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転職に失敗し続けた俺が、異世界で転職成功の極意を掴んで勝ち組目指す  作者: むらさきじゅんぺい
第4章 ヘヴィロック 編

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第28話 二冊目のノート

ルメンヴァル北西部に連なる山脈、その山々はルメンヴァルに様々な恵みをもたらしてくれる。

山脈の中でも最も標高が高い山の麓に、ルメン・ライムの大採掘場、通称『ヘヴィロック大採掘場』がある。

ここがバルカス鉱業の仕事場だ。


山脈の堅い石質から名付けられた通称だが、聞くからに袖無しの革ジャンを着てゴツい鎖のアクセサリーを付けた、屈強な男達が生息していそうな印象を受ける。


「ヘヴィロック大採掘場からメタルを採掘するわけか......」


「ん?照平、何か言った?」


「え?いやいや、何も言ってないよ」


おっと、声にでてしまっていたようだ。



ルメンヴァルの町を出るのは、アルベルトに連れてこられて以来だ。


本来楽しいはずの外出だが、今回はさすがに気が重い。

それに比べて――


「ヴァレリア!何でそんなに目を輝かせてるんだ?それに、何でミカが付いてきてるんだよ!」


ヘヴィロック大採掘場に一緒に来たヴァレリアとミカはとても楽しそうだ。

ミカは自分の倍以上の大きさのリュックを背負い、準備万端といった感じだ。


「採掘場に実際に行けるなんて、なかなかできない貴重な体験じゃない!楽しみにして何が悪いのよ」


「えぇえぇ、そうですとも。どんな出会いがあるか想像するだけでとろけちゃいますぅ」


これだから鉱石オタクは......


採掘場に着くと、バルカスが迎えてくれた。


「はるばるご苦労なこった!まぁ怪我しないように見ていくんだな。言っとくが、仕事の邪魔だけはするんじゃねぇぞ」


相変わらず歓迎されていないようだ。


基本的な安全対策を整え、採掘場へと入っていく。

案内してくれるのは、バルカスの側近であるジークという男だ。


ジークはシュッとした体型に程よく筋肉が付いている、いわゆる細マッチョで、しっかりセットされた黒髪に細いフレームのメガネをかけている。

年齢は30代前半だろうか。

作業服を着ているものの、鉱山の採掘作業員には珍しいインテリタイプだ。


ジークは淡々と採掘場を案内してくれた。

それとは対照的に、ヴァレリアとミカは大騒ぎだ。


「この地層はどの時代のものかしら、興味深いわ」


「うひょぉぉぉ!この波紋!輝き!やはり実物は違いますなぁ」


「おいおい、あんまり騒ぐなよ」


ジークからの冷たい視線をバシバシ感じた俺は、ヴァレリアとミカを制止する。

ほんとに、何しに来たんだ俺は。


そんなこんなで採掘場内を探索していると、ある地点(ポイント)で不意にミカが声を発した。


「ここ、もしかして......ちょっと待ってください!!」


そう言うと、その地点(ポイント)でうずくまり、何やらノートのようなものを捲りだした。


「やっぱり、ここに間違いない!!ここです!ここを掘りましょう!!」


ミカは興奮気味にそう言うと、地図のようなものが書いてあるページをこちらに見せた。


俺とヴァレリアはそのノートを見て目を疑った。

なぜなら、それは先日オリバーから譲り受けた大事なノートに酷似していたからだ。


それは紛れもなく、『ヴェルサの未完の研究ノート』だった。


「どういうこと?ミカ、そのノート見せなさい」


ヴァレリアはミカからノートを奪い取ろうとするが、ミカはヴァレリアが伸ばす腕をするりするりとかわしていく。


「それはできません。これは父上から譲り受けた大事な大事なノートですので」


ちからずくでは奪えないと察したヴァレリアは、何やら自分のリュックを漁り、何かを探し始めた。

そして取り出したのはやはり、『ヴェルサの未完の研究ノート』だ。


「ふぇ?!同じノート??」


ミカは目を丸くして驚く。


「それを書いたのは私のお母様よ!これで私がそのノートを見る資格があることが分かったでしょ。むしろ何でミカがそれを持ってるのよ」


するとミカは、えっへん!と得意気なポーズをして見せた。


「私の父上は、ヴェルサさまが率いる伝説の探索パーティー、『方舟の視線(アルカ・ヴィゼ)』の一員だったのです」


方舟の視線(アルカ・ヴィゼ)!?初めて聞いたわ」


ミカはハッと何かに気づいたように口を両手で塞ぐと、視線をそらし、分かりやすくごまかす素振りを見せた。

何か言ってはいけないことを言ってしまったようだ。


――ゴホン。


後方からあからさまに嫌悪感を帯びた咳払いが聞こえた。

もちろんジークだ。

恐る恐る振り返り、精一杯申し訳なさそうな顔でこたえる。


方舟の視線(アルカ・ヴィゼ)のこと、ミカの父親のこと、いろいろ気になることはあるが、悠長に話をしている暇はなさそうだ。


「ミカ、ここを掘れっていうのはどういうこと?」


ミカが持っているノートに書かれていたのは、ここ、ヘヴィロック大採掘場の地図だった。


「ここ!見てください」


そこには赤いバツ印と『Sith-Spira(シズ-スピラ)』というメモ書きがある。


Sith-Spira(シズ-スピラ)、どんな意味だ?座標の......兆し?いや、可能性?」


覚えたての知識を並べてみるが、しっくりこない。


「......未確認の希望」


ふとヴァレリアが呟く。


「さすがヴァレリアさま。そうです!そうなのです!つまり、ここにはお宝が眠っている可能性があるということなのです!」


ミカが誇らしげに言う。

ミカの戯れ言かと思っていたが、研究ノートの情報なら話は別だ。

実際、先日の漆黒のカレンデュラ事件も、ノートの情報をもとに解決することができた。


「確かに、試してみる価値があるかもしれない」


もしかしたら、ルメン・ライム枯渇問題の解決にも繋がるかもしれない。

そう思ったその時、背後から希望を打ち砕くように冷たい言葉が降ってきた。


「――そこには何もありませんよ」


振り替えると、ジークがはるか高い場所から見下すようにこちらを見ていた。


「そこに何もないことは既に探知機で確認済みだ。もし万が一何かあるのだとしても、そんな信用できない情報で人と金を動かすわけにはいかない」


ジークはさらに続けた。


「採掘ってのは気まぐれで掘る場所を決めているわけじゃないんだ。掘る前に入念に調査をして、計画をたててやっと掘り始める。ひとたび水脈でも引いてしまったら事故じゃ済まない、人命に関わる大惨事になる。素人が採掘をなめるな」


声を荒げることなく、淡々としたトーンで語るジークだったが、その口調には静かな怒りがこもっていて、素人を黙らせるには十分すぎる迫力だった。


「は、はい。申し訳ない」


ヴァレリアとミカは......

いや、ヴァレリアとミカと俺は、ジークの言葉に何も言い返せず、その後は案内に従い静かに採掘場を見学した。



「それで?結局、資金援助はしてくれるのかい」


見学が終わり、俺はバルカスさんから報告を求められていた。


正直、今日一日歩き回っただけで判断できるわけがない。


「いや、私には決定権限がないので、資金援助の結論をここで出すことはできません」


「へっ!役人はいつもそうだ。じゃあいつその結論が出るんだ?得意の『持ち帰って検討します』か?」


バルカスがそう言うと、周りにいる作業員から照平をバカにするような笑いが起きる。


誰が持ち帰るか!

というか、このまま持ち帰っても何も解決しないことは明らかだ。

今はまだ今回の案件をどう進めたらいいか検討もつかない。

しかし、ひとつだけ次に起こすべきアクションに心当たりがある。

俺は最初にお世話になった村で学んだ。

そして、ルメンヴァル公邸でも『この方法』で活路を見いだした。


「バルカスさん、ひとつお願いがあります。私をしばらくここで働かせてもらえませんか?」


「はぁ?」


バルカスは予想外の言葉に眉間にシワを寄せて驚き、周りの作業員もザワついている。


そう、まずは『受け入れて信頼を得る』、これだ。


「ちょっと、照平!何言ってんの?」


ヴァレリアも驚きを隠せない。


「ヴァレリア、ごめん。でも、もっとここのことを詳しく知らないと、何も判断できないと思うんだ。リカルドさんには何とか説明しといてくれ」


ジークももちろん予想外だったのだろう。

焦ったようにバルカスに進言する。


「親方!ダメです。うちにはこんなやつの面倒を見る余裕はありません」


バルカスは少し考えると、ニヤリと笑った。


「バカなヤツは嫌いじゃねぇ。小僧、いい度胸だ。気が済むまでやれ」


「親方!こんなやつ邪魔なだけです」


ジークはどうしても嫌なようだ。


「ジーク、タダで働いてくれるって言うんだからいいじゃねぇか。それに、実際に働いて俺たちの苦労が分かれば、金も出してくれるだろうよ」


「......」


バルカス親方にそこまで言われたら、ジークもこれ以上反論できない。


まずはここで働いて信頼を得ることだ。

そして、ルメン・ライムの枯渇問題を解決する糸口を掴む。


できなかったら――


それはその時考えよう。



つづく

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