第33話 Silent Voice
薄暗いヘヴィロック大採掘場の奥深くにある地点。
ミカのノートが指し示した『Sith-Spira』。
その岩壁の前に、バルカス鉱業の全戦力が集結していた。
沈黙を破ったのは、腹の底から響くバルカスの怒号だった。
「野郎ども、準備はいいか! 生きるか、死ぬか、ここがバルカス鉱業の正念場だ!気合いを入れろ!」
「おう!!」
暗闇の中で、重厚な採掘機の駆動音が重低音を鳴らし始める。
バルカスが一人一人の顔を見渡しながら、点呼を取るように叫んだ。
「採掘班! ドリルの駆動率はどうだ!」
「オールグリーン! いつでもブチ抜けます!」
「支援班! 岩盤支持ジャッキの圧力設定は!」
「リミット一杯まで上げてあります! 崩落の兆候があれば、即座に警報を鳴らします!」
「ジーク! 探知機のモニターから目を離すな!少しでも反応があればすぐに報告しろ!」
モニターを睨んでいたジークが、真剣な面持ちでうなずいた。
バルカスがニヤリと笑い、最後に照平を見た。
「小僧、お前の理屈信じてやる。20メートル先の『希望』とやらを見せてみろ」
照平は拳を握りしめ、バルカスと向き合った。
「はい!俺を......俺たちを、信じてください」
そして、側にいるヴァレリアとミカを見て、互いに互いを勇気づけるようにうなずく。
バルカスが大斧のようなツルハシを高く掲げ、全作業員の魂を一つに束ねるように吠えた。
「よおし、野郎ども! 眠ってる『希望』を叩き起こしてやれ!!」
「ルメン・ライム採掘開始だぁッ!!」
一斉に、凄まじい轟音と共にドリルが回転を始めた。
火花が飛び散り、沈黙していた巨大な岩盤が、ついに悲鳴を上げ始めた。
◇
「ヴァレリア、何でここに?」
ヴァレリアのおかげで、逃げ出す寸前で思いとどまることができた。
俺はヘヴィロック大採掘場の出口でヴァレリアとの再開を果たした。
「ミカが素晴らしい発見をしてくれたのよ!照平、『Sith-Spira』、掘れるかもしれないわ」
「素晴らしい発見?!でも何で......」
何でそんなことしてくれるんだ?
これは俺の案件なのに。
「照平、あんた、一人で背負い込みすぎなのよ。一人でここに残るって言われた時は、まぁ寂しかったわ」
「それは......ごめん」
「私たちは、問題を解決するためにここに来たんだから、みんなで考えましょう。もちろんミカも同じよ」
「ヴァレリア......」
興味本位でついてきたのだと勝手に思いこんでいた。
ヴァレリアは、この問題をちゃんと考えてくれていたんだ。
「ヴァーレリーアさまー!」
少し離れたところでミカが手を上げて呼んでいる。
ミカも来てくれていたのか。
「ところでヴァレリア、さっき言ってた素晴らしい発見って?」
ヴァレリアはニヤリと笑った。
「実際に見た方が話が早いわ」
◇
ヘヴィロック大採掘場の奥深くにある地点。
ここが、先日ミカのノートが指し示した『Sith-Spira』の地点だ。
ここに俺とヴァレリア、ミカ、そしてジークが集まっている。
ジークをここに呼ぶにあたり、俺は昨日の飲み会での発言と今日の無断欠勤を詫びた。
意外にも、ジークの反応は素っ気ないもので、「あぁ.......」と言っただけだった。
そして、この地点を採掘する根拠が見つかったことを伝え、実際に見てもらうためにここに集まったのだ。
ミカがジークに言う。
「ジーク殿、この地点を改めて探知機で確認してはもらえませんか?」
ジークは探知機を作動して、岩壁の方に向ける。
ジークの言った通り、探知機は何の反応も示さず、波のない一本線をただただ表示するだけだった。
「だから、反応がないって言っただろ」
ジークが半ば諦めるように言った。
「いえ!これでいいのです」
ミカは石が一段高くなっているところに立ち、オッホン!とわざとらしく咳払いをした。
「鉱石というのは、どんな石ころでも拍動を出しているものなのです!それがどこにでもある石ころならば拍動は小さく、ルメン・ライムともなれば大きな拍動を出します。つまり、探知機を石に近づけた時に全く反応がないということはあり得ないのです!」
ミカは得意気だ。
「確かに、お嬢ちゃんの言うことは間違っていない。でも、だからなんだって言うんだ?反応がないということは、ここに何もない証明にしかならないだろう」
ジークが少し残念そうに言った。
すると、ミカは顔の前に人差し指を立て、チッチッチ!とその指を左右に揺らす。
「反応がないのではありません。これは反応が消されている証明なのです」
「消されている?」
ジークはその言葉に眉を潜める。
「ここに、ヴェル・サイトという鉱石があります」
ミカが紹介すると、ヴァレリアがいつぞやバックに付けていたヴェル・サイトを出す。
そして、ヴァレリアがミカの言葉を引き継ぎ、こう説明する。
「このヴェル・サイトには、鉱石の拍動を抑え込む力があるの。実際にやってみましょう」
そう言うと、まずは採掘されたルメン・ライムに探知機をかざす。
探知機は大きく反応し、ルメン・ライムの拍動の大きさを示した。
次に、ルメン・ライムと探知機の間に、ヴェル・サイトを置いてみる。
すると.......
「探知機の反応が......消えた!」
ジークが驚き、目を見開く。
「ヴェル・サイト、こんな鉱石が存在するのか.......」
ジークは腕を組んで、少しの間何かを考えるように目を閉じる。
「確かに、俺たちはルメン・ライムの反応を探すあまり、逆に反応が全くないことに違和感を感じなかった......なるほど、反応が全くないことは『不自然な静寂』だったわけか」
ヴァレリアとミカが顔を見合わせてうなずく。
「おそらく、この厚い岩盤の奧にヴェル・サイトの層がある。そしてさらに奧にヴェル・サイトによって隠されたルメン・ライムがある!これが私たちが立てた仮説よ。どう?ここを採掘してみる価値、あるんじゃないかしら?」
確かに、ここまでの根拠を示せばかなり説得力がある。
俺も少しでも後押しする。
「ジーク、どうだろう。ここを掘らせてもらえないだろうか」
ジークは少し考えた後、ゆっくり口を開いた。
「納得できる理論だ。否定することはできない」
「じゃあ......!」
俺は結論を促す。
「ただし、無制限に掘れる訳ではない。何メートル掘ればヴェル・サイトとやらに隠されたルメン・ライムが出てくるのか、見通しはあるか?」
見通し?そんなものあるのか?
すると、ヴァレリアが間髪いれず自信満々に言い放った。
「20メートルよ!文献の情報をもとに計算すると20メートルでヴェル・サイトが顔を出すわ」
ジークはうなずく。
「分かった、採掘の手筈を整えよう。親方には俺が話をする」
俺たちは顔を見合わせ、採掘への第一歩を踏み出せた喜びを分かち合った。
「ジーク......ありがとう」
俺はジークに向かって頭を下げる。
ジークはうなずき、足早に事務所へ駆けていった。
気のせいだろうか、ジークが笑みを見せたような気がしたのは。
「それにしても、20メートルって!そんなに詳しい文献をよく見つけたな」
俺は感心してヴァレリアに言う。
「何言ってるの?適当に決まってるじゃない。そんな文献あるわけないでしょ」
え?
照平は目を丸くして驚いた。
「ヴァレリア......なんて度胸してるんだ」
ヴァレリアは得意気に微笑んだ。
つづく




