第98話 金色のオーラ
「2人とも、ゴブリン!ゴブリンいますよっ」
「もう慣れたなあ……」
「しかも通常個体っ。これはお披露目チャンスですっ。2人とも見ててくださいね?」
1階層の魔物をあらかた屠り、私達は2階層へと訪れました。
2階層もほとんどモンスターテーブルは変わりませんね。強いて言えば、ゴブリンの上位種に該当するダークゴブリンがリーダーとして率いる群れが、時折見えるようになったくらいでしょうか。
そして、ちょうど茂みの先にはダークゴブリンをリーダーとして動いているゴブリンの集団がいますね。ダークゴブリンが1体、ゴブリンが4体の5体編成です。
ダークゴブリンは「ギィ」と低く威圧するような声を出しながら、部下のゴブリンに指示を出しています。その指示に従うように、ゴブリンはあちらこちらに偵察して回っている、という形ですね。
しかし、ダークゴブリンもあんまりリーダーとしての立ち回りに慣れているようには見えません。なんというか、リーダーの真似事をしている、というような形ですね。
役割分担をした方が効率が良いはずなのに、4体全員を同時に偵察に回したりしてます。
かと言えば1体のみを偵察に回したりと、行動に一貫性がありません。
指示を受けるゴブリンもオロオロとして、縋るように同胞に視線を送っています。
あまりにもグダグダとしているので、隙だらけです。
正直、いつでも“琴ちゃんキャノン”で吹き飛ばせるんですけど……何となく、魔物の生態を眺めているのは楽しいですね。動物園に来ているような気分です。
無様なゴブリンの生態なんて、無限に眺めていられますよ。
なので“観察”という名目でゴブリンを眺めていたんですけど……ぽんぽんと麻衣ちゃんに肩を叩かれました。
「琴ちゃん、仕事」
「……観察してただけだよ?」
「ゴブリンを見てる時の琴ちゃん、すごくニコニコしてたもん。あー絶対面白がって見てるなこれって」
「ちぇー……」
ばれてしまっては仕方ありません。
渋々ため息をつきながら、私は専用武器の魔法杖に備え付けられた魔玉をゴブリンの群れへと向けました。
魔玉というのは正式名称じゃないんですけどね。他に適した呼び方が思いつかないので、こうした呼び方をさせてもらってます。
そう言えば、“専用武器”って呼び方も何だか面白みがないですよね。
せっかくの専用武器ですし、何らかの呼び方を付けてあげたいです。カッコいい名前つけたいなー。
そんな心の声を漏らしながら、私は脳内で“炎弾”を独自の形に構築していきます。
単純に“炎弾”としてぶっ放しても良いんですけど、どうせ無詠唱で調整なんて無理なので。今の私が使う“炎弾”は壊れた水道管のようなものです。
だったら出力を調整をして、オリジナル魔法にした方が楽しいです。
琴ちゃんは楽しいか楽しくないかで判断してます。ぶいっ。
ゴブリンの群れに対して“琴ちゃんサテライト”を撃ち落とすのもありです。ですけど、今回はシンプルに“琴ちゃんレーザー”で良いかな。MPも節約していきましょう。
「じゃあ、私が先に魔法撃つから2人とも、フォローよろしくね」
私がそう宣言すると、ゆあちーと麻衣ちゃんはコクリと頷きました。
なんだかんだ、頼りにしてくれているのでうれしいです。
「2人には、初めてのお披露目だね。いくよ、琴ちゃん魔法第2弾っ」
「ことちー、そう言うの良いから」
「えーっ!?楽しいところなのに……」
ちょっとカッコつけて前振りしてみたんですけど、ゆあちーにばっさり切り捨てられました。うう、つまんないです。
脳内で“炎弾”の形を書き換えていきます。注射器をイメージして、より“炎弾”が細く伸びるような形となるように構築します。
最も近いイメージとしてはウォーターカッターですね。圧力を高めた水流で金属を削るあれです。
「“琴ちゃんレーザー”っ!!」
「さすがに3回目となると慣れるなあ……」
ゆあちーのリアクションが薄くなっちゃいました。麻衣ちゃんも私の後ろで呆れたようにため息をついています。
慣れるの早くないですか?3回目ですよ?
まだまだ琴ちゃん魔法シリーズは色々考えているんですから、もっと良いリアクションが欲しいです。慣れないで?
“アイテムボックス”なんて楽しい玩具もあるんですから。まだまだ琴ちゃん魔法は始まったばかりなんですよ。あの、あのっ。
そんな愚痴を脳内で零している間にも、魔法杖の先端から鋭く収束した“炎弾”が放出しました。
鋭く唸る熱光線は、瞬く間に部下のゴブリンの頭蓋骨へと着弾。貫通こそしませんでしたが、どうやら脳を焼いたようですね。ビクンと身体が跳ねたかと思うと、そのまま全身が脱力しました。
「——ギッ!」
奇襲に真っ先に反応したのはリーダー格であるダークゴブリンです。私が放った“琴ちゃんレーザー”に真っ先に反応したかと思うと、真っ先に焼き殺されたゴブリンの死骸を持ち上げました。
「おっ」
まさかゴブリンからそのような発想が出るとは思わず、敵ながら感嘆の声を上げました。
“琴ちゃんレーザー”から身を守るべく、ゴミと化したゴブリンの死骸を盾にしようとしているんですね。“アイテムボックス”に格納されるんですからゴミ呼ばわりで良いと思います。
そのまま、“琴ちゃんレーザー”をゴブリンの死骸で防ぎながら、ダークゴブリンは私目掛けて突進してきます。
さすがに埒が明かないので、“琴ちゃんレーザー”の射出を中断し、回避の体勢を取りました。
ですが、そんな私達の間に割り入ったのは、大槌を振り上げたゆあちーです。
「おりゃーっ!吹っ飛べぇっ!」
「ギッ!?」
素早く飛び込んできたゆあちーは、大槌を激しく振り回します。草木を風圧で揺らしながら、突進してきたダークゴブリン目掛けて大槌を振るいました。
土煙を巻き込みながら、巨大な面でダークゴブリンの体幹を吹き飛ばそうとします。
「——ギッ」
ですが、ダークゴブリンはゴブリンの死骸を放り投げて、その攻撃を阻止。
「ことちーの専売特許パクられてるじゃん!?」
「失礼だよゆあちー!?」
ゆあちーの一打は、ダークゴブリンが放り投げたゴブリンの死骸によって防がれました。
重量の乗った一撃というインパクトをもろに受けたゴブリンの死骸。その貧弱な身体では衝撃を受け止め切ることが出来ず、その四肢をバラバラにしてしまいました。あーあ、勿体ない。
「うーん、弾かれたかあ……」
ものの見事に攻撃を防がれたゆあちー。彼女の攻撃は大振りということもあり、基本的には隙が大きいです。
そんな隙を当然、他のゴブリンが逃すはずはありませんよね。
「ギッ!」「ギィッ!」「ギギッ!」
ゴブリン3兄弟(?)は、隙だらけのゆあちー目掛けて、なまくらの短剣を持って飛び掛かってきました。
まあ、ゆあちーのステータスであれば、さほどダメージは受けないでしょうが……基本的に、攻撃は受けない方が良いです。
そのことを理解している麻衣ちゃんは、既に高級そうな魔法杖を構えていました。
「私だってちゃんと仕事はするよ。任せてねぇ」
のんびりとした口調のまま、無詠唱で“時間魔法”を発動させました。魔法杖に備え付けられた魔玉を中心として、迸る魔法陣が虚空へと浮かび上がります。それらは、瞬く間にゆあちーへと襲い掛かっていたゴブリンの身体へと張り付きました。
次の瞬間、ゴブリン共の身体は空中で停滞。「ギッ!?」などという悲鳴を漏らしながらも、何とか“時間魔法”の囚われから抜け出そうとしています。ですが、全身の時間を止められているので当然、抜け出すことは叶いません。
もはや隙だらけとなったゴブリン共。
ここで輝くのが私の専用武器である仕込み杖です。
「ここからが、私の時間ですっ」
私はそう宣言すると共に、魔法杖を垂直に立てました。そして、そのまま静かに魔法杖を上下に引きます。
すると、ギラリと銀色の刃が魔法杖の隙間から煌めきました。
「おおーっ!かっこいいー!」
自分の武器ながら、思わず感嘆の声を出しちゃいました。
これが、私オリジナルの専用武器です。
魔法杖の持ち手となる筒の中に、ロングソードを内蔵した仕込み刀。それが私の専用武器の性能となっています。何というか、ロマンがありますよね。仕込み杖。
あっという間に、杖モードから剣モードへと切り替わりました。
剣モードに切り替えた私は、そのまま空中で停滞するゴブリンの足元へと鞘側に引っ付いた魔玉を向けます。
魔玉は鞘の方向に付けてもらいました。
その方が鞘も無駄にならなくて済むので。効率重視です。
「あんまり余計に汚したくないんですよ。ついでに実験に付き合ってください」
そう告げると共に、魔玉を介して“アイテムボックス”を発動させました。
すると、魔玉に内蔵された構造魔法陣の効果を介して、“アイテムボックス”が強化されました。
「でかっ!」
想像以上の大きさとなった“アイテムボックス”に足を引っかけそうになったゆあちーは、びっくりしながらも“アイテムボックス”から離れます。
普段よりも巨大な“アイテムボックス”が形成されました。それは、ゴブリン共の足元を全て覆いつくすほどの規模となりました。大体直径2mくらいです。
“アイテムボックス”の発動を確認した私は、そのまま空中に留まったままのゴブリンの喉元にロングソードを突き立てます。
まずは1体目。
「頸動脈を切るのが早いですね。大体、顎の付け根辺り目掛けて狙えば、ほらっ」
「ギッ……」
おおよそ、どの辺りを狙えばゴブリンを絶命させられるのかは分かります。ほぼ感覚で頸動脈を斬り払うと同時に、ゴブリンの顔色が茶色に変色していきます。
脳に血液が行き届かなくなった証明ですね。
そのまま、流れ作業で麻衣ちゃんが空中に留めたゴブリン全てを、専用武器の刃で切り裂きました。
返す刃で、次から次に的確に頸動脈を薙ぎ払います。
顔色が茶色くなり、表情を失ったことを確認した麻衣ちゃん。彼女はゴブリン共に付与した“時間魔法”を解除しました。
「3名様ご来店ですっ」
自然落下と共に、3つのゴブリンの死骸は瞬く間に“アイテムボックス”へと格納されました。
残るは親玉であるダークゴブリンのみ、ですね。
ですが、その親玉は既にゆあちーが相手してくれていました。
「ことちーだけに相手させてたら悪い、でしょっ!“身体強化”っ!」
ゆあちーは左手を強く握りしめました。その動作と共に発動させた“身体強化”の付与魔法が、ゆあちーの身体能力を強化させます。
というか、ゆあちー“身体強化”の魔法を会得していたんですね。ちゃんと魔法を覚えているのは偉いです。
瞬く間に、ゆあちーの全身に金色のオーラが纏わりつきます。私の銀色のオーラと正反対ですね。
金色のオーラは圧力を持ち、ゆあちーの髪やコートをなびかせます。
ダークゴブリンは、そのすさまじい圧力に尻込みしました。
「とりゃああああああっ!」
ゆあちーは身を屈めたかと思うと、勢いのままに大地を蹴り上げました。空気を穿つ弾丸の如く駆け抜けたものですから、辺り一帯に衝撃波が巻き起こります。収束した土煙が、ゆあちーの跳躍の軌跡を残しました。
「わっ」
「きゃっ」
私と麻衣ちゃんは、その衝撃波にびっくりしました。とっさに腕で顔を覆います。
その間にもゆあちーは大地を蹴り上げながら徐々に加速し、大槌を振るい上げます。
「まずはあああああっ、ひとぉつっっっ!!」
上段から振り下ろす一撃が、大気を巻き込みながら放たれました。唸るような轟音が、その威力を物語っています。低階層の魔物相手にやりすぎじゃないかな?
「ギッ……!」
しかし、傍から見れば隙だらけの一撃。ダークゴブリンは余裕をもって、後方にバックステップをします。
予想外だったのは、そのゆあちーの攻撃によって引き起こされた衝撃波でしょうか。
「おまけ、だよっ」
「ギィッ!?」
ゆあちーが大地目掛けて振り下ろした大槌。その一撃は、とてつもないインパクトをもって土煙を高く舞い上げました。
衝撃波と共に巻き込まれた土煙が、遠くまで吹きすさびます。形を持った衝撃波は、全く間にダークゴブリンを巻き込みました。
着地のタイミングで衝撃波に巻き込まれたダークゴブリンは、そのまま大きくバランスを崩します。
「ギッ」
隙だらけですね。
そんな隙だらけとなったダークゴブリンへと、既にゆあちーは左手をかざしていました。
「せっかく学んだ魔法なら、活かさないとね。“炎弾”」
そう、静かに詠唱すると共に、ゆあちーの左手から魔法陣が構築され、紅蓮の炎が射出されました。
乱雑な勢いで唸る炎の弾丸が、一直線にダークゴブリンへと襲い掛かります。私のそれとは異なる形状をしていますが、“炎弾”は基本的にこの形が正しいです。私がめちゃくちゃにアレンジしただけです。
「ギッ、ギアアア……」
紅蓮の炎に瞬く間に飲み込まれたダークゴブリンが、大きな断末魔を上げようとしました。
ですが、ゆあちーはそこから更に距離を詰め、もう一度大槌を叩きつけました。
「静かにして」
「ギュピ」
断末魔を上げることさえ許しませんでした。
振り下ろす強靭な一撃で、ダークゴブリンは瞬く間にミンチとなりました。
ゆあちーも大概容赦ないですね。
ちなみに黒焦げミンチとなったダークゴブリンは、私、田中 琴の“アイテムボックス”が美味しくいただきました。
よっしゃ。




