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転職に失敗し続けた俺が、異世界で転職成功の極意を掴んで勝ち組目指す  作者: むらさきじゅんぺい
第4章 ヘヴィロック 編

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第30話 人づてに誉められると、より嬉しい

『モテモテ大作戦』

それは、最初の村で学んだ『二つのルール』の応用編だ。



ルール1『受け入れること』


これは、その環境のルールに文句を言わず素直に従うことで、信頼を得るというものだった。

今回は信頼を得つつ、さらに『こいつなんかいいヤツじゃん』というプラスの印象を持たせたい。


具体的な行動は二つだ。

一つ目は、とにかく笑顔を絶やさないこと。

どんなに仕事がきつくても、どんなに寝不足の朝でも笑顔でみんなと接する。

これは単純で最も基本的な行動だ。

笑顔の人と一緒にいて嫌な気持ちになる人はなかなかいない。


二つ目は、『時代遅れの慣習』をあえて実践すること。

『時代遅れの慣習』とは、一見、非効率かつ生産性が低いと思われがちな、日本企業で長らく大事にされてきた慣習のことだ。

例えば、始業時間の一時間以上前に出社してやる気ある感を出すとか、飲み会を積極的に企画するやつがなぜか仕事できる認定されるとかいうアレだ。


俺も元の世界では本当に嫌だった。

でもここに来て、自分がいよいよ何の価値もない存在になって気づいたのだ。

『時代遅れの慣習』ってめちゃめちゃコスパがいい。

だって、知識やスキルがなくても、価値を提供できなくても、少し早起きをしたり、誰にでもできる飲み会の企画をしたりするだけで、周りが認めてくれる。

これを使わない手はない。


しかも、ここバルカス鉱業ではそれがハマる感覚があった。

採掘についてド素人の俺にとって、『時代遅れの慣習』をあえて実践することは、プラスの印象を得る近道なのだ。



ルール2『価値の提供』


こちらは今までとは目的が異なる。

今までが、新しい環境に受け入れてもらうために価値を提供していたのに対して、今回はこちらの要望を聞いてもらうための、いわば『先出し』だ。

人に何かしてほしければ、まずこちらが相手の要望を聞く。

そうして信用を貯めて、ここぞというときにその信用を使うのだ。


未知の問題解決には向かないブラウズだが、誰かが知っていることを調べるのは得意分野だ。

例えば機械が壊れたとか、ちょっと体が痛いとか、信用を貯められそうな場面はいくらでもありそうだ。




こうして俺は、『モテモテ大作戦』を地道に実践していった。

朝は早くから現場に行って仕事の準備をし、夜は最後まで仕事を手伝った。

仕事終わりには、大なり小なり毎日飲み会が開催されるが、その飲み会にも誘われれば必ず出席した。


また、読み通り、ここでは機械の不具合や故障が日常的に起きていて、専門業者が来るまでの間、長時間作業が中断してしまうことに困っていた。

そこで、ブラウズをフル活用して対応にあたることで、作業復旧時間が劇的に改善された。



二週間ほどたった頃だろうか。

仕事終わりにジュースをおごってくれたり、使っているツルハシが歯こぼれした時に研いでおいてくれたりと、こちらの『先出し』に対して、目に見えるかたちでリターンが返ってくるようになった。

一番嬉しかったのは、最初はみんなから『小僧』と呼ばれていたのが、少しずつ『照ちゃん』と呼ばれる機会が増えたことだ。


俺は少しずつだが確実に手応えを感じていた。

そして、その成功体験にすっかり浮かれてしまっていた――



その日は、バルカスも出席する大きめの飲み会があった。

採掘場近くの町にある酒場を貸し切って、50人以上が集まり、普段は飲み会に顔を出さないジークも参加していた。


豪快に乾杯を済ませると、各々のテーブルで歓談が始まる。


「照ちゃん、この間は助かったよ。あれが動かねぇと仕事にならねぇからな」


先日修理した機械の話だ。


「いえいえ、そんな大したことはないですよ。また壊れたら言ってください」


実際、全然大したことなかった。

電源が入らないと相談を受けて、コンセントが挿さっていなかったくらいのレベルだった。


「でも、照ちゃんが来てから本当に助かってるよ。うちには若者が少ないからな!ガハハハ」


そんな話題で盛り上がっていると、突然バルカスがやってきた。


「小僧、何やらうちのもんが世話になってるみてぇだな」


バルカスはとても機嫌が良さそうに顔を赤らめている。


「機械の修理からちょっとした困り事まで、何でも解決してくれるって評判になってる。ありがとうよ」


常に敵意を向けられてきたあのバルカスから、『ありがとう』なんて言われる日が来るとは思ってもみなかった。


予想外の言葉に目頭が熱くなり、咄嗟に下を向く。


......感謝されるって、こんなに嬉しいことなんだな。


「ところで、あっちの方はどんな具合だい?」


『あっちの方』とは、ルメン・ライム枯渇問題のことだとすぐに分かった。


「バルカス親方、それなんですが」


まだ何かをお願いするだけの信用は貯まっていない。

でも、目に見える成功体験とバルカスからの感謝の言葉で気が大きくなってしまっていた。


「ちょっとご相談がありまして」


そして俺は、大きな間違いを犯してしまった。


「気になる採掘地点(ポイント)があります。そこを採掘させてもらえないでしょうか――」


バンッ!!


俺がその言葉を言い終わるかどうかというタイミングで、となりの席からテーブルを叩きつける音が聞こえた。


突然の出来事に驚き、振り返ると、ジークが立ち上がり、凍りつくような目でこちらを睨んでいた。


「何を言っているんだ!それは出来ないと伝えたはずた」


ここまで積み上げてきた信用が崩れる音がした。


まずい......


「お前が言う採掘ポイントを掘ったら、何か出てくる論理的な根拠は見つかったのか?」


「それは......」


何も言い返せない。

俺は信用を貯めることだけに目を向けて、そこを掘らせてもらうために理論武装する努力を怠っていたのだ。


「そもそもお前は、いつもへらへらしているだけで、何も問題解決していないじゃないか」


そして、バルカス鉱業のみんなと仲良くなる度に感じた、ジークの冷たい視線に気づいていながら、見て見ぬふりをしていた。


「そんなことで仕事をした気になるのは大間違いだ!」


『――照平くん、君は今まで何をやってきたんだ?』


ジークの言葉が、不意に昔上司から言われた言葉と重なる。


俺は、何も成長していないのか......


目の前が真っ暗になり、その後どうなったか覚えていない。




つづく


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