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第93話 価値観

「おじいちゃーんっ。ね、ね、ことちーと一緒にパーティ組んで良いー?」


 ゆあちーは、自らのパーティメンバーである金山 米治さんに説得してくれています。

 すると、彼は「ふぅむ」と暖かい目で私とゆあちーを交互に見てきました。


「由愛ちゃんもお友達と一緒の方が動きやすいかのぅ?わしは良いが……琴男は良いのかの?」

「私もゆあちーとはまたパーティ組みたいと思ってたんで、良いんですけどー……」


 馬鹿正直にそう返事すると、ゆあちーはぱあっと顔を明るくしました。だって、友達とパーティを組む機会なんてそうないし……。

 

 金山さんからの許可も下りたので、次は私の問題ですね。

 ちらりと元々ダンジョンを攻略予定であった、彼氏の恵那斗と三上パパに視線を送ります。


 すると、二人とも私が何を言おうとしているのか悟ったのでしょうね。恵那斗は微笑みながらポンと私の肩を叩きました。


「まあ、たまには男性陣と女性陣に分かれるのも良いかもしれないわね」

「男性、女性……えっと……?」

「見た目的な意味よ。金山さんが問題ないなら、ね」


 私と恵那斗の性別が正反対なので、ややこしいことになっていますね。

 私が元男性で、恵那斗が元女性です。こんな夫婦でホントすみません。

 

 ちなみに三上パパは、こういう個人間の話があまり得意じゃないみたいで「別に好きにすればいいと思うがなァ」とか言っていました。ほんと駄目パパ。

 仕事ができるとかじゃないです。そう言うとこですよ?もーっ。


 それから、恵那斗は私に小声で耳打ちしてきました。


「ついでに、金山さんから軽く話を聞いておくわよ。後で共有するわね」

「……うん。お願い」


 主語こそ抜けていますが、私にはその意味は瞬時に理解できました。

 私達の身に起きた変化を踏まえた話ですね。


 金山さんは「定年までに一度は1人でダンジョン攻略をしておきたい」と言っていたそうです。さすがに田中夫妻という事例だけで2つも同一の現象が起きているので、偶然とは言えないですね。

 本人の意思は尊重したいですが、望まない結末となりうる可能性だってあります。

 こういった“大人の対応”について、恵那斗は非常に強いので助かりますね。頼れる彼氏です。


 

 という訳で、突然の予定変更ではありますが……パーティ入れ替えです。


 女性陣パーティとして。

 私、田中 琴。

 ゆあちーこと、土屋 由愛。

 全日本冒険者協会職員の、花宮 麻衣。

 ……の3人。


 男性陣パーティとして。

 私の彼氏の、田中 恵那斗。

 ゆあちーと同じパーティである金山 米治。

 ギルドにおける人事部長のパパである、三上 健吾。

 ……の3人。


 に、パーティを分割することになりました。ちょうど人数的にもバランスが良くなりました。



 なんというか……男女でパーティを分けると、空気感が全然違いますね。

 私の隣に立ったゆあちーは、恵那斗へと悪戯染みた笑みを向けました。


「残念だったねー、恵那斗さん。せっかくの可愛いことちーの新装備の初陣、私が貰っちゃうからねっ?」

「あら、別にいいわよ。琴と一番最初にパーティを組んだのは私だもの」

「くっ……それ言われると勝てないじゃん!」

「ふふっ。またいくらでも、琴の昔話でもしてあげるわよ」

「ほんとっ!?聞かせて聞かせてっ!!」


 どうして2人は私の話で良く盛り上がっているのでしょう?

 ゆあちーは目をキラキラとさせて、私の昔話を期待しているようです。私からすれば黒歴史なんですけど!!だいぶイキってましたから、恥ずかしいんですよー。

 

 

 それからちらりと視線を横に向ければ、三上パパと麻衣ちゃんが会話しているのが見えました。


「花宮よォ。お前も苦労してんな……今度飯でも行くかァ?」

「三上さん、是非とも誘ってくださいよ。私、この見た目ですから、一人じゃお酒飲めないんですよぉ~……」

「……お前、琴きゅんの悪い部分引き継いでんなァ……」

「なにごともお酒がないとやってらんないですからねぇ~。琴ちゃん……あー、田中先輩には良いストレス発散方法教えてもらいました」

「悪ィ。やっぱこの話ナシで、琴きゅんに悪い影響与えるわ」

「なんでですかぁ!?」


 ……!!なるほど、三上パパに連れてもらってお酒を飲む!!そういう手がありましたか!!

 良い話を聞かせてもらいました。今度三上パパに提案してみましょう。

 恵那斗にお酒を買ってもらう、という算段も考えたんですけどね。恵那斗は戸籍上の年齢を18歳にしちゃったらしいので……。駄目でした。


 というか、麻衣ちゃん……今の私と、男性時代の私。区別して会話していませんか?同一人物なんですけど。



 私は最後に、視線の先を金山さんに向けました。

 いきなり「パーティを分割する」だのめちゃくちゃな話に巻き込まれているのに、このおじいちゃんときたらニコニコと笑みをたたえています。聖人ですか?


「おや、田中君……いや、違うか。今は琴ちゃん、の方が正しいかの?」

「……あー、どっちでも良いですよ?聞かないんですか、こうなった経緯とか」


 穏やかに笑みを浮かべている金山さんへと、私はワンピースに身を包んだ今の姿を見せびらかしてみます。その振る舞いに対して、遠巻きに見ていた三上パパが吹き出してました。後でぶん殴る。

 ですが、この聖人おじいちゃんときたら、動じた様子もなく眉ひとつ動かさないんですよね。


 昔からそうですが、心の奥底まで透かしたような視線が怖いです。昔、臨時でパーティを組んだ時からこの視線が苦手です。

 

「言ったじゃろ?元より見た目はアテにしとらんと。琴ちゃんの本質は変化しとらん、それで十分じゃ」

「私の本質?」

「好奇心じゃよ。お前さんからは、昔から変わらぬ好奇心を感じる」

「……まあ、否定はしません」


 好奇心に関しては、一切否定できませんね。事実です。

 ゴブリンがいたら、つい色々と実験台に使っていますし。


 “アイテムボックス”内には、研修中に使い切ったゴブリンの死骸が着々とストックされてきています。

 ……そう言えば、特殊個体の水ゴブリンの死骸どれだっけ?まだ解剖していないので、どれがどれだか分からなくなっちゃいました。後で“アイテムボックス”の中からひっくり返してみましょう。ゴブリンガチャ10連、特殊個体確定ガチャです。


 さて、そんな話は置いといて。

 私からも軽く、金山さんには触れておきたい話があるんですよね。


「金山さん。あなたは、やっぱりまだ、死に場所を探しているんですか?」


 そう静かに問いかけると、金山さんは軽く目を見開きました。ですが、再び穏やかな顔つきへと戻り、首を横に振ります。


「昔にそのようなことも語ったかのぅ。じゃが、もう今は探しとらんよ」

「ん?守るものでも出来ましたか?」


 再婚でもしたのでしょうか?

 そう思ったのですが、金山さんは「ははは」と声を上げて笑いました。そんな面白いジョークを言ったつもりはないので不服です!

 

「結婚相手でも出来れば良かったがのぅ。儂のわがままで、ダンジョン内で命を落とすようなことがあれば……ギルドに迷惑が掛かるじゃろ。人様に迷惑をかけてまで、死ぬつもりはないからの」

「……人生は、ひとつの作品ですもんね?人様に迷惑をかけてまで生み出した作品に、価値はない……と」


 かつて語った、金山さんの価値観をなぞるようにして言葉を返しました。

 すると、金山さんは「ふむ」と関心深そうに、顎髭を触りながら微笑みます。


「まあ、そう言うことじゃ。儂は自分の人生を不当に扱うつもりはないからの」

「……なるほど」

「しかし、お主は知りたがりよの。こんな老いぼれの価値観など、どうでも良かろうて」

「……価値観……」


 別に黙るようなことでもない話なのですが、私は上手く返事をすることが出来ませんでした。

 ここ最近、変化する環境の中でつい、価値観について考えてしまうんですよね。


 自分の中で、何を大事にするべきなのか。何を変えていくべきなのか。

 年齢も、性別も、見た目も。何もかも、変化する中で……何を、守っていけばいいのか。


 人生は、ひとつの作品。

 金山さんの発した言葉に、私は自分のこれからを考えないといけない気がしました。

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