第78話 大切な友達
【yua♥】
[ことちー]9:14
[今日空いてる?]9:15
[久しぶり]9:25
[うん。空いてるよ]9:27
[遊ぼ!!笑]9:30
[いいよ]9:33
[麻衣ちゃんは来るの?]9:35
[仕事が溜まってるんだって泣]9:36
[私達とそう変わらない年齢なのにすごいよね]9:37
田中 琴がメッセージの送信を取り消しました。
[ごめん間違えた]9:41
[私と年齢近いのに尊敬するよ]9:42
[ね!!笑]9:45
[待ち合わせどこにする?]9:46
[最初に会った駅前はどうかな]9:48
[わかりやすいし]9:49
[さんせーい!笑]9:49
[お昼ごろでいいかな?]9:50
[そうしよっか]9:52
[ゆあちーはご飯食べてくるの?]9:53
[んー笑
ことちーと一緒に食べたいかも]9:54
[わかった]9:55
[てかさ、聞きたいんだけど]9:56
[あの男とどういう関係なの?彼氏?]9:57
[あー]10:05
[えっとね]10:06
[うん、彼氏で合ってるよ]10:09
[やっぱり笑]10:10
[彼氏って、研修中に連絡取ってた人かと思ってた
早とちりしてごめんね]10:11
[にかわう]10:11
[ちがうよ!?]10:12
[ほんと迷惑掛けちゃった]10:13
[でもさ、仲良いの羨ましいなー
彼氏さんも冒険者?]10:13
[うん。そう私とレベル変わらないけどね]10:15
[へー!
大事にしないとね!笑]10:16
[ありがとう。
そろそろ支度するね]10:18
[あっ、私も準備する!
またねー!]10:19
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魔法使い研修から1週間が経った頃、私はゆあちーから遊びに誘われました。
時期的に言えば、夏も終わりに差し掛かろうという時期です。
じりじりと照り付ける日差しに身体を焼かれるのが嫌なので、今はTシャツに薄手のアウターを着込んでいます。動きやすさ重視のラフな格好です。
キャップを深々と被り、駅構内の壁に背中を預ける状態でゆあちーを待っていました。
一時期は、地球温暖化が加速した影響により気温は40℃近くまで上昇。酷暑という単語が用いられるようになるまでになっていました。
ですが、全国各地にダンジョンが生み出されるという大災害である“異災”が生じた日から、徐々に地球温暖化は改善の一途を辿っています。ダンジョンの外壁として用いられる素材が、地球温暖化の要因として考えられる二酸化炭素を吸収している、という説がありますが……実際のところは不明です。
地球温暖化が緩和したことにかまけず、二酸化炭素の排出量を抑制する目的として政府は魔法技術を活用した発電を勧めています。原子力発電、火力発電などに次いだ魔力発電です。
ですが、需要に対して魔石の供給が追い付いていないので、主力発電というには程遠いです。
そもそも魔石を集める役割である冒険者自体、3K(きつい・汚い・危険)の三拍子が揃った職業ですし。子供には人気があっても、実際に就職する人というのは少ないです。なので魔石の供給自体もカツカツみたいですね。
うーん辛い。
……というちょっとした愚痴は置いておきましょう。
スマホを触りながら、ゆあちーがいつ来るものかとそわそわしていますが……未だに連絡は来ないですね。
すると、そんな私に声をかけてくる人物が居ました。
「ねー!そこのお姉さん、今暇?可愛いね!!」
「……はい?私ですか?」
見るからにチャラチャラした、女性を誑かしていそうな青年に声を掛けられました。見るからに私を下卑た目で見ています。前にも似たようなことありましたね?
ですが。
「ぷっ」
なんだか、冒険者時代の三上パパを思い出して笑っちゃいました。
三上さんも冒険者の頃は、女の子に声をかけてはとっかえひっかえしていたんですよね。今でこそ普通にパパさんやってますが、当時のことを掘り返すと露骨に嫌そうな顔をします。ざまあみやがれ。
恐らく、目の前のナンパ男も似たような末路を辿る予感がして、つい面白くなっちゃいました。
ですが、目の前のナンパ男2号は明らかに苛立った表情を浮かべました。ちなみに1号は園部君にぶん殴られた人です。
そんなナンパ男2号は、いきなり私の右腕を強く鷲掴みしてきました。
「いたっ……!」
「てめぇ何へらへら笑ってんだ、ああっ!?」
ナンパ男2号は、声を荒げて私を威嚇してきます。
周りの人達はぎょっとした表情でこちらを見てきますが、関わりたくないのでしょうね。足早に去っていきます。
まあ、傍観者だったら私だってそうしますね。正しい判断です。
「……放してください」
「放してください、ねー?誰が放すと思うんだよ、なあっ!?」
あー……選択肢を誤りました。
ナンパ男2号は激昂した表情で、露骨に私を威圧してきます。
ドラゴンの咆哮に比べたら正直大したことは無いのですが、如何せんここはダンジョンの外です。
最悪、ショルダーバッグにしまい込んでいる非常事態用にしまい込んだ魔石を使えば、窮地自体は打開出来ます。
ですが、ゴブリンサイズとはいえ、魔石1つで1万円ほどの出費がかさむこと。それに加えて、低レベルとは言えステータスの恩恵が付与された状態で抵抗すれば、過剰防衛となる可能性もあります。
冒険者ほど魔石の取り扱いを気を付けないといけません。ボクサーが一般市民に暴力を振るうことがご法度のようなものです。
(……うーん。困りましたね)
さて、どうしたものでしょう。
ナンパ男2号に強く腕を引かれながら、打開の方法を考えていた時でした。
「あら、良い男じゃない」
「あ゛あ゛!?」
田中 恵那……あっ、今は恵那斗でしたね。彼はどこかのんびりとした声音で、それでいて通る声でナンパ男2号に声を掛けました。
ナンパ男2号は威圧するように恵那斗を睨みますが、彼はまるで怯んだ様子もありません。
恵那斗は滑らすように、ナンパ男2号の身体を撫でまわし始めました。ちょっと色っぽい撫で方は止めてください。
「そんなちっちゃな女の子じゃなくてねぇ、私みたいな良い男に興味はない?ちょうどあなたみたいな男を探していたのよ」
「……ひっ」
「あら、そう逃げなくても良いじゃない。安心して、怖いのは一瞬だから……ね?」
恵那斗がそう語り続けている内に、徐々にナンパ男2号の表情が凍り付き始めました。露骨に恵那斗から距離を取り、後ろずさります。
ですが彼は逃しません。間合いを詰めるように踏み込み、ナンパ男2号の全身を執拗に撫でまわし続けます。
肩。
胸。
腰。
それから、その手は徐々に下の方へ——。
次の瞬間、ナンパ男2号は限界を迎えました。
素早く恵那斗から距離を取り、遠くへ逃げ去っていきます。
「わああああああ変態だあああああああ!!!!」
「……あら残念」
恵那斗は逃げ去っていくナンパ男2号を遠目に見送りながら、わざとらしくため息をつきました。
それから、ナンパ男2号の体に触れた手を叩きながらぼやきます。
「全く。そんな汚らわしい手で琴に触れないで欲しいものだわ。どっちが変態なんだか」
「……はは」
「大丈夫?怪我はしていないかしら」
恵那斗は優しく私の右腕に触れました。大きな手は、いとも容易く私の細腕を包み込みます。
まるで割れ物でも扱うように、大切に触れるものですから……どこかむず痒い気分です。
「だ、大丈夫だからっ……ありがとうっ」
慌てて恵那斗から手を引きはがすと、彼は私の胸中を見透かしたようにくすりと微笑みました。というか見透かされていますねこれは。
「もう、照れなくていいのに。土屋さんはまだ来ていないの?」
「そろそろ来ると思うんだけどね……あっ、メッセージ来た……もうすぐ着くみたい」
「ふふ、琴に友達が出来て嬉しいわ」
「……えへへ」
実年齢で言えば、30歳以上は離れていますが……1週間、ずっと共に行動してきた土屋 由愛さん。彼女とは研修が終わってからも、ほぼ毎日のように連絡を取り合っています。
今となっては、親友のような存在ですね。
そんな彼女は現役の高校生ながら、アルバイトという名目で冒険者業に励んでいるようです。特例も特例ですが、高レベルの冒険者というのはもはやそれだけで貴重な人材なので……。
既に夏休みの課題も終わらせ、今はシフトを詰め込んでいるようです。ほぼ毎日のようにダンジョンに潜っているそうです。立派です。
ちなみに冒険者をやっていることは高校の友達には秘密にしているそうです。まあ、そりゃそっか。
今後、ゆあちーとはずっと仲良くしていきたいと思っているので、隠し事はナシにしたいのですが……未だに私の正体をうまく伝える方法は見出すことが出来ていません。
伝える、って難しいですね。
「ことちー!お待たせー!」
そうしているうちに、ゆあちーが小走りでやってきました。
ボブカットに切りそろえた、黒と金のメッシュヘアが特徴的な快活的な雰囲気を纏わせる少女。フリルの付いたワンピースをひらひらとさせながら駆け寄ってくる姿は、非常に可愛らしいですね。
私はアウターのポケットにスマホを突っ込み、勢いよく飛びついてきたゆあちーを迎え入れます。
「お久しぶりー!」
「むきゅっ……1週間しか経ってないよ?久しぶり」
「んふふ、ことちーだあ……今日も可愛いなあ……今のうちに栄養摂取しとかないと」
「ちょっと、離れて、離れてよっ。恥ずかしいって」
勢いよく抱き着かれたかと思えば、胸元に顔を埋められたので恥ずかしいです。
私は彼女の肩をポンポンと叩きながら、大人しくそれを受け入れるしかありませんでした。
そんな私達のじゃれ合いを見守っていた恵那斗は、温かい視線を向けてきます。
「ふふ、仲睦まじいわね」
「……恵那斗ぉ……なんとかして……?」
「良いじゃない。とっても微笑ましいわ」
「も、もうっ……」
そう穏やかな顔で微笑みかけられては、何も言い返すことができません。ズルいです。
そんな恵那斗へと、ゆあちーは嬉しそうに微笑みかけます。
「ことちーの彼氏さん、ことちーに付いてきてくれてありがとう」
「いえいえ、琴は放っておくとすぐダメな方向に突っ走るもの。誰かが傍にいてやらないとね」
「さすが、分かってるじゃん」
「あなたもね」
2人はそう言葉を交わしながら、固い握手を交わしました。何なんですか?私のことを何だと思っているんですか2人とも?
恵那斗は、それから駅のホームへと視線を向けました。
「琴。また後で迎えに来るから、ちょっと行くわね」
「……ん?どこに行くの?」
「ああ、園部君のところよ。ちょっと男同士の野暮用、ってね」
「え。園部君?」
うん?
恵那斗、園部君といつ仲良くなったんでしょう?まあ傍から見れば、年の近い男子同士ですが。
何か隠している気がしますが、私が首を突っ込む話ではないですね。
「分かった。気を付けてね」
「琴こそ。無駄遣いは止めるのよ」
「……もうっ。子供みたいに言わないでよ!」
「ふふっ、冗談じゃない」
声を殺して笑ったかと思えば、恵那斗はどこかいたずら染みた笑みを浮かべました。
姿勢を正し、先ほどとは異なる雰囲気を作ります。
「じゃあな、良い子で居ろよ……琴」
「っ……!」
「ははっ。頼みますよ、土屋さん」
好青年モードでそう言い放った後、あっという間にその場から消え去りました。
相も変わらず、私は恵那斗の好青年モードに適応できません。つい不意打ちを喰らえば、胸がドキリと高まって硬直してしまいます。
急激に雰囲気が変わったのに驚いたのは、ゆあちーもだったようでした。
彼女は腕を組んで、「なんか色々と勿体ない人だな……」と呟いていました。
ゆあちーが恵那斗のことを異性として見ていないことに、内心ほっとしている自分が居ます。
そんな胸中を自覚して、ちょっぴり複雑になってしまいました。うーん……。
由愛「そう言えば、ことちーってあの人のこと、“恵那”って呼んでなかった……?恵那斗だっけ……聞き間違いかな?」




