第73話 園部武具工房店
はい、お久しぶりの琴ちゃん解説です。
今回は冒険者にとって必需品である「武器」について説明していきますね。
まず、大前提として私達が冒険者となる為には“冒険者免許”という国家資格が必要となります。これは、より質の高い魔石の安定供給を図る為に制定された資格です。
“筆記試験”と“実技試験”の2つをクリアすることにより、晴れて冒険者となることが出来ます。
……まあ、大体みんな試験勉強で覚えた内容は忘れちゃうんですけどね。どうしても勉強不足な園部君が脳裏に過ぎるので、定期的にフォローを入れます。
頑張ってね園部君。無学なので琴ちゃんポイント減点です。
……こほん。
そうした過程を経て得ることが出来るのが冒険者証。私達冒険者におけるマストアイテムですね。
冒険者証を手に入れることによって、晴れてギルドで冒険者として業務に励むことが出来ます。
それに加えて、武器もこの段階で買うことができるようになります。
まず、日本には一般市民の安全を守る為に「銃刀法(正式名称:銃砲刀剣類所持等取締法)」という法律があります。この法律がある為に、冒険者資格を有しない一般市民はダンジョンで使用する武器を購入することが出来ません。
冒険者証というのはその法律に矛盾しない形で、武器を購入できるようにする証明のようなものです。
なお、県や市の許可を得た店舗は、指定された区間内で武器を使用することが出来ます。これは一般市民の間でも、大剣やロングソードなど、実際の武器に触れる機会を作る為ですね。スキューバダイビングといった類のような体験型施設という形で、私達の生活に馴染んでいます。
専用のインストラクターを配置することを義務付けられていますが、まあ一定の需要はあるみたいです。
ゆあちーが元々やっていたポーターとしてのアルバイトとは違い、こちらは完全に娯楽としての扱いですが。何かとファンタジーとして扱われていた頃の名残が残っていますね。
そう言った武器に関する法律的な縛りが多いので、当然武器を購入できる店舗というのも限られています。
労働者向けの専用機器を取り扱っているような店舗でも、防具や装飾品と言った物しか売っていないですね。
装飾品の類はファッションとしても用いることが出来ますが、それだったら模造品で良いと思いますし。わざわざプロの商売道具でカッコつける必要もないです。
冒険者がダンジョン内で取り扱うことのできる武器を購入する為には、県からの許可を受けた専用の装備専門店へと赴く必要があります。
そこで購入・発注した武器は、警察に届け出を行う義務が生じます。
扱いとしては猟銃に近いでしょうね。
……等々、現実の冒険者業は面倒くさいことだらけです。
そう言った手続き諸々を省略する為にも、ギルドという存在は非常に助かります。
購入した武器に関しても、一般市民への威圧を避ける為、基本的には専用のカバーで覆うなどの対応が求められています。
“アイテムボックス”に格納できれば、そう言った問題から解放されるのですが。
ただ現実として“アイテムボックス”の会得に掛かる歳月の問題に加え、“アイテムボックス”の発動に掛かるMPコストが高いという問題点もあります。なので、基本的にはダンジョンへと向かう際には商用車のお世話になることが多いです。
“アイテムボックス”を実質ノーコストで扱える、私が例外中の例外なだけです。すごいでしょ、ふふん。
さて、園部君もダンジョン攻略という外勤終わりで疲れているだろうにごめんなさい。
少しだけ、私の新たな武器を作る為の打ち合わせにお付き合いください。
「お前ら、ちゃんとシートベルトしろよォ。警察に捕まンの俺だかんなァ」
「分かってますよ、パパ。信号無視とか止めてくださいね」
「ペーパードライバーの琴きゅんにだけは言われたかねェなァ……」
私達は三上さんが私用で使っている車へと乗り込みました。7人乗りが出来る大型車です。結構いい車に乗ってるんですね、羨ましいです。
三上さんの助手席には園部君、後部座席には私達田中夫妻が乗り込む形を取りました。まあ、園部君の実家に案内してもらうのならこの配置がベストですよね。
私も一応、“女性化の呪い”になる前の……まあ、つまり「田中 琴男の免許証」は持っています。ですがどう考えても身分証明には適さないことと、そもそもがペーパードライバーなのでロクに運転できません。警察のお世話になる未来が見えています。
え?いい加減免許証返納しろって?「明日やろう」って思っても、つい当日になったら「また今度で良いか」って気分になっちゃうので……。その繰り返しです。
恵那は車の運転に関しては上手なんですけどね。
私と同じ理由で免許証が機能しないこと。というかそもそも免許証の入った財布をダンジョン崩落の際に無くしたらしいので、どちらにせよ運転席に座ることは許されません。免許不携帯です。3000円の罰金です。
園部君はそもそも貯蓄がたまっていないので、自分の車もまだ持っていないようですね。
冒険者という職業自体、政府からの贔屓もあって給料自体は結構もらえるので、いつかは良い車を買ってそうです。総支給額はあまり見てはいけません。「ああ税金でこれだけ引かれてるんだ」という現実が見えてしまうので萎えます。
というそれぞれの車事情もあるので、私達は三上さんのお世話になるしかありません。
「よろしくお願いします」
「頼むわよ、三上」
「俺が案内するっスね。三上部長、運転よろしくお願いします」
そう言いつつ私達が乗り込むと、三上さんはげんなりした声音でため息をつきました。
ハンドルに体重を預ける形で前のめりとなりながら、ボソボソと愚痴をこぼします。
「ガキの御守りじゃねーんだぞ……つか、琴きゅんも恵那君も俺とそう年変わらねェだろうがよォ……」
「仕方ないじゃない。琴はともかく、今は私も免許証を持っていないもの」
「……はァ。つくづく“呪い”だわ……マジで。あ、途中コンビニ寄ってくわ、お前ら食べたいもんあるかァ?奢るぞ」
「あら、助かるわ。気の利く男は好きよ?」
「……その言葉、お前と出会った頃に聞きたかったなァ……」
三上さんの愚痴に対し、恵那はどこか茶化すように言葉を挟みます。
げんなりとした様子ながら、三上さんは運転前にカーナビを操作しました。
どうやらスマホとBluetoothで連動させたようですね。車内のスピーカーから、ロック調の音楽が響き始めました。三上さんの趣味が露骨に出ていますね。
それから、ギルド内に作られた駐車場から緩やかに発車。安全確認を行いながら、慎重に公道へと入りました。
同じように帰路を辿る車に混ざりつつ安全運転を心がける三上さん。彼は助手席に座る園部君へと言葉を掛けます。
「ま、園部よォ。道案内頼むわ」
「うス。というか、本当に田中先輩……あ、恵那さんの方っス。古くからの知り合いなんスね」
「あー、まァ見える訳ねぇよなァ。琴きゅんもそうだがよォ、随分と見た目変わっちまったもんだぜ?」
「いまだに信じられないっスよ。田中……あっ、今度は琴先輩の方っス。ややこしいっスね。先輩も、どうしても女の子にしか見えなくて」
園部君は未だに納得していないようですね。その言葉に小さく噴き出した三上さんは、バックミラー越しに私に視線を送ってきました。
「だってよォ、琴きゅん。見せてやりゃあ良いんじゃね?免許証よォ、持ってんだろ?」
「まあ、持ってますけど……ちょっと待ってくださいね。あっ、これです」
確かにちょうど良い機会ですね。
三上さんの提案に従うように、私は中年時代の顔写真がばっちり写った免許証を財布から抜き出しました。ガンギマリの目つきをした、犯罪者顔の頃の田中 琴男の写真がでかでかと写っています。
それから、後部座席から手を伸ばして、園部君へと手渡しました。
「はい、これが“女性化の呪い”に掛かる前の私だよ」
「あーっス、ありがとうござ……ん?は?え?これが田中先輩?マジで言ってます?お父さんの免許証パクったんじゃないスよね?」
「それ皆から言われるよ……」
“父親の免許証を持ってきた”と言われるの、もう何度目でしょうかね。別に恒例のネタじゃないんですが。
これでも私本人の顔写真です。
園部君は困惑した様子で、何度も私と免許証を交互に見比べています。
あの、もはやこれだけが私が田中 琴男だって証明するものなんです。信じてくださいっ。
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「で、あー……そこ曲がると見えてくるっス。あれ、あれっスよ。“園部武具工房店”って書いてるとこっス」
「おー、あんがとなァ。おい、田中夫妻よォ、着いたぜ……寝てるし」
……ん。いつの間にか眠っちゃってましたね。後部座席で会話の輪から離れちゃうと、つい眠くなっちゃって……。
三上さんの声で微睡んでいた意識がうっすらと覚醒します。どこかぽけーっとした頭で、三上さんと園部君の方を見ました。
「……ふぇ?」
「いつまで呆けてんだ、着いたぞ。武器作ってもらうんだろ、なァ?」
「ふぁ、にゃー……んん……」
「これが見た目通りの女の子の言動ならよォ、“可愛い”って言えたんだがなァ……」
起きなきゃいけないのは分かっていますが、まだ意識が完全に覚醒していないので曖昧な言葉を返しました。言葉として成り立たない発言しか出せず、三上さんはつい苦笑を漏らします。
園部君は何故か顔を真っ赤にして「47歳……47歳……」と呪文のように言葉を繰り返しました。そうですよー、47歳です。
「にゃー……降りるぅ……」
「ん、ふぁあ……あら、着いたのかしら」
「えーなぁ……」
「あら、仕方ないわね。私が先に降りるから、待ってなさい」
こくりこくりと舟をこぎながら、縋るように妻の名前を呼びます。すると同じく覚醒した恵那はくすりと微笑みながら、一足先に車から降りました。
そのまま停車した車からぐるりと回り込み、私の座っている方向からドアを開けます。
「ほら、私が受け止めてあげるから、早く降りてきてらっしゃい」
「んぅ……ありがとぉ……」
「全く、47歳男性の説得力が皆無ね……」
シートベルトを外し、そのまま恵那の胸元に飛び込む形で降りました。たくましい恵那の腕に包まれつつも、ゆっくりと姿勢を正します。
なんというか、恵那の隣にいると安心感があるんですよね。ふわふわとした気持ちになります。
ちょっとだけまだ眠たいふりをして体を預けてしまいたい気分ですが、本題を解決する方が先ですね。
「恵那、ありがとうね。……さて、園部君。案内してもらっても良いかな」
「あ、はい。先に案内するっス。田中 琴先輩、こっちです」
「いよいよ私も専用武器かぁ……」
園部君に誘導される形で駐車場の敷地内から、公道脇に建つ店舗へと案内されました。
大通りの中でも“園部武具工房店”と力強い字体で書かれた看板が存在感を示します。どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出したその店舗は、正しく職人の工房と言った雰囲気ですね。
普通に考えれば、長い冒険者人生で専用武器を持たなかったこと自体がおかしいと言えばおかしいんですけどね。一度決めたスタンスを崩すという考えにすら至らなかったので、ちょっと勿体なかったなあ、という気持ちさえ沸き起こります。
そんな年季の籠った店舗の中に、園部君は堂々と入っていきました。
「親父、お袋ー!帰ったぞー!言ってたお客さん連れてきた!」
重苦しい雰囲気をものともせず、園部君はずかずかと店内に入り込み、大声でそう叫びます。
すると店の奥から「はいはい!待ってもらって」という返事と同時に、慌ただしい物音が響きました。なんというか、実家特有の雰囲気が滲み出ていますね。
ガチャガチャと何か片付けるような音が聞こえたかと思えば、現れたのは「園部君を老けさせたらこんな顔になるな」と思わせるような初老の男性です。煤汚れたTシャツの上から、“園部武具工房店”と書かれたエプロンをかけています。
もはや説明が要らないんじゃないかと思うくらい、園部君と瓜二つなのですが……一応、本人からの自己紹介を受け取りましょう。
「やー、ははは汚くてすみませんねぇ。つい先ほどまで受注分の武器を製造していたところでして……はは。にしても武器というのは奥深いですねぇ、装備ひとつでも、その人の人生観が見える気がして」
「親父、自己紹介」
「あぁ、ああ!すみませんねぇ!いつもうちの新が世話になっております。皆さんに迷惑かけることなく仕事してますか。どうも、新は子供の頃から冒険者になるんだ―、って言って聞かなくてですねぇ。でもんで、うちって武具製造を生業にしてるでしょう?製造した武器が新の仕事に役立てるっていうもんですから、つい力が入ってしまってですねぇ」
「おい!そんな話良いから、とっとと自己紹介しろクソ親父!話が進まねーだろがぁ!!」
なんというか、園部君も苦労していますね……。
実の息子に怒鳴られてなお、園部父はぽりぽりと後頭部を掻きながら会釈しました。
「はい、はい。どうも。園部 栄登です。ええと、武器を注文したい、ってのはそちらの女の子と聞いてます。お名前は?」
「あっ、は。初めまして、田中 琴です。よろしくお願いします」
初対面の人物に対する挨拶というのはやはり緊張しますね。ぎこちない会釈となりましたが、園部 栄登……園部君父は、「うんうん」と嬉しそうに頷いていました。
「将来有望な若者の武器を作れるというのは、ものすごく光栄な仕事ですね、はい。はい、まあ、武器と言っても剣や杖みたいな、色んな種類がありますね。だいたいどんな武器を求めるか、でその人の人生が見えたりするもんですが、ねえ。田中……ええと、琴さんは、どんな武器が欲しいんですかね?」
ものすごく話し方が鼻につく人ですね。ですが、どこか武器に対する熱い拘りを感じる気がします。
ちょっとしたツテのつもりでしたが、案外信頼できるかもしれません。
そう思った私は、自らの考えを提示することにしました。
「ええと、ですね。仕込み杖を作ってもらいたくて……できますか?」
自らの考えを述べた途端、園部君父は硬直した後に目を丸くしました。
「……暗殺業をしていらっしゃる方、ですか?まあ、そういう時代もありましたが、現代では駄目ですよ、ご法度です」
「あのっ、違います。ちょっと、話を聞いてくれませんかっ」
……どうして、いつも曲解されちゃうのでしょう。
助けを乞うように園部君に視線を送ってみますが「ですよね」みたいな納得した顔をしていました。私、そんな暗殺者みたいな立ち振る舞いしましたかね?
これでも真っ当に冒険者やっていると思うのですが。ちょっと戦い方が他の人よりも特殊なだけで……。
ですが、そのような反応まで織り込み済みです。
私の内に秘めたロマンをぶつけるお時間ですね。
“属性石”を使った初めての武器ですので、奇抜なくらいがちょうど良いと思うんです。見ていてくださいよっ。ふんっ。




