第17話 新しい場所ではいじられキャラの方が馴染みやすい
「行きたくないなぁ……」
翌朝。
食堂へ向かう照平の足取りは重かった。
いい歳の大人が、10代の女の子に爆笑されることなんてそうそうない。
しかも自信満々で披露しただけに恥ずかしさが倍増する。
これからあと一ヶ月半、どんな顔をしてみんなと接すればいいんだろう。
……
考えてもしょうがない。
昨日のことはなかったことにして、とにかく仕事を頑張ろう。
そうだ、それしかない。
照平はできるだけ平静を装い、食堂に入った。
すると、そこには予想外の人物の姿があった。
「あら、新しい使用人さん。今日もステージパフォーマンスはあるのかしら?」
ヴァレリアが皮肉たっぷりの笑顔で照平を待ち構えていた。
??――なんでよりによって一番会いたくないときにいるんだ?
「え??いや、あの……」
それはヴァレリアの部屋を追い出されてから、約二週間ぶりの会話だった。
照平が顔を真っ赤にして返答に困っていると、食事を終えたヴァレリアは「ごきげんよう」と笑顔で食堂をあとにした。
なんだよ、いじるためだけに来たのか?
その後もヴァレリアはことあるごとに照平の前に現れ、照平をいじって去っていくということを繰り返した。
最初は何も言えなかった照平だが、だんだん言い返せるようになってくると、少しずつだが、コミュニケーションがとれるようになっていった。
――なんかいい方向に向かってる?
コミュニケーションがとれるようになったのはヴァレリアだけではない。
他のスタッフとも少しずつ仕事以外の話ができるようになってきた。
一緒に仕事をすることが多いルチアとは、特に話をする機会が増えた。
ある時、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「ルチアさん。ヴァレリアさんの部屋は掃除しなくていいの?」
掃除の手伝いをするようになって一週間以上たつが、ヴァレリアの部屋だけは掃除しているところを見たことがなかった。
「えぇ、お嬢様のお部屋には入らないように言われているんです」
すると、ルチアはクスッと笑い、続けた。
「照平さまはお嬢様のお部屋の中を見られたんですよね?」
「えぇ。少しだけど」
「お嬢様のお部屋、散らかっていたんじゃないですか?」
めちゃくちゃ散らかってました!なんなら変な匂いもしました!と言いたいところだが、ヴァレリアの名誉のために少し遠慮することにした。
「まぁ、少し散らかってたかな?」
ルチアはまたクスッと笑った。
「お嬢様はお片付けできない方ですからね。でもお部屋には歴史的に貴重なものもあるらしくて、私たちでは判別できないので手が出せないんです」
なんだ、散らかっていたのは俺を歓迎していないからということではなかったのか。
それよりも……
「ヴァレリアさんは歴史的に貴重なものとか、そういうものに興味があるんですね」
「えぇ。お嬢様はとても研究熱心で、特に古代ルメンヴァルの地質学や歴史学については、専門家の方と共同で研究されているくらいなんですよ」
ルチアは誇らしげだった。
「そうなんだ!――いやいや、それなら家庭教師いらないだろ」
ルチアは優しく笑っている。
家庭教師を4人追い返し、照平もその洗礼をこれでもかというほど受けた。
そんな、ただ生意気で手に負えないと思っていたお嬢様は、専門家と共同研究しちゃうほどの探究心と知識の持ち主だった。
「でも……」
ルチアは寂しそうに言った。
「そのせいでうまく行かないこともあるんですよ」
うまくいかないこと?
つづく




