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第86話 剣聖

 そう言えば、以前に魔法銃や魔法杖について解説を行った際。「構造魔法陣」という概念について説明を行いましたね。

 改めて説明しておきますが、これは「武器に(あらかじ)め術式を付与したものに、魔素が接触することによって魔法が発現する」というメカニズムによって成り立つものです。


 魔法技術が発達した現代において、特に身近に利用されているものですと……ファミレスの配膳システムですね。

 ダンジョン外である為に、魔法こそ使用できません。しかし、魔石を利用しているとなると話は別です。


 これは飲食店を経営している企業が、魔石を管理しているギルドから直接仕入れることによって成り立っている方法です。

 安定した供給を図る為。大規模なチェーン店ほど魔石を仕入れる為に、特定のギルドと契約を結んでいるみたいです。契約農家みたいなやつです。こう例えるとファンタジー感が死んでしまいますね。

 

 日々、魔石を用いた魔法技術の開発を人々は行っています。その功績もあってか、現代日本においては魔石を用いた新技術が普及いたしました。

 ですが、肝心の魔石を納品するのは私達冒険者です。そんな冒険者は年々減少の一途を辿っています。

 やはり一次産業のような体力仕事には需要がありません。


 納品した魔石を用いた新技術を開発するような企業に、新世代の若者は取られています。美味しいところだけ取りやがって、許せん。

 黎明期は「魔法が使えて魔物と戦える」と言った謳い文句が使えたんですけどね。冒険者が他の職業と同一の存在となった現代において、かつて流行ったファンタジーゲームは「職場体験ゲーム」扱いです。ちょっと。もう少し良い扱いあったよね?

 

 冒険者という職業に少しでも関心を持ってもらう為に、わざわざ“幻惑魔法”の開拓まで進めて開発した“ステータス”。それでさえも今やバイタルサインと同列の扱いですからね。

 高難易度ダンジョンを攻略する際に、冒険者が「大丈夫」と言っていても、ステータスを見て「全然大丈夫じゃないよね!」となる事例は多々あります。


 ……私の話ではありませんよ?ぴゅ~♪(口笛)

 

 やはり、いつかは真新しさというものは無くなってしまうものです。現実には勝てません。


 ……そう言えばこれ、何の話でしたっけ。

 あ、そうでした。「構造魔法陣」の話でしたね。つい冒険者界隈に人が来ないことに対する愚痴が零れました。てへっ。

 

 さて、私の妻……えーっと、彼氏……が、今のポジションとしては適切なのでしょうか。

 

 彼氏……彼氏かあ。えへへ。

 ……こほん。


 彼氏である恵那斗が、園部君のところで発注してもらった武器である蛇腹剣。

 そのまま使う分にはただの剣です。しかし、この武器には「構造魔法陣」が仕込まれています。


 でないと特注なんてしないですよね。普通に使うならロングソードで十分です。経費で何本折っても良いですし……あっごめんなさい嘘です。もう三上パパに怒られたくありません。

 この間、ついにゲンコツを喰らいました。女の子相手に酷いとは思いませんか?ねえ?

 

 という訳で……えっと、どういう訳なのか分かりませんが。

 私の前に颯爽と立ちはだかってくれた恵那斗。

 彼の活躍に期待しましょう。


 以上。

 特殊個体である水ゴブリンに殴られて、死にかけている琴ちゃんからでした。

 

 「死にかけなのに口うるさいなこいつ」とか言わないでください。あ、思うのも禁止ですよ。えへっ。

 

 ----

 

「琴をこれ以上、傷つけさせはしないわ」


 恵那斗はそう静かに言ってくれた後、右手に携えた蛇腹剣を正面に構えました。

 それから彼は、園部君のところで特注してもらった武器に向けて魔法を唱えます。


「“魔素放出”」


 透き通るような声が、辺り一帯に響き渡るのに連なって、恵那斗が持つ蛇腹剣を繋ぎ止めていた刃が分離していきます。それは、まるで彼の第三の腕となるが如く、ふわりと宙に浮かびます。

 その様子を横目に見ていた三上パパは、水ゴブリンから視線を動かさずに感想を述べました。


「へェ、面白れェ武器作ってもらったじゃねぇかァ?」

「良いでしょう、これ。琴が喜ぶかと思って」

「お前まで琴きゅんをガキ扱いしてんじゃねェか……」

「当然、実用性だってあるわよ?向こうが水の球を放って目くらましを狙うのなら、こっちだって作戦があるわ」


 ワイヤーによって繋がれた刃が、恵那斗が振るう動きに連なって大きく揺れます。

 私は倒れたまま動けませんが、内心興奮してます。やっぱり蛇腹剣、ロマンありますよね。かっこえー!


 相対する水ゴブリンは、不規則に揺れる蛇腹剣の攻撃を警戒するように、身構えたまま動きません。


 その隙を狙うように、三上パパは腰を落としたまま唱えました。


「よそ見とは良い度胸じゃねェかァ!?“エンチャント:雷”ッ!!」


 三上パパも属性付与魔法を覚えていたんですね。正直、冒険者時代に彼とパーティを組んだことが無かったので、私も初見です。

 両手に装着した手甲鉤に迸る稲妻を携えた三上パパは、より一層腰を落としました。ダンジョン内に舞う塵へと走る稲妻が、大気中に青白く迸ります。


「舐めんなよクソ共がァ、言っとくがなァ……喧嘩は強ェ方がモテんだよォっ!!」

「くちが……わるいです、よ……パパ……」


 冒険者時代の感覚を呼び起こした三上パパは、荒い口調のまま勢いよく水ゴブリンへと駆け出しました。“エンチャント:雷”を纏った身体で、ステータス増強効果によって加速したパパの動きは、素人目ではそうたやすく捉えることはできないでしょう。

 残像のみを残した三上パパの動きは、手甲鉤から迸る稲妻の軌跡のみが教えてくれます。水ゴブリンを迂回するように駆け抜けるパパは、まるで重力をものともしません。

 壁面を、天井に、稲妻を残しながら駆け抜けます。


「……ギッ!?」


 身体に纏わせた水滴の一部を大気中へと浮かび上がらせた水ゴブリンは、その三上パパの動きに警戒。驚いた様子でその姿を追いかけます。

 稲妻の消える先に辿り着いた頃には、とっくに三上パパが拳を構えていました。


「だらぁ!まず一発ァ!!」

「ッギ……」

「クソガキに傷付けてんじゃねェぞクソゴブリンがよぉッ!!」


 三上パパが放った稲妻纏う右フックは、水ゴブリンの頬を打ち付けました。予想だにしなかったインパクトを喰らった水ゴブリンは大きくよろめきつつも、三上パパの動きに順応。素早く身体に纏う水滴を弾丸の如く射出してきました。

 水滴と言えど、高濃度の魔素を纏わせて発射すれば、銃弾とそう殺傷能力は変わりません。

 

 ですが三上パパ。それが分かっているはずなのに避けようともしません。馬鹿みたいに水の弾丸に向かって駆け出しました。

 えっ、大丈夫ですかパパ!?もうその眼鏡は飾りですか!?老眼ですか、それとも白内障ですか!?


 ちなみに私の予想は全部外れました。はい。すいません。


「このスーツはなァ、ダンジョン仕様なんだよォ!!」


 三上パパはそうビジネススーツの性能をアピールしながら駆け抜けます。それを証明するように、水ゴブリンが発射した水球をものの見事に、三上パパが着込んだビジネススーツははじき返しました。

 どうやら、魔物から手に入れた繊維で編み込んだスーツのようですね。


 魔物は養殖が出来ないという問題もあって、結構高いはずなんですけど……わざわざ買ったんですか?経費で落ちないですよね?


 そんな弾丸をもろともせずに突進してくる三上パパに恐怖したのでしょう。水ゴブリンは咄嗟の判断で、大幅にバックステップして距離を取ろうとしました。

 私だって多分そうします。距離を取ろうとしているのに、駆け寄ってくるおっさんとか怖いですよね。え、そう言う話じゃない?


 ですが、そんな水ゴブリンの行動は恵那斗が許しません。

 彼が“魔素放出”によって巧みに操作した蛇腹剣。それはしなる鞭となり、バックステップした水ゴブリンの身体へと巻き付きました。


「ギッ……!?」


 蛇腹剣によって身体を拘束されたゴブリンは、忌々しげに身じろぎします。ですが、どれだけ身体を捩らせても皮膚を傷つけるだけ。苛立った様子で「ギィ、ギィ」と叫びます。

 そんなゴブリンの元へ静かに歩み寄るのは、余裕の笑みを絶やさない恵那斗です。

 

「ふふ、捕まえたわ。この武器はね、高濃度の魔素を当てると……ほら。こんな風にしなるようになるのよ」


 恵那斗はそう語りながら、刃を繋ぎ止めているワイヤーに素手で触りました。うっかり怪我したら危ないからやめて?

 彼の言う通り、蛇腹剣に内蔵したワイヤーは指で押す勢いにぐにゃりと、大きくしなりました。


「ッギィッ!!」


 水ゴブリンは苛立った様子で、再び水の弾丸を発射。

 ですがそれを予期していたのでしょう。恵那斗はくすりと微笑みながら、空いた左手を虚空へとかざしました。


「読めてるわよ。“障壁魔法”」


 すると、恵那斗の眼前に半透明の障壁が顕現しました。

 いとも容易く、その水の弾丸は障壁に弾かれます。


 恵那斗——柊 恵那がかつて「剣聖」と呼ばれた所以(ゆえん)はここから来ています。

 熟練度こそ完璧とはいかないですが、数多くの魔法を手慣れた動作で扱うことができる冒険者だったんです。彼女は。

 なんというか、“勇者”の二つ名が似合いそうです。


 それは男性になっても変わらないですね。

 飄々とした表情を崩すことなく、彼女は水ゴブリンへと歩みを進めました。


「ッギィ……」

「もう、良いわね?おやすみなさい」


 恵那斗はそう最後に宣言した後、最も得意とする“睡眠魔法”を無詠唱で放ちました。

 水ゴブリンは、“睡眠魔法”に抗うように険しい表情を浮かべていましたが——それも束の間のことでした。

 微睡んだかと思うと、ガクリと項垂れました。


 勝利を確定させる寝息が、ダンジョン内に響き渡りました。

 

「恵那斗君よォ、よくやった」

 

 そう言って、最後に三上パパが手甲鉤を水ゴブリンの喉元に突き刺します。

 絶命した水ゴブリンの四肢は、完全に脱力しました。今は、もう、動かない。水ゴブリン。


「……さ、すが……恵那斗……」


 三上パパの力もありますが、やはり末恐ろしいのは恵那斗です。

 

 低レベルになっても本当に頼もしいですね。

 終始地べたに倒れたままだった私は、心の中でガッツポーズをしました。



 そんな虚弱な私を、軽々と担ぎ上げたのは三上パパです。


「クソチビは軽くて運びやすいなァ。今日はダンジョン攻略終わりなァ……帰るぞ」

「人を、に、もつみたいに……」


 確かに体重は43㎏と軽いですけど、荷物扱いは失礼じゃないですかっ。

 ですが、ジタバタと抵抗する体力は残っていません。なので、私は三上パパに担がれるがままにダンジョンを後にせざるを得ませんでした。


 あ、でもその前に。


「恵那斗ぉ……ここに水ゴブリン投げ入れて……」


 残ったMPで、“アイテムボックス”を顕現させます。

 これだけは譲れません。


 あっ、三上パパの「お前……」という呆れた声が聞こえました。良いじゃないですか、大事なことですよ。

 恵那斗も「マジかコイツ」みたいな顔をしていましたが、やがて苦笑を漏らしつつ肩を竦めました。出ましたイケメン特有の肩竦め。


「良いわよ。琴にも出番をあげなきゃね」

「ありがとぉ……」


 水ゴブリンの死骸は、あっけなく私の“アイテムボックス”の中に格納されました。

 また体力が回復したら解剖しましょう。


 

 ちなみに、ですが。

 三上パパに担がれながら、ふと気になったのでステータスを確認してみました。



【田中 琴】

Lv:12

HP:31/105

MP:102/215

物理攻撃:46

物理防御:37

魔法攻撃:178

魔法防御:121

身体加速:53


 ……割と死にかけでした。危なっ。

 恵那斗の“治癒魔法”が無かったら、HP1桁とかだったんじゃないですかね。ひえ……。

 

 逆にMP自体は案外残っていますね。研修中はMPを全損していた記憶しかないので、少しだけ安心感があります。

 ポーションのお世話にならなくて済みそうです。あれまずい。嫌い。

 

 それに、レベルが2も上がっていますね。嬉しいです。


 

 今回、私良いところナシでした。

 え?普段から茶々しか入れてないだろって?うるさいですね、“琴ちゃんキャノン”の実験台になりたいですか?


「水ゴブリン……解剖……んふふ」

「琴きゅんよォ、うるさいから黙ってろ?」

「きゅぅ……」


 三上パパは今日も辛辣(しんらつ)です。

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