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転職に失敗し続けた俺が、異世界で転職成功の極意を掴んで勝ち組目指す  作者: むらさきじゅんぺい
第4章 ヘヴィロック 編

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第31話 飲み会で説教の第2ラウンドが始まるときつい

体が重い。


翌朝、いつもなら誰よりも早く現場に行くのに、今日はどうしても寝床から起き上がれなかった。


俺はここに来て初めて無断欠勤をした。


昨日ジークから言われた言葉が、頭の中をぐるぐる回っている。


それと同時に、なぜか昔上司から言われた言葉を思い出していた。



照平は新卒でとある大手企業に営業として入社した。


大手企業に就職したいという強い気持ちだけで就職先を選んだため、どんな仕事をするかなんて全く考えていなかった。


営業の仕事に向いていないと気づいたのは、入社してから三年が経過した頃だった。


それでも、大手企業から離れることに恐怖を感じていた照平は、持ち前の『人当たりの良さ』だけで何とか仕事を続け、それなりに社内からも評価された。


その「薄氷」の上の平穏が、決定的な音を立てて崩れたのは入社七年目だ。

人事異動で照平の上司が変わったのだ。


新しい上司は、社内でも一二を争う知識と実績の持ち主で、仕事に妥協を許さないと評判の人だった。

つまり、誤魔化しの効かない『本物』だったのだ。


その上司は、入社7年目で備わっていなければならない製品知識や営業力が、照平にないことをすぐに見抜いた。


『照平くん、君は今まで何をやってきたんだ』


それから程なくして、上司からの厳しい指導が始まる。


営業先に行く前に上司と入念な打ち合わせを行い、帰ってきてからは詳細な報告を求められた。

目標管理、競合と比較した優位性、見積もりの根拠、利益率など、照平が今まで誤魔化し誤魔化しやってきたことを、徹底的に追求された。

これまでのツケの返済期限が一気にやってきたのだ。


上司のデスクの前に立たされ、ひたすら怒られる様子は、周りの社員から心配されるほどだった。


毎日怒られるのは正直きつかった。

ただ、上司が照平のことを思い、仕事ができるようになるために指導してくれている、ということが感じられたため、照平は厳しい指導に何とか食らいつこうとした。


しかし、心は既に限界だった。

仕事中に厳しく指導され、仕事終わりの飲み会でも叱責され、終いに、同じ部署で営業アシスタントをしている事務の女の子と比べられて『お前はダメだ』と言われた時、心の糸がプツリと切れた。


――何言ってるんだ、ぜんぜん仕事内容が違うだろ


飲み会が終わった後、照平が向かったのは独り暮らしのアパートではなく、駅だった。


もう何もかもがどうでも良かった。

全てを捨てて消えてしまおうと思った。


勢いのまま、東京行きの上り最終電車に飛び乗る。

そして、朝一番で会社に退職を伝える電話をしたのだった。



ジークの言うことはもっともだ。

俺はまた同じ間違いを繰り返してしまった。


営業に必要な製品知識や営業力を得るための地道な努力や知識の習得から逃げて、『人当たりの良さ』というその場しのぎをしていた。


そして今回も『信頼を蓄積する』という、一見もっともらしいやり方で問題解決しようとしたが、それは採掘するための根拠や理論を積み上げることから逃げていただけだったのかもしれない。

そのツケが、ジークからの叱責というかたちで爆発したのだ。


「みんなの前であんな風に言われちゃったら、もうここにはいられないな」


積み上げてきたつもりの信頼という『箱』は、重いものが乗ると潰れてしまう、土台の安定しない『空箱』だった。



重い体をやっと起こし、雑に身支度を整える。

そして、借りている部屋を出て採掘場の出口に向かった。


この後どうしたらいいか分からない。

でも、ここを出てどこかへいってしまうしか方法がないと思った。


採掘場の出口に立った俺は、今まさに、東京行きの上り最終列車に乗ろうとしているのと同じだった。

ホームに立ち、目の前には最終電車がドアを開けて待っている。


発車を知らせるベルが鳴る。


目をつぶり、電車に乗ろうと足を踏み出したその瞬間......


「照平!」


後ろから手を捕まれ、体ごと後方に引っ張られた。

突然のことに驚き、引っ張られた勢いで後ろに倒れんでしまう。


電車のベルが鳴り終わり、ドアが閉まる。

東京行き上り最終電車はゆっくりと動きだし、俺をホームに残したまま、真っ白な世界へと消えていった。


後ろを振り向くと、息を切らせ、真剣な表情のヴァレリアが、俺の手を握ってくれていた。


ふいに、こらえてきた感情が溢れてくる。


「ヴァレリア、何でここに?」


ヴァレリアは息を整え、満面の笑顔でこう言った。


「何言ってるの、私たちチームじゃない。あなたに足りないところは私たちが補うわ。でも、私たちに足りないところはあなたの力を貸してちょうだい」


溢れだした感情が、涙になって頬をつたう。


「ヴァレリア、――ありがとう」


ヴァレリアがかけてくれたその言葉は、俺の全てを肯定してくれている気がして、俺が今最も欲しかった言葉だった。




つづく

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