第34話 採掘の神
採掘機は順調に『Sith-Spira』の岩壁を掘り進めていく。
バルカスが採掘した深さを示すメーターを見てうなずく。
「10メートルってとこか、順調じゃねぇか」
バルカスのその言葉に、現場全体の緊張が緩んだその時だった。
鼓膜を突き刺すようなけたたましい衝突音が、ヘヴィロック大採掘場に響き渡る。
「何事だぁ?!」
「親方!!大変です!!採掘機のドリルが破損しました!!」
「なんだと?!」
先ほどまで固い岩壁を粉々に粉砕していた採掘機のドリルが、岩壁に負けて無惨に折れ曲がってしまった。
ドリルが当たった先をよく見ると、黒い岩壁の間から灰白色の鉱石が顔を出している。
この鉱石こそがドリルを破損させた原因だ。
「なんだこの鉱石は?!今までに見たことがねぇ」
バルカスを始め、バルカス鉱業のベテラン達も一様に顔をしかめる。
現場がざわつき、不安が漂う中、意外にもそれを静めたのはミカだった。
「こ、こ、これは、もしかして!!レゾナンス・グリッドじゃないですかぁぁぁぁ?!」
突然の発言に、全員の視線がミカに集まる。
「レゾナンス・グリッド?なんじゃそりゃ?」
バルカスが代表して尋ねる。
「レゾナンス・グリッドは別名『共鳴の石』とも呼ばれる、とても珍しい石です。機械の規則的な振動を吸収して、さらに堅くなる性質を持っているのです!」
それを聞いたジークが前に出る。
「それはつまり、機械では削れないということですか」
現場がまたざわつくが、今度はバルカスがみんなをなだめる。
「騒ぐんじゃねぇ。機械が使えねぇなら、ツルハシで叩くまでだ」
そう言うと、大斧のようなツルハシをレゾナンス・グリッドに叩きつける。
ギィィィン!!
レゾナンス・グリッドがまたも鈍い音をたてる。
「ぐぅぉっ!!」
レゾナンス・グリッドの堅さにバルカスが顔をしかめる。
「あぁ!!無闇に叩いてもダメです!!」
ミカが制止する。
「図鑑によると、レゾナンス・グリッドは七つある急所を同時に一定間隔で叩かなければ破壊できないとあります」
「急所?!」
ツルハシを使い、レゾナンス・グリッドの周りの岩壁を綺麗に崩していく。
そして、レゾナンス・グリッドが全容を現すと、ジークはその表面を詳細に確認する。
表面には透明な筋が血管のように鉱石全体に張り巡らさせており、その筋を結合するように節が七つ配置されていた。
ジークが眉をひそめる。
「確かに七つある......でもこんな数ミリしかない急所を的確に、しかも同時に叩くなんて不可能だ」
すると、その様子を遠巻きに見ていたひとりの老人が、ツルハシを引きずりながら前に出てきた。
「ホッホッホ、バルカス、何やらお困りのようだね」
「ヒラさん?!」
ヒラさんと呼ばれるその老人は、バルカス鉱業で一番ベテランの作業員で、その社歴はバルカスよりも長い。
年齢は70歳を越えているだろうか、腰が曲がり、ツルハシを引きずる姿は、とても採掘作業ができるようには見えない。
しかし、絶望的な状況に沈んでいたはずの現場が、ヒラさんの出現により不思議と活気だっている。
ヒラさんはレゾナンス・グリッドの前に立ち、ツルハシを両手で握る。
そして、曲がっていた腰を伸ばし、目を見開いたかと思うと、ツルハシを大きく振りかぶる。
「よっ、こい、しょ」
キーーーン
わずか数ミリの急所を正確に叩くと、レゾナンス・グリッドは心地よい音を響かせる。
そして、叩かれた急所を起点として、鉱石全体に張り巡らされている透明な筋に、信号が伝わるように、赤い閃光が伝播する。
その光景は、まるでレゾナンス・グリッドが脈を打ち、鼓動しているようだ。
「ほぅ、こんなところかのぅ。おぉい、やるぞ」
ヒラさんが号令をかけると、五人のベテラン作業員がヒラさんの元に集まる。
ヒラさんほどではないが、みな大ベテランという風格とオーラを纏っている。
これでヒラさんを含めて六人が集まった。
「おぉい、バルカス!代表になったからって、腕はなまっておらんだろうな」
ヒラさんが最後に指名したのはバルカス親方だ。
バルカスは先輩からの突然の指名に、はにかんだように笑う。
「ヒラさんとまた一緒に叩ける日が来るとは思いやせんでした。やりましょう!」
「おぉぉぉぉぉ!!!!」
『採掘の神』と崇められるメンバー七人が、共にレゾナンス・グリッドの前に立ち向かう。
その光景にすべての作業員が熱狂する。
普段の彼らを知らない照平でも不思議と鳥肌がたった。
しかし、その中でひとり、ジークだけが下を向いていた。
バルカス親方を除く六人のメンバーに対して、ジークは『仕事量が少ないのに給料ばかり高い』という見方をしていた。
時に、この六人に対して生意気にコスト削減を申し出たこともあった。
「俺は何も分かっていなかった。この六人はバルカス鉱業が最も大事にすべき人財だった」
下を向くジークに向かって、ヒラさんが言う。
「ジーク、これで七つの急所を同時に叩ける。あとは『一定間隔』ってやつが分からねぇ。お前さん分かるか?」
ジークはハッと我に返り前を向く。
今、俺にできることをしなければ。
「先ほどヒラさんが叩いた時の赤い閃光、おそらく、これが他の急所に到達する前に次の打撃を打ち込む必要があります」
「ほぅ」
ヒラさんがニヤリと笑う。
「急所どうしの物理的な距離と、赤い閃光が伝わる時間を元に計算すると、打撃の間隔は一秒以内です」
「分かった。おめぇら、やるぞ」
「おぉ!!」
ヒラさんの呼び掛けに他の六人が応える。
「しかし、一秒間隔で数ミリの急所に正確に打撃を入れるなんて......しかも、七人同時......そんなことが可能ですか??」
ジークがヒラさんに問いかける。
ヒラさんは静かに笑う。
「普通に計算したら無理だろうね。でもな、その計算にはひとつ考慮されていないものがある」
ヒラさんは自信に満ちた表情で言い放つ。
「職人の意地だ」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
現場全体の空気が変わる。
その熱狂の中、七人それぞれが配置につく。
「いくぞ!!そーーーーえいっ!!」
ヒラさんの掛け声に合わせて七人全員が正確に急所を打つ。
打たれたレゾナンス・グリッドは赤い閃光を放つが、その閃光が他の急所にたどり着く前に次の打撃を受け、閃光は他の急所には届かない。
現場の熱気はさらに高まる。
なんという団結力、なんというエネルギー。
俺はなんという瞬間に立ち会っているのだろう。
照平は、今この場に居合わせたことを誇りに思った。
なおも七人の打撃は続く。
一糸乱れぬ打撃を受けたレゾナンス・グリッドは、次第にヒビが入り始めた。
「もう一息だ!!」
渾身の一撃を与えたその瞬間、レゾナンス・グリッド全体が赤い閃光を放ち、粉々に砕け散った。
バルカス鉱業の勝利だ。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
現場全体が勝利の余韻に包まれる。
「ヒラさん、さすがです。俺を厳しく指導してくれた時のままだ」
バルカスはヒラさんに一礼すると、ヒラさんもそれに応える。
「お前さんも腕がなまっていないようでよかったよ」
そこに足早にジークが駆け寄ってきた。
「皆さん、今までの数々の無礼な発言、申し訳ありませんでした。俺は全然現場を見れていなかった」
ジークは深々と頭を下げた。
「老いぼれもたまには役に立つだろ?」
ヒラさんが笑う。
そして、ジークの肩に手を置いて言った。
「ジーク、お前さんがやってることは間違ってねぇよ。ただ、やり方が違ってただけだ。変化に対応できねぇ組織は生き残れねぇ。期待しているよ」
そう言うと、ヒラさんと五人のベテラン作業員は現場を後にした。
「親方!ドリルのメンテナンス完了してます」
採掘機を修理していた作業員が報告する。
「よぉし、野郎ども!20メートルまでもうすぐだ!一気にいくぞ!」
バルカスが気合いを入れる。
「おぉ!!」
活気だつ現場でひとり、照平は不安を感じていた。
20メートルまで後少し。
でも、本当に20メートルでヴェル・サイトにたどり着くのだろうか。
つづく




