第19話 酔っぱらい講師
ヴァレリアに学校に行ってほしい。
そのためには『古代ルメンヴァル語』というヴァレリアから課せられた試練を乗り越えて、ヴァレリアからの信頼を得るのがはじめの一歩だと思った。
ただ、照平は古代ルメンヴァル語を習得する方法について見当もつかない。
そこでリカルドに相談したところ、オリバーを紹介されたというわけである。
が...
(なんか、この人お酒臭くないか?)
老人が昼間からお酒を飲んでいても構わないが.....
(この人から教わるのかぁ)
照平は少し不安になってきた。
というのも、できれはアルベルトが帰ってくるまでの一ヶ月と数週間で家庭教師の仕事に復帰したかったのだ。
「まぁリカルドさんからの紹介じゃしょうがないね。入りなさい」
お酒臭い部屋に入るのは少し嫌だったが、こちらこそしょうがない。
「あ、ありがとうございます。おじゃまします」
部屋の中は思ったほど散らかってはおらず、内心ほっとした。
「しゅんぺいくん。早速始めようか」
「いや、あの、おれの名前は照平です」
「しゅうぺい?」
「しょうへい!!」
(このおじいちゃん、もしかしてボケてるのか?)
オリバーは機嫌が良さそうに笑っている。
「とんぺいくん。古代ルメンヴァル語はとても奥が深い。しっかりマスターするように!」
「......はい」
(もうなんでもいいか)
「では始めよう。古代ルメンヴァルは圧政と解放の歴史じゃ。その歴史は約百年前にさかのぼる。時の王、ザルドレッドは......」
「ちょ!ちょっと待ってください」
照平はあわててオリバーを制止した。
「おれは古代ルメンヴァル語を習いに来たんだ。古代ルメンヴァルの歴史の話はいいから、古代ルメンヴァル語を教えてくれませんか?」
オリバーは『あぁ』とうなずくと、お酒をまたひとくち飲んだ。
「ぷはぁ~そうかいそうかい。古代ルメンヴァル語ね。古代ルメンヴァル語はとても奥が深い。しっかりマスターするように!」
「は...はぁ......」
こうして照平は定期的にオリバーの元を訪れ、古代ルメンヴァル語を教えてもらうことになったのだった。
ほんとにこの人で大丈夫だろうか......
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「ねぇルチア。新しい使用人は姿を見ないけれどどこで仕事をしているの?」
「照平さまですか?リカルド様に許可をいただいて、街に出られているみたいですよ」
「街に?ふぅん......そう」
ヴァレリアは少しつまらなそうな顔をした。
「お嬢様。何かご用だったんですか?」
ルチアはヴァレリアの顔を覗き込む。
すると、ヴァレリアは焦ったように
「べ......別に、何でもないわ!仕事をサボってるんじゃないかと思っただけよ!」
ルチアはヴァレリアのその表情を微笑ましく思った。
(お嬢様がこんな表情をするのはいつぶりだろう)
「ヴァレリア様」
突然、背後から野太い男性の声がしてヴァレリアとルチアは振り返った。
「あら、リカルド」
「ご歓談中申し訳ない。ヴァレリア様。来月の訪問は予定どおりでよろしいかな?」
訪問......
ヴァレリアの顔が一瞬にしてくもる。
「えぇ。分かってるわ。予定どおり進めてちょうだい」
ヴァレリアはリカルドと目を合わせず言うと、足早に部屋に戻っていった。




