表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/112

第74話 仕込み杖

「また物騒なアイデアを思い付いたなァ琴きゅんよォ……」


 三上さんは呆れたようにため息をつき、それからガシガシと後頭部を掻きました。

 

 仕込み杖とは、杖に偽装した刀剣のことです。鞘が杖の形をしていることにより、一目見ただけでは刀剣の類だと判断することが出来ない……いわば護身用の武器ですね。

 ですが当然、私の構想している仕込み杖とは大きく形状が違います。


 なんだか私の構想を語れるのだと思うと、凄くワクワクしてきました。

 どうせ冒険者業務に用いる為の武器作成なのですから、全力で語ってしまいましょう。


「あのね、聞いてくださいよパパ!私の考えているのはただの仕込み杖じゃないんです、遠距離の場合は杖、近距離の場合はロングソードとして扱うことができる、いわばスイッチ式の武器なんですよっ。“琴ちゃんサテライト”でダメージを稼ぎながら、それでも襲い掛かってくる魔物にはロングソードの一撃をお見舞いするんですっ。なんだかそれってロマンないですかっ、カッコ良くないですかっ!」

「ちょっと、ちょっと落ち着きなさい琴。あなたの脳内だけで完結されても何も伝わらないわ。というか何なの“琴ちゃんサテライト”って」

「あっ、あー……ごめん。ちょっと暴走してた……」


 うう、ついテンションが上がって妄想を全力で語ってしまいました。お恥ずかしい。

 ちなみに“琴ちゃんサテライト”というのは、私が構想している新技です。“炎弾”を使った琴ちゃん魔法シリーズのひとつです。


 ちょうど恵那にも私の魔法を見てほしいので、今度ダンジョン攻略する時にでも使ってみましょう。


 そんな私達のやり取りを聞いていた園部君父は、「ははっ」と朗らかな笑いを零しました。


「田中さんは探求心が強いんだね、うん、うん。いいことですね、将来を担う冒険者というのは、探求心があってこそだと思いますよ。決められた枠組みだけに収まらず、既存のものから新たな技術を開拓する、まさしく冒険者の希望だね。はい、素晴らしいです」

「あ、ありがとうございます……?」


 どういう感情の変遷へんせんなのか、正直分かりませんが……どうやら、園部君父は私のアイデアに共感してくれたようです。良かった。

 それから、私はポケットに入れていた属性石を取り出しました。相も変わらずチャック付きポリ袋に入っています。


 別にバレたからと言って、何か大事がある訳ではありませんが……一応、どこかご内密な雰囲気を出したいので。

 神妙な面持ちを作って、ポリ袋を持って提案してみます。

 

「……そうですね、ここだけの話なんですが。ちょっとしたツテで特別な“石”を手に入れまして……これを、使っていただきたいんですよっ」

「……何だか麻薬の密売みたいっスね」

「なんてことをいうんですか園部君」


 園部君に速攻で雰囲気を壊されてしまいました。

 そう言えば園部君も、この石についてほとんど事情を知らないんでしたね。園部親子は事情を知らないので、その部分も踏まえて説明する必要がありそうです。


 ですが、さすがに立って長話するのは疲れるので、どこかに腰掛けたいですね。

 そんな私の意図を瞬時に察知したのか、園部君父は「ああ」と両手を叩きました。


「はい、そうですね、ええ。せっかくですから、少し奥で話しましょうか。田中さんの持ってきたその石、何やら面白そうなものに見えますね」


 これは職人の勘というものでしょうか。私が属性石について何も説明していないにもかかわらず、そんな反応を示してくれました。

 少しだけ、彼には私と似通った雰囲気を感じます。

 

 ----


 さて、園部君父に案内されて私達は鍛冶場へと案内されました。

 その工房内には、赤錆びた鉄の匂いが充満しています。名称は正直知りませんが、様々な機材が炉に立てかけられる形で配置されていました。

 壁面には煤焦げた紙が貼られており、武具の製図が書き記されています。恐らく見返す用、というより書いて覚える為の役割なのでしょうね。ぐちゃぐちゃになったメモからは何も情報を読み取ることが出来ません。

 煤と灰の匂いが充満するその空間には、すごく男のロマンが詰まっていました。


「わぁ……!!」


 どうして、こういう空間を見ると心が躍るのでしょうね。

 壁面に立てかけられているのは槍の穂や、剣の刃などですね。魔物にダメージを与える役割を担う箇所です。それとは個別に、杖の先端に備え付けられる魔玉や、剣の柄なども並べられていました。

 武器の各パーツが配置されている様は、正しく工房というに相応しいでしょう。


 そんな空間が広がっているものですから、ついあちこちに視線が向いてしまいます。


「あのあのあのっ!これ、剣って……なんで片刃と両刃の二種類があるんですかっ?」

「ああ、気になりますよね。はい。片刃というのはですね、主に切れ味を重視した武器となっているんですよ。片刃は斬撃特化、両刃は叩き斬ることに特化しているんですね、はい」

「へぇー!!あっ、この魔玉……いっぱい並んでますけど。ここで作っているんですか!?」

「いやいや、さすがにそれは外注ですね、ええ、ええ。魔玉には構造魔法陣と呼ばれる式が事前に付与されていますね、はい。魔素を感知して反応する仕組みなのですが、これがまあ、精密な仕組みとなっておりますので手作業では難しい。魔玉の素材自体、ドラゴンの体内で生成される鉱石だったりするので、まあ専門の管理資格が必要という理由もあるんですけどね、はい。そういう訳です」

「おおーっ……!ありがとうございます、聞いてて楽しいですっ!」

「楽しそうで何よりですね、はい。こんな熱心に話を聞いてくれる若い冒険者が居るというものですから、未来は明るいというものです、ね」


 次から次へと気になることが出てくるので、皆のことをそっちのけで園部君父に質問を投げかけます。

 律義に答えてくれるものですから、つい好奇心が満たされますね。楽しいです。


「おい琴きゅんよォ……本題忘れてねェか……?」

「あっ」

「お前いい加減にしろよ……」


 さすがに三上さんの声のトーンが低くなってきました。

 怒りモードに入るまであと一歩というところに到達しちゃっています。長年の付き合いなので、怒られるラインという部分は分かっています。

 そんな三上さんの怒りを納める為にも、あえて申し訳なさそうな表情を作りました。


 今日覚えた必殺技です。

 必殺・娘ムーブ発動っ。

 

「……ごめん、パパ」


 すると、三上さんは「うっ」と罪悪感の滲んだ顔を浮かべてたじろぎました。

 それからばつが悪そうに視線をそらします。


「……ま、まあ……皆の時間も使ってんだ、ちったァ空気を呼んでくれりゃ良いんだがなァ」

「うん、ごめんなさい……気を付けます」

「ズリぃだろお前それよォ……」

 

 よし、(まぬが)れました。オールオッケーです。

 

 とりあえず三上さんの怒りゲージを鎮めることに成功したので、打ち合わせに戻りましょう。



 ----


「琴きゅん、ロングソードよく折ってんだからよォ。予算超えてでも、耐久性は重視すべきじゃないかァ」

「……ロングソードのことは否定できませんね。ですが、確かに強度は重要視した方がいいかもしれないです」


 頻繁にロングソードを破壊している私を見てきた三上さんからの視点は、非常に参考になりますね。

 実用性という観点がどうしても抜けやすいので、本筋に戻してくれる言葉掛けは助かります。


 ----


「田中先輩って結構、知識とか技術メインで戦うことが多いっスよね。シンプルな見た目の方が似合いそうっス」

「シンプルな見た目かー……確かに私もそっちの方が好きかな」


 実際に私の戦い方を目の当たりにしている園部君からの意見は、実戦に適した視点のものが多いですね。

 ゴテゴテした装飾は正直嫌うところがあるので、園部君からもそう言ってくれると嬉しいです。


 ----


「色々意見を貰うのは良いけど、結局は琴が納得しないと駄目よ。他人の意見に流されるようなことがあってはいけないわ」

「……うう。分かってるよ」


 そしていろんな意見を貰い、つい流されそうになれば恵那が割り入ってそう言ってくれます。

 なんだかんだ、最後に決めるのは私ですもんね。

 

 長年寄り添った恵那の言葉だからこそ、身に沁みます……。



 ----


「田中さんの言う“属性石”ですか?それをこれから作る武器に組み込めば、面白いものが出来そうな気がしますね、ええ。製造にお時間を頂きますので、また完成次第連絡します」


 最終的にまとまった製造案を元に、園部君父は楽しそうに笑っていました。

 彼からすれば、新たに発見された“属性石”ということも相まって心が躍っているのかもしれません。分かりますよ、その気持ち。未開拓の領域に踏み込むのは楽しいですよね。

 

 そして私にとっても、随分と完成が楽しみになりました。


「はいっ!よろしくお願いしますっ!」


 深々と頭を下げると、園部君父は満足そうに頷きました。

 これにて、私の専用武器制作の為の打ち合わせはひとまず終了です。後日、完成の連絡が届くと思いますので待ちましょう。

 

 気づけば、随分と密度の高い一日になりましたね。

 なんだか、今日が研修最終日だということを忘れるような情報量の多さでした。

 

「急に押しかけて申し訳ありませんでした。失礼します」

「いいんですよ、こちらとしても面白そうなものが作れそうですので。はい、是非とも期待していてください」

 

 園部君と、園部君父に見送られる形で園部武具工房店を後にした私達。

 気づけば時刻も夕暮れとなっていました。橙色の空が窓ガラスに反射し、世界を橙色に染め上げています。

 

 私達は再び三上さんの車に乗り込みました。

 当然ですが三上さんが運転席です。

 そして私が空いた助手席に座り、恵那が後部座席に座りました。


「パパ、またお願いしますよ」

「はいよォ。琴きゅんは家に送るけどな、恵那君。お前は残ってろ」


 エンジンをかける前に、三上さんはそう恵那へと語り掛けました。

 当の本人である恵那は「訳が分からない」と言わんばかりに首を傾げます。


「あら、どうしてかしら。私も琴と一緒に降ろして欲しいのだけれど」

「恵那君よォ、お前……今の立場分かってるかァ?戸籍のない正体不明の怪しげな男性なんだぞお前さァ」

「あら、別に良いじゃない。ミステリアスな男性は映えるわよ」

「ちったァ申し訳なく思えや……ブレねぇなお前……」


 まるで動じる様子もなく、飄々と言葉を返す恵那。

 ですが恵那の戸籍が無いというのは、私としても非常に困ります。戸籍のない男性を匿っている少女、という構図が出来上がるのは世間体的によくありません。


「恵那、さすがにそこはちゃんとしよう……?」

「どのく……いや、琴の言う通りね。分かったわよ」


“どの口が”と言いかけましたね恵那??ちょっと反論に窮するところはありますが!ごめんなさい!!


 ……まあ、渋々と言った形ですが。恵那は私の意見に頷いてくれました。

 恵那と再び過ごせるのはありがたいですが、極力面倒は減らしておきたいのです。特に戸籍問題は看過すると、いざという時が怖いので……。


「じゃあ、琴を先に送ってもらえるかしら。女の子を夜道に放り出すのは危ないもの」

「……女の子、なァ」


 恵那と三上さんがそんなやり取りをしている最中、私はポケットに入れたスマホから通知音が流れていることに気付きました。

 ポケットからスマホを取り出し、スリープモードを解除。通知を確認すると、どうやらメッセージアプリから新着メッセージが届いたようです。


 メッセージを送ってきたのは、鈴田君の彼女である前田さんでした。


[琴ちゃん、そう言えば今日帰ってくるんだっけ]17:45

[旅行楽しかった?]17:47


 ……?

 旅行?どういうことでしょう。


 そんな疑問が脳裏をよぎりました。


(……あっ、そうでした)


 ですが、よくよく思い返せば鈴田君と「前田さんには旅行に行ってるって伝えてほしい」という旨の話をしていましたね。彼女は私が冒険者ということを知りません。

 

  [楽しかったです!友達といっぱい遊んできました]17:50

  [すごく刺激的な一週間になりました、また行きたいですっ]17:51

[そっか!それなら良かった笑

 ちょうど私も仕事終わったところだし、琴ちゃんところに寄っていこうかなって]17:54

  [お疲れ様です!疲れてないですか?]17:55

[ううんー!私が会いたいだけ!

 琴ちゃんが良ければ行こうかなー笑]17:57

  [私は大丈夫ですよ!あ、もしかしたらもう1人来るかもしれないんですけど、大丈夫ですか?]18:01

[うん?私は大丈夫だけど

 良いの?]18:04


 そこで私はスマホを触る手を止めて、何の気も無しにちらりと恵那へと視線を送りました。

 

「……ふふ」


 彼は何も言わず、ただ穏やかな笑みを浮かべるのみです。

 ちょっとだけ、その笑みに面倒ごとの予感を感じ取りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ