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第95話 【年越し特別回】酔っ払い琴ちゃん

「……あ?年変わってんじゃねえか」


 ふと、ダンジョン攻略を進めている合間に時間を確認する。すると、いつの間にか日付が1月1日になっていた。

 どうやら、俺——田中 琴男はダンジョン攻略中に年を越しちまったようだ。


 一体なぜ、このような年越しを過ごさなければならないのだ。


「——くそっ!」

 

 不甲斐ない気持ちが込み上げる。

 八つ当たりをするように、ダンジョンの壁を蹴り上げた。


 鈍い音が、辺り一帯に響き渡る。


 そんな物音を、当然魔物が聞き逃すはずもない。


「ギィ」

「……なぁ、お前は祝ってくれるか?新年初狩りだぞ」


 もう、何度も見た存在だ。

 ダンジョンの定番とも言える魔物——ゴブリン。


 俺は腰に携えた鞘からロングソードを引き抜き、その切っ先とゴブリンのシルエットを重ね合わせた。

 シルエットを重ね合わせることにより、ゴブリンの初動を読み取りやすくなる。俺が先輩から教わった、戦い方だった。


 ゴブリンのシルエットが揺れる。左右に、ゆらり、ゆらりと。


 迸るスパークが、脳内を駆け巡る。

 じりじりと肌を灼くような緊張感が、俺を戦いへと誘う。



 ——琴男。あけましておめでとう、今年もよろしくね。

 ——あーもう、子供じゃねーんだからさ。はいはい、あけましておめっと。

 ——全く。そんないい加減な挨拶する琴男にはお年玉上げないからね?

 ——……あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 ——はい、よろしい。



「……どうして、こんなことになっちまったんだろうな」


 望まない形での年越しだった。

 誰も祝ってくれるでもない、誰と新年を迎えられるという喜びを共有できるでもない。

 俺にとっては、大みそかだろうと所詮、変わり映えのない日々でしかない。


 “異災”に奪われた日々を思い出す。

 その間にも、ゴブリンは確実に。俺の命を奪わんと距離を縮めてくる。


 もう、どうでもいい。

 俺はただ、命が尽きるまで魔物と戦うだけだ。

 

「お前は、どんなお年玉を出してくれるんだろうなぁっ!!!!」

「——ギッ!!」


 ----


「鍋、ですか?」

「おう、大晦日らしくていいだろうが?」


 ダンジョン攻略を終えた後、三上パパから車の中でそう提案されました。

 パパの車の中に置いていたガムをひょいと摘まみながら、私は首を傾げます。


「鍋って、どこで食べるんです?」

「……あー、どこでやるかまで考えてなかったなァ」

「そういうところですよパパ。いい加減です」

「うぐっ……すまん」


 じっと冷ややかに睨みつつもパパを睨むと、申し訳なさそうに謝罪してくれました。

 なんだかんだ娘に弱いですよね、パパって。

 

 最初の頃は優越感を感じることが出来て楽しかったんですけど、ここ最近は駄目パパの部分が見えてきたのであんまり楽しくありません。まあ、面倒見がいいのは認めますけどね。

 

 そんなやり取りをしていると、後部座席で話を聞いていた恵那斗が割って入ってきました。


「ん?私達の家で良くないかしら。どうせなら土屋さんとか花宮さんも誘ってみるのもいいんじゃない?」

「あー……あり、かも。でもみんな座れるかな?」

「ソファもあるし、なんとかなるわよ」

「恵那斗が言うなら……ちょっとやりたいな」


 ゆあちーと麻衣ちゃんも誘って皆で鍋ですか、確かにそれは楽しそうです!

 たまには皆でワイワイご飯を食べるのも悪くないですね。


 そんな私達の話を聞いていたパパは、ニヤリと楽しそうに微笑みました。


「おーおー、いーんじゃねえかァ?じゃあ、このままスーパーに行くぞ」

「パパは良いから早く運転してください」

「お前、日に日に生意気になっていくな……」

「知らないです」


 ----


 いつかの日にも言ったかもしれないんですけど、田中夫妻の家はマンションの一室にあります。

 昔の私はロクに家に帰ることもなかったので、家賃の安いところを選んじゃったんですよね。


 ですけど、最近は家で過ごす時間も増えてきたので、広い家に引っ越しても良いかもしれないです。

 給料ならあります。冒険者は大変な仕事ですけど、その分高給取りです。


 琴ちゃんはお金持ちです。ふふんっ。


「邪魔すんぞォ」

「邪魔するなら帰ってください」

「はいよー……じゃねェんだよ何させんだ」


 軽口を叩き合いながら、私とパパは机の上に食材を並べていきます。

 キッチンには恵那斗が立ち、既に調理器具の準備を始めていました。


「ホットプレートも使うのは久々ね」


 引き出しの奥からホットプレートを取り出す恵那斗も、どこか楽しそうに微笑んでいました。

 私だって楽しみです。

 

 

 ですが、生活能力が皆無の私は、基本的に足手まといでした。


「あっ、わっ」

「ッぶねえ……琴きゅん、気を付けろよ」

「す、すみませんっ」

 

 危うく食材を落としかけたり、何度も皿を割りかけました。

 そんなものですから、結局パパに「琴きゅんは座ってろ」と追いやられてしまいました。きゅぅ……。

 

 

 なので私は手持無沙汰です。ソファの上に座らされているお人形となりました。悲しい。

 

 そんな鍋の準備を始めている間に、ぴんぽーん、とインターホンのチャイムが鳴り響きました。


「私が出ますよっ」


 ようやく私の出番ですっ。嬉々として玄関へと小走りで駆け寄り、急いでドアを開きます。


「ことちーーーーっ!!!!」

「むきゅっ!?」


 扉を開いた瞬間、私目掛けて勢いよく飛びついてきたのは1人の少女です。


 黒と金のメッシュヘアが、ふわりとなびきました。

 

「ゆ、ゆあちー……あの、あのっ」

「ことちーだあああ、ことちーの家だあ……」

「ちょ、ちょっとゆあちー、離れて。恥ずかしい」


 ゆあちーこと、土屋 由愛ちゃんです。私たちとは違うギルドに所属している正真正銘16歳の女の子です。現役女子高生。


 ゆあちーはなんの躊躇もなく私に頬ずりしてきます。

 あの、恥ずかしいです。いつも言っていると思うんですけど。


 そんなやり取りをしている中、ゆあちーの背後に立っていた麻衣ちゃんは礼儀正しく会釈してきました。


「お邪魔するね、琴ちゃん」

「あっ、うん。いきなり呼んだのに来てくれてありがとう」

「せっかくお酒が飲める機会だからね」

「……まあ、うん」


 ゆあちーの前で、あんまりそういう話しない方が良いかもしれないですよ?

 ほらゆあちーが微妙な表情してる。


 麻衣ちゃんが“時間魔法”で少女の外見を保ってること、ゆあちーは知らないんですからっ。私達田中夫妻とは違う理由ですけど、麻衣ちゃんも大概イレギュラーですからね?


「ことちー、私もお酒飲んだ方がいい……?」

「ゆあちーはまだ知らなくていい世界だよ」


 ゆあちーの教育に悪くないですかこの環境。大丈夫ですか?

 え?私も酒カスだろって?


 あははっ。自分のことを棚に上げてぼろくそ言うのが楽しいんですよ。

 琴カスとか知りません。誰だ琴カスなんてあだ名付けたやつ。三上パパめ。グレてやろうか。おらおらっ。


 ----


「パパ、肉ばかり取りすぎです。白菜が泣いてますよ」

「俺が育てた肉にケチ付けんなや、酒のアテに向いてんだこれが」


 パパはほとんど肉しかとりません。せっかくだからって、少し高い肉を買ったのにほとんど三上パパの胃の中に入っていきます。

 ですが、肉を独占するのを許さなかったのは、ゆあちーでした。


「私だって肉欲しいー!三上おじさんばかりずるいー!」

「お、おじっ……!?」

「はいもーらいっ!」

「あっ!?」


 三上パパが「おじさん」と呼ばれたことに動揺している隙を狙って、ゆあちーは菜箸で肉を掴み、自分の皿へとよそいました。

 まあゆあちーだって16歳ですもんね。育ち盛りです。

 むしろそんな若い女の子を差し置いて、肉を独占しようとするパパが悪いです。ビールのあてにちょうどいいのは分かりますが。


 そんな三上パパの隣に座った麻衣ちゃんは、静かに赤ワインをたしなんでいました。


「……仕事の疲れにしみるねぇ……これ……」

「麻衣ちゃんも結構お酒好きなんだね」

「ことちーも飲んでみてよこれ。チーズに合うよ」

「じゃあ、ひと口だけ貰おうかな」


 あっ、またゆあちーが微妙な表情で見ています。なんならキッチンに立ってる恵那斗も困ったように眉をひそめてます。


 だけど久々のお酒ですもん!たまには飲ませてくださいっ。


 という訳で、私は麻衣ちゃんからワイングラスを受取りました。

 なんだかワイングラスって、ちょっと乱暴に扱うとすぐ割れちゃいそうなので怖いです。


 そんなワイングラスに、麻衣ちゃんは静かに赤ワインを注いでくれました。


「はいっ、どうぞ」

「ありがとうー、じゃあ早速……」


 こういうのって、どれくらいのペースで飲むのが良いのか分かりません。


 なので一気に煽りました。

 ワイングラスに入った赤ワインを、一気にです。


「あっ」


 麻衣ちゃんが引きつった笑みを浮かべました。嫌な予感を悟ったような顔です。


 私は基本的にビールしか飲まないので、ワインの度数とかあんまり知らないんですよね。

 口の中に、ほんのりと渋みと甘みが混ざったような風味が広がります。


「あっ、これ美味しい……んぇ……?」


 あれ?

 一瞬で頭がぼーっとしてきました。


 私、元々お酒は強い方だと思うんですけど。

 久々に飲んだものですから、酔いやすくなっちゃったのでしょうか?




 ちなみに、私は知りませんでした。

 赤ワインって、結構アルコール度数高いんですって。

 大体アルコール度数12%とか、らしいです。




「……んふ」


 つい、笑みが零れちゃいました。

 自制できなくなっちゃいました。


「あ……」

「んふふっ」

「……ごめん皆。やらかしたかも」


 麻衣ちゃんが何かを悟ったみたいで、すぐに謝罪の言葉を掛けました。

 ん?なんで謝っているんでしょう。そんなやらかすようなこと、何もないはずですよ?


「まいちゃーん。もっとちょうだいっ、おさけっ、おさけーっ」


 あっ。

 やばいです、ろれつが回っていません。


 麻衣ちゃんは引きつった笑みを浮かべながら、さっと私から距離を取りました。


「おさけだぁ……んふふ」


 自制心を失った私は、麻衣ちゃんの前に置かれたワインを勝手に取りました。そして、ワイングラスに再び赤ワインを注ぎます。


 そして、それを何の迷いもなく再び一気飲みしました。

 

「ん~~~~おいしいですっ。あっ、チーズ、チーズ……」

「おい誰か琴カス止めろ」

「だれが琴カスですかパパ~~~~……んふふっ」


 パパが冷ややかな目をしてこっちを見てきます。そんな止められるような言動してませんもん。私、何も悪くないです。

 


 そんな中、急に悲しくなってきちゃいました。感情のコントロールが出来ません。


「う、うぅー……にゃ……なんでぇ。なんで皆そんなこと、言うのぉ……」

「……ことちー……」


 私の隣に座っていたゆあちーは、動揺した様子でじっと私を見ています。

 そんな彼女に、ふと縋りたくなりました。


「ゆあちー……っ。うー、ぎゅー……」

「あ、わ、わっ?」


 なんとなく甘えたくなったので、そのままゆあちーの胸元にダイブしました。ふにゃっとブラジャー越しに柔らかい胸の感触がします。それ以上に暖かい体温が衣服越しに伝わるので、凄い安心感です。


「ゆあちー……おちつく……」

「えっ、えーっと……よしよし、良い子だね……?」


 ゆあちーは困惑しながらも私の頭を撫でてくれました。

 なんだかすごく心地良くて、つい甘えたような声が漏れてしまいます。

 

「んふ~~~~……」

「……ねえ、ことちーさ、どうしたら良い?」


 ゆあちーは困惑した様子で、周囲に助けを求めてきました。

 ですが、酔っぱらった私からすれば「捨てられる」としか思えませんでした。


「ゆあちー……すてないで、すてないでぇ……」

「捨てないよ!?」

「うそだぁー……私を追いやろうとしたぁー……んぅ……」

「ことちー、酔っぱらうとめんどくさいね」

「んゅー……」


 私はゆあちーの胸元で顔をこすりつけながら、必死に彼女を引き留めようとします。

 そんな私をゆあちーから引き剥がしたのは、恵那斗でした。


「ほら、琴。こっちに来なさい」

「恵那斗ぉー……んー……恵那斗だぁ……ふふ」

「っ……っ……!!」

「んー……恵那斗の匂い、好き……」

「っく……ぅ……っ!!」


 恵那斗がやってきたのが嬉しくなって、今度は恵那斗の胸元に顔を埋めます。ですが、その度に恵那斗が表情を押し殺して、自らの顔を手で覆い隠すのでした。

 彼の行動がどういう意味を持っているのか分かりません。


「恵那斗ぉ、どうしたのー……あたまいたいの……?」

「な、なんでもないわ……っ、破壊力……破壊力……っ……!!」

「んふ……好き。恵那斗大好き」

「っ~~~~~~~!!!!」


 いきなり、恵那斗は赤べこのように頭を振り始めました。

 何がどうなっているのか分かりません。押さえつけようと強く抱きついてみますが、恵那斗の混乱は止まりません。


「こ、琴っ、ちょっと落ち着きなさい……っ!」

「えへー……なぁにっ。恵那斗……」


 もう、自分でも何が何だかわからないです。


 そして、遠巻きに見ていたパパ達の顔は、あからさまに引きつっていました。


「おい、どうすんだこれよォ……」

「麻衣ちゃん。もうことちーにお酒渡しちゃダメ。恵那斗さんが可哀想なことになってる」

「……ごめんねぇ……」


 私が暴れ疲れて寝落ちるまで、このドタバタは続いたようです。


 起きて気づいた時には、日付は1月1日を迎えてました。

 あれ?

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 明けましておめでとうございます!今年も宜しくお願い致しますm(_ _)m 酒癖悪かったのか琴ちゃん…TSして余計に酒に弱くなった? 自分は下戸だから飲まないので、意識無くなる…と…
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