第45話 ぶっちゃけ言えば母性
『なあ、由愛ちゃんや。忘れ物はないかのぅ?何かあったらすぐ言いなさいよ。儂のことなら気にせんでええからのぅ……?』
「あーもう!おじいちゃん……本当に余計なお世話だって!?私一人で何とかなるよ!」
ターミナルステーションで乗り換える路線を探している最中。私に電話を掛けてきたのは、いつもパーティを組んでいるおじいちゃんだった。
ギルドに所属している、かつ私とペアを組んでいる冒険者——金山 米治は、心配そうに通話越しに念を押してくる。
おじいちゃんとは私がポーターのアルバイトをしていた頃からの付き合いだけど、最初から私を孫のように可愛がっていた。
過保護すぎてうざったいと思う時もある。でも、無関心よりかは断然良い。
父親が居ないからかな。なおのこと、そう感じる。
……いや、父親が居ないというのは、ちょっと語弊があるかも。
もっと正確に言えば、私が中学生の頃……病気でぽっくり逝っちゃったから。
ほんとに、なんの前触れも無かった。
友達の家で遊んでから帰ってきたら、既に冷たくなって倒れてたんだ。
死ぬとか分かんなくて。私は慌てて、お父さんの胸に両手を重ねて心臓マッサージを開始した。ちょうど学校で習ったばかりだったし。
そんな必死に心臓マッサージをしている最中。外出から帰ってきたお母さんが、すぐに救急車を呼んでくれた。
多分、お母さんも動転してたと思う。声が上擦ってたもん。
だけど、救急搬送はしてくれなかった。
その代わりに来たのは、警察だった。
「なんで家で倒れていただけなのに警察が来るんだろう」って当時は思ってたな。私何も悪いことしてないのに、なんで警察の人はまるで私達が悪いことをしたみたいに扱うんだろう……って。
お母さんは、ぼろぼろと泣きながら警察の人とやり取りしてた。多分、同じ心境だったかもね。
警察の人も仕事としての立場があるんだろうけど、私としては辛かった。
……うーん、複雑な過去を思い出しちゃった。
そんな過去を持ってるからかな。「いつ、どこで誰が居なくなるか分からない。だから今の時間を大切にしないと」というのは思うかな。
ものすごく失礼な発言になるけど、金山のおじいちゃんは御年64歳。定年ぎりぎりの年齢だし、いつぽっくり逝ってもおかしくない。だからこそ、大切にしなくちゃなー……というのは考えてる。
そんな中で、私——土屋 由愛は琴ちゃん……田中 琴と出会った。
電話中の私に、ちらちらと研修のパンフレットを見せつけてきた時点から「変な子だな」とは思ってたけど。
彼女を見ていると、親戚の女の子を思い出す。
4歳の子なんだけどね、目を離すとどこかに行っちゃうし。いきなり道路に飛び出しかけるし。いつも誰かが傍にいないと、簡単に事故に巻き込まれそう。
そんな子供と琴ちゃんに共通点を見出している時点で「うーん……」って首を傾げてしまうけどね。
琴ちゃんって、不思議ちゃん……なのかな?
扱いが難しい、って言われてる“アイテムボックス”をなんてことのないように使いこなしてる。
と思えば、初めて見るレベルで“炎弾”が地べたに転がってた。
すごいんだか、すごくないんだか、正直よく分からない。
しかも冒険者の間でも「絶対に気を付けろ」と口酸っぱく言われているはずの“魔力枯渇症候群”に掛かってるし。2回も。なんで学習しないの?
“アイテムボックス”の中には馬鹿みたいにゴブリンの死骸を保存してるし、まるでゴミ箱みたいな扱いしてるし。
ちょっと琴ちゃんの言動をツッコみだしたらキリがない。
まあ、だからこそ放っておけないな……って思う。
放っておくと、すぐにどっかに行ってしまいそうな危なっかしさが、彼女にはあった。
というか1回居なくなりかけたし。
ちょっと賑やかそうとして、ふざけた状態で撃った“炎弾”が、琴ちゃんに当たりかけた時。守りたいはずの琴ちゃんを傷つけそうになって……本当に辛かった。
下手したら、琴ちゃんは大怪我してたかも。死んでいた可能性だってある。
その事実がすごくショックで、本当に逃げ出してやろうかな……って思った。
逃げ癖がどうの、って言われるかもしれないけど、私にとってはそれくらい大きな失敗だったんだ。
だけど、琴ちゃんはそんな私を見捨てなかった。
……見捨てて……。
うーん……見捨ててないよね?あれは。
迷子になって、研修終わりまで時間を潰そうとしたらしく、ゴブリンを解剖し始めてたけど。
「協会の方来るまで待とうかな」じゃないんだけど!
……あの子、正真正銘の馬鹿だな……って、その時ハッキリわかった。
多分、放っておくとロクなことにならないタイプの子だ。
そう気づいた瞬間「琴ちゃんを守れるのは私しかいない」って強い想いに駆られた。
ぶっちゃけ言えば母性だ。
ちなみに、未だに琴ちゃんの行動原理は理解できてない。
何回か女性同士の付き合いも兼ねて、一緒にお風呂行こって誘っているけど。いつも申し訳なさそうな顔を浮かべながら、必死に逃げてるし。
いつも個室のお風呂で済ませてるみたい。
ただ、湯船に長髪を浸けながら入ってるって知って、さすがに注意した。髪の毛が傷むし、何より不衛生。
“アイテムボックス”の中には、何故か分からないけどビール缶が入ってる。
え?琴ちゃん未成年だよね?不良?銀髪に染めてるのも不良だからなの?
本人にそのことを聞いてみたけど「これを眺めてると落ち着くんです」とか、意味不明な答えしか返ってこなかった。
ビール缶を眺めて落ち着く女子高生って何?
というか琴ちゃん高校通ってる?私ちゃんと通ってるよ?
もう、言動の全てにツッコミが入る。
本当に、彼女は野放しにしちゃダメだと思う。少なくとも、手綱を握る誰かは絶対に要る。
放っておくと、ぽっと出の悪い男に騙されてそう。
「ね、由愛ちゃん……子供、出来ちゃったみたい。こういう時って……どうしたらいいの?」とか言われた日には私、卒倒すると思う。というか、考えるだけで憂鬱になっちゃった。
「琴ちゃんならありえそう」とか思ってしまうのがなあ。
……まあ、生活能力が終わってるとか。そんなことはさておき。
冒険者としての琴ちゃんは、割と優秀。
最初こそへっぽこだった“炎弾”も、練習を重ねるうちにめきめきと成長してるし。
試験担当の花宮さんの協力ありきとは言え……“時間魔法”を駆使して、熟練度を一気に急成長させる方法を編み出したのだって、天才の分類だと思う。
というか、花宮さんもよく“時間魔法”を、MP切れも起こさずに連発できるよね。私達とそう年も変わらないはずなのに……琴ちゃんと言い、本当にすごい。
まるでベテランの冒険者を彷彿とさせる実力だよね。
----
今は研修4日目なんだけど。花宮さんから“時間魔法”を使った、魔法構築速度の減少というデバフ効果を受けてる。なのに琴ちゃんはそれに抗って、今日遂に“炎弾”をゴブリンダミーに命中させることに成功した。
「やったぁっ!」
って、すごく嬉しそうにガッツポーズしてたのは可愛かったな。
私と花宮さんが見てることに気付いてから、恥ずかしそうに顔を銀髪で隠してたけど。
そういうところだよ。琴ちゃん?
でも、満足はしてないみたい。
首を傾げながら、ずっと「もう少し絞れないかな」とか。「もうちょっと魔力を絞って」とか、ぶつぶつと何か呟いてる。
満足というのを覚えないところに、琴ちゃんの好奇心の強さを感じる。
私も負けてられないから、手のひらを琴ちゃんお手製ゴブリンダミーに向けてみた。それから魔力を練り上げるイメージを加えて、魔法を唱えてみる。
「“炎弾”っ!」
私は琴ちゃんみたいに器用じゃないから、内側に込めた魔力を無理矢理押し出すような形で魔法を放つ。
すると高出力の“炎弾”が、広範囲に火花を散らしながら、勢いよくゴブリンダミーに着弾した。
「おっ、当たった!」
ぎりぎりとは言え、幸いにも琴ちゃんに置いて行かれるという事態は避けることが出来た。
その事実が嬉しくて、私もついガッツポーズしちゃった。
まあ。意趣返しでもされるみたいに、琴ちゃんと花宮さんから温かい目で見られたけど。
けど多分、私と琴ちゃんじゃあ到達する方向性が違うかな?
私の場合はどっちかというと力でごり押しするタイプだけど。
琴ちゃんは安定した技術力で的確に対象を狙うタイプ……にも見える。
魔法ひとつとっても、その人の性格が滲み出ている気がするね。




