同じ異世界から来た。だから安心してくれ。」
照平はその言葉を聞いた瞬間、それまで我慢していたものが込み上げてきた。
そしてそれを感情のままぶつけるように、テルにこの世界に来てからのことを話した。
この世界の非効率さ、理不尽さ、自分の孤立についてまくし立てた。
テルは、照平の話をすべて聞き終えると、静かに語り始めた。
「俺も最初はきみと同じだった。この世界の非効率なやり方にいちいち噛みついて、俺の知識で変えてやるって息巻いた。結果、村八分にあって、飢え死にしかけたよ。」
テルの口調は話の内容とは裏腹に優しく、照れたように笑った
そして、少し強い口調で続けた。
「いいか、照平。新しい環境に馴染んでうまくやるには、たった2つのルールしかない。」
テルは指を2本立て、真剣な眼差しで照平に告げた。
「一つ、この世界の習慣をまずは受け入れること。文句を言う前に、言われた通りにやれ」
「二つ、受け入れた上で、彼らが最も欲しがる『価値』を提供すること。それが、きみの異世界でのバリューだ」
テルは続けた。
「これは元の世界でも、この世界でも変わらない。新しい環境で、その環境でのやり方を頭ごなしに否定すれば、当然信用してもらえない。信用されなければ、自分の価値を発揮する機会ももらえないんだよ。」
「信用されているからこそ、その人の言うことを聞いてくれる。まずは信用されることが第一で、意見をするのはそのあとなんだよ。」
照平は自分でも信じられないくらいテルの言葉を受け入れていた。
そして、照平の頭の中に一瞬こんな思いがよぎった。
……異世界転生と転職は同じなのかもしれない。
テルの言葉は、彼の過去と現在を一瞬で結びつけた。
つづく




