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第49話 ダンジョンアイテム

 さて、無詠唱魔法を会得したことによって新たに編み出した魔法。通称“琴ちゃんキャノン”ですが、これは“炎弾”の重ね掛けによって成り立つ魔法です。


 無詠唱魔法が可能になるということは、魔法構築をほぼノータイムで行えるんですね。

 なので私は“炎弾”を、だいたい30回ほど一気に重ね掛けしました。

 

 それだけの“炎弾”を乗せた魔法が“琴ちゃんキャノン”となった訳です。

 ちなみに、現段階で“炎弾”を使用する際に消費するMPは2です。目標には到達しましたね、やったあ。


 ……え、30回も重ね掛けして大丈夫なのかって?

 ふふふ、大丈夫ですよ。田中 琴を侮らないでください。これでもベテラン冒険者、いくつもの困難をソロで乗り切ってきた冒険者ですよ?


 ですが念のため、確認しておきましょう。


 冒険者証を手に持って、いつもの合言葉です。

 せーのっ。

 

「ステータス・オープン」


 すると、私の眼前に例の如く幻惑魔法を介したステータス画面が表示されます。

 毎回この合言葉を唱えないと、MP残量が確認できないのは不便ですね。やろうと思えば常にステータス画面を映し出したままにすることも可能みたいですが。

 一応そういう装備もあるにはあるみたいです。ただ、その為だけに装備を増やすのはちょっと……という気もするので私は興味ないですけどね。


 【田中 琴】

Lv:7

HP:68/68

MP:80/154

物理攻撃:36

物理防御:26

魔法攻撃:116

魔法防御:84

身体加速:48


 あっ。

 やばい。

 MP使いすぎた。

 えーっと……、74も使っている計算ですから……おおよそ37回、“炎弾”を重ね掛けした計算になりますね。あはは。


「……琴ちゃん?」

「……あー……」

 

 私の反応が筒抜けだったんでしょうか。由愛ちゃんが訝しげな目をこちらに向けてきます。

 あっ、何か悟られたかな?

 

 ちなみに、「琴ちゃんキャノン騒動」で慌てて降りてきた人達は麻衣ちゃんが追い返しました。


 

 レベル7の私が馬鹿みたいな火力の魔法を放った……という話を信じさせるのが難しいと判断したのでしょう。

 

「す、すみません!私が見本として撃ちましたっ!」

 

 と、麻衣ちゃんが私を庇いました。

 えっ、あの……本当にごめんなさい。麻衣ちゃんは悪くないです。


 確かに、研修の初め頃にサンプルとして見せてくれた“炎弾”の威力からしても納得材料としては強いですが……。

 事実を伝えるよりも、その場を収める方を優先するということに社会人の側面を感じますね。悪い大人です。


 しかし、その話を信じたセバスチャン(仮)は「ほどほどにしてください」と呆れた様子でそう言い残して戻っていきました。

 ん?麻衣ちゃんを疑わないってことは、琴ちゃんキャノンに匹敵するレベルで“炎弾”を撃てるんですか!?怖い。

 

 まあ多分……“魔法攻撃”のステータスの違いもあるのでしょうが。

 麻衣ちゃんは明らかに魔法使いという雰囲気ですし。いや、実際に魔法使いをイメージしたであろう衣装を着こんでいますけど。


 

 しかし、これだけMPを一気に消費するとなると……もうひとつ考えている“琴ちゃん魔法シリーズ”も、かなりMPを使うかもしれないですね。少なくとも今日は大人しくしておきましょう。

 ステータス画面を見ながら、ひとりでうんうんと頷いている最中。由愛ちゃんはじっと私の目を見てきました。


「ん?由愛ちゃん……どうしたのかな?」

「琴ちゃん、ステータス画面見せて」

「えっ?あー……うん、良いよ」


 由愛ちゃんは何かを見透かした様子です。正直、何を言われるのか想像もつかないので怖いですが……ここは大人しく従った方が良いでしょう。

 大人しく“ステータス送信”の項目を選択します。


 恐らく、私の情報を由愛ちゃんは確認したのでしょう。彼女は「むっ」と険しい顔を浮かべました。

 

「琴ちゃん……なんでこんなにMP減っているの……?」

「……あー……“炎弾”重ね掛けした、から……かな?」

「……ふーん?」

「あはっ……はは」


 由愛ちゃんが三白眼で私を見てきます。さすがに気まずくなったので、彼女から顔を背けました。

 私が顔を背けているのが納得いかなかったのでしょう。由愛ちゃんはずかずかと私に近寄って、掌で私の両頬をサンドイッチしました。あっちょっと手が温かい。


「むきゅ」

「なんでダンジョン入るって話なのに、そんな馬鹿みたいな魔法撃っちゃうの?」

「ロ、ロマンです……」

「MPを使えば使うだけステータス落ちるの、琴ちゃんなら分かってると思ったんだけどなぁー」

「すいません……」


 そう言えば、どこかで話しましたっけ?

 魔法もステータスも、共通するのは魔素です。

 なので、MPが少なくなれば少なくなるほど、肉体を強化するステータスが大幅に減少してしまうんですね。

 

 現状、MPをほぼ半分まで減らしてしまいました。なので反映されるステータス向上の恩恵も、ほとんど半分になっちゃいました。まあ元々があれですが。

 

 だ、だって。私の内に秘めた少年心が、つい心躍っちゃって。

 やっぱり一回くらい、ロマン砲撃ちたいじゃないですか!?


「……はぁ」

 

 由愛ちゃんは大きくため息を吐きました。

 愛想を尽かれたのかと思って、つい肩がびくりと震えます。

 まあ実際は、私の思い違いでしたが。


 それから、彼女は静かにもう一つ残ったゴブリンダミーの正面に立ちました。

 自らも左手をゴブリンダミーへと向けて、静かに唱えます。


「……“炎弾”」


 今は、由愛ちゃんも“時間魔法”によるデバフ効果は解除されています。足枷が解除された状態で放たれた“炎弾”は、私のそれには劣りますがゴブリンダミーを破壊するには十分な威力を持っていました。

 鋭く唸る炎の渦が、掻っ捌いた痕跡のある腹腔へと入り込みます。微かに紅色の光を灯した後、激しい爆風が吹き荒びました。

 ゴブリンは木っ端みじん。肉片がボロボロと飛び散って、それからダンジョンの床に溶けていきました。


 アスファルトの上とは言え、きちんと自浄作用は働いているみたいですね。


「うん、これなら大丈夫そうかな」

 爆ぜたゴブリンを見送ってから、由愛ちゃんは冒険者証を取り出しました。


 そして、彼女も冒険者共通の合言葉を唱えます。


「ステータス・オープンっ」


 由愛ちゃんは自分のステータスを確認した後、私に向けてステータス画面の共有を行ってきました。

 私のステータス画面が消えて、代わりに由愛ちゃんのステータスが表示されます。

 

 【土屋 由愛】

Lv:45

HP:315/315

MP:117/121

物理攻撃:273

物理防御:201

魔法攻撃:125

魔法防御:184

身体加速:78


 うん?由愛ちゃんは完全に物理特化のステータスなんですね。

 そして“炎弾”の使用で消費したMPは4……と。熟練度が上がる速度は私の方が早いみたいです。

 まあ、元々魔法に使い慣れているのもあるでしょうけど。“アイテムボックス”のことです。


 由愛ちゃんは自身のステータスを見せつけながら、私の頭をポンと撫でました。

 

「近接戦闘は私に任せてもらっても良いかな、琴ちゃんはサポートをお願いしても良い?」

「う、うん」

「……言っておくけど、“琴ちゃんキャノン”は禁止ね」

「え、あー……分かった……」


 せっかく手に入れたオリジナルの必殺技なのに、早々に禁止されちゃいました。うーん悲しい。

 しかし由愛ちゃんは近接戦闘特化ということですが……やっぱり武器が見当たらないんですよね。

 

 うーん。どうしても気になりますね。“アイテムボックス”でも会得しているのでしょうか?

 神童なら会得してもおかしくないですし。

 

 ----


 さて、長きにわたる“炎弾”の練習もひと段落したということで、いよいよダンジョン攻略のお時間です。

 と言っても、ほとんど実戦形式での練習がメインですが。


 私はクリーニングし終えて戻ってきた、カッターシャツとスーツパンツに身を包みました。

 その上からギルド内で無料支給されている簡素な皮の鎧に身を包みます。

 結局、このスタンスが一番落ち着きます。 


 平時であれば、ロングソードを握っているのですが……今回の私は魔法使いです。なので持っているのは魔法杖です。


 一応、サブウェポンとして短剣は腰に携えています。

 よくゴブリン解剖に使っている、比較的安価で購入可能なナイフですね。

 冒険者専門店にて12,800円で買いました。当然経費で収まる額です。お金は基本使いたくないので。

 

 そんな経費で買ったナイフの刃先を砥石で研いでいる最中。


「琴ちゃん、お待たせ―っ」

「あっ、由愛ちゃんっ!」


 トレンチコート、とでも言うんでしょうか。金色と黒の二色で彩られたコートに身を包んだ由愛ちゃんがやってきました。

 どこかファンタジーな雰囲気を彷彿とさせる装いですね。カッターシャツに身を包んでいる私の存在がかえって浮いてしまいます。

 

 私達の傍には、指導担当である麻衣ちゃんが立っています。彼女は魔法使いの装いのままですね。

 私だけ装備が地味です。悲しい。


 さて改めて、各々が持つ武器を確認していきます。


 私……田中 琴は魔法杖と、ナイフを。

 麻衣ちゃん……花宮 麻衣は魔法杖一本ですかね。彼女は指導担当なので、万が一に備えて立っているだけだと思います。


 そして、由愛ちゃん……土屋 由愛は……あれ?武器を持っていませんね?


 気になったので、本人に聞いてみます。

「ね、由愛ちゃん。武器持たないの?」


 私の疑問はもっともだと思うのですが。その質問を受けた由愛ちゃんはまるで「その質問を待ってたよ」と言わんばかりに笑い始めました。


「ふふっ、ふふふ……」

「え、どうしたの?」

「あははっ……やーっと琴ちゃんにお披露目できるよーっ。私の武器はこれっ!」


 由愛ちゃんはそう言って、ポケットから“武器”を取り出しました。

 それは。


「……?ボールペンじゃん」


 一本のボールペンでした。

 ふざけているのでしょうか?また怒られますよ。麻衣ちゃんにビンタされますよ。


 そう思いましたが、由愛ちゃんはニヤニヤとしたり顔を止めようとしません。


「のんのんのん、琴ちゃんは分かってないなあ。これはね、“ダンジョンアイテム”なの!」

「……あー、そういうことなんだ」


 ダンジョンアイテム。

 そういうことでしたら納得です。


 ダンジョンでは時折、宝箱が配置されていることがあります。

 基本的には魔物の所有物なので、中身はピンキリなことが多いです。ですが中にはダンジョンにしか存在しない“ダンジョンアイテム”と呼ばれる高性能な武具が出てくることがあります。

 

 見た目以上に荷物を収納できるポーチだったり。

 属性を付与された武具だったり。

 魔法耐性加工の施された衣服だったり。


 ダンジョンアイテムの性能は、私達人間が制作できる技術の限界を超えたオーパーツであることが多いです。

 ですが、日常生活上で役立つかと言えば微妙なものが大半を占めています。やはり汎用性には勝てません。


 なので結局、部署内のエースだったり「居なくなっては困る人材」へと優先的に支給されています。

 ダンジョンで手に入れたアイテムを、ダンジョンで使用する。いわゆる地産地消となっているんですね。


 私にも1回だけ話が回ってきたことはありますが、戦闘スタイルを変えたくなかったので断りました。

 

 ちなみにですが。

 比較的汎用性の高いダンジョンアイテムであれば、部署内で順番を決めて使ったりしています。

 でも、業務中に無くしたりする人も居ますので「ダンジョンアイテムは皆で使うものです。無くさないように気を付けましょう」と張り紙がされていたりします。備品扱いです。


 貴重なダンジョンアイテムを持ち歩いている由愛ちゃんは、いわば「部署内で居なくなっては困る人材」として高く評価されていることになりますね。

 その事実ひとつで、冒険者としての彼女に対する信頼度は増すというものです。

 

 

 由愛ちゃんは、軽くダンジョンアイテムであるボールペンをノックしました。

 恐らく魔力を込めているのでしょうね。軽く手に力が籠っています。


 すると、ボールペンに光の粒子が纏い始めます。

 徐々にそのシルエットを飲み込み、形は大きく様変わりしていきました。

 

 やがて光の粒子が形作ったのは、巨大なハンマー。

 おおよそ大きさにして1mほどの大槌ですね。餅つきに使う(きね)ほどのサイズです。

 

 由愛ちゃんの身長って、私よりも少し高いくらいなんですよね。そんな彼女が大槌を持つ姿は、かなりアンバランスです。

 すごく重そうな大槌を軽々と持ち上げた由愛ちゃんは、空いた左手を高くつき上げました。


「よっしゃ、いくぞーっ!琴ちゃん、私に付いてきてねっ」

「あっ、うん。頼りにしてるよ」

「おっ!可愛い琴ちゃんから、頼りにしてる発言頂きましたぁ!きたきたーっ!」

「……う、うん?」


 由愛ちゃんのテンションが高いです。

 まるでこの時を待ってました、と言わんばかりですね。

 私も人のことを言えませんが……由愛ちゃんもダンジョン内でこそ、活き活きとする人物かもしれないです。

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