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第4話 手練れの技術

「はあああああああああっ!!」

 園部君は背中から大剣を引き抜いて、一騎にゴブリンへ距離を縮めました。擦れる鎧の金属音、そして園部君の叫び声が急に響き渡ったものだから、ゴブリン達はぎょっと彼の方を振り返っています。

 大剣の間合いに入った瞬間、園部君は刃先に手を合わせて叫びました。

「”エンチャント:炎”!!」

 すると、大剣を纏うように紅蓮の炎が顕現します。

 おお、属性付与(エンチャント)使えるんですね。なかなかに期待の新人と言えるようです。

 陽炎のように揺らめく火の粉だけが園部君が移動した軌跡を描いています。ステータスに身を任せる形で、園部君はもっとも近くにいたゴブリンに袈裟斬りを仕掛けました。

「燃え、尽きろっ!!」

「ギィッ……」

 ゴブリンの右肩から左腰部に掛けて刻まれた斬痕から滴る血液。それはエンチャントされた炎によって、瞬時に焼け焦げていきます。

 辺り一帯に臓物と血肉が焼け焦げる酸性臭を散らしながら、瞬く間にゴブリンは絶命。

「——ギィッ!!」「ギッ!!」

 同胞の死に驚愕した残りのゴブリン2匹。「同胞の仇だ」と言わんばかりに、突如として現れた不届き者である園部君に襲い掛かりました。

 腰に携えた短剣を鞘から引き抜き、120㎝ほどの小柄な体躯を存分に駆使して駆け抜けます。

 ゴブリンって小柄な体躯なんですけど、ほぼ筋肉と骨だけなんで身体能力が馬鹿みたいに高いんですよね。

 

 ただ基本的にゴブリンには「研ぐ」という習性を持ち合わせていません。持っている短剣はいわば”なまくら”なのですが……刺されれば相応に痛いです。それに不衛生な環境下で扱われる武器なので、感染症のリスクも高く含有しています。感染から来る敗血症は冒険者の死因ランキング上位です。


「当たる訳、ねえだろうがっ!!」

(おー、若いねえ~……)

 大剣から解き放たれる紅蓮の炎と同化するように吠える園部君を見ていると「私も昔はこうだったのかなあ」と感嘆としますね。

 

 挟撃を仕掛けたゴブリンが放つ突きを、園部君はバックステップで回避。大地を踏みしめた左足を軸として、身体を捻って回転斬りを披露しました。

 横一文字に切り裂いた真紅の光が、ゴブリンの胴を斬り落とします。

 仲良く吹き飛んだゴブリンの上半身は、岩肌がむき出しとなった壁にべちゃりと付着します。

 それを最後に、再びダンジョン内に静寂が戻りました。

「”エンチャント:解除”」

 大剣に纏わりつく炎が、園部君のスキル宣告によって大気へと溶けて消えていきます。大剣を背中に携えた鞘に戻した彼は、嬉々とした表情で私の元へ駆け寄ってきました。

「ど、どうでしたかっ!田中先輩っ!何点ですかっ」

 なんというか、飼い主に従順なワンちゃんみたいですね。

「いやあ、すごく強いねえ。うん、才能あるよ」

「ほんとですかっ!ありがとうございますっ!」

 園部君はぱあっと顔を明るくして、何度も私に頭を下げました。赤髪にこそ染めていますが、案外行儀は良いみたいですね。

 だいたい80点くらい、ですかね。

 ちなみに残りの20点……ですが。

「っ……田中先輩っ!」

「うん、後ろだよね」

 園部君に言われるまでもありません。ここで油断するようでは先輩としてのメンツが保てないというものです。

 背後を守るように設置した、索敵用のワイヤートラップが感知しています。今は言いませんが、園部君が声を張り上げたり、物音を立てまくっていたので魔物に感づかれたのでしょう。

 振り返れば、2匹のゴブリンが私の命を刈り取らんとしているのが目に見えます。

「田中先輩は下がっていてくださいっ!」

 ヒーローよろしく園部君が再び大剣を構えて迎撃しようとしましたが、私はそれを右手で制止しました。

「うん、ちょっと待って。少し指導の時間を貰うよ」

「へ?」

 園部君が呆けた返事をしました。本当ならもう少し事前に色々と説明したいのですが、ゴブリンは私達の都合など知りません。

 なので実際に戦いながら説明しましょう。

「ゴブリンの身長は平均120㎝です。上位種となると2mくらいの個体も居ますが、基本的に低層では下っ端しかいません」

「ギッ!」

 1体のゴブリンが先陣を切って、私の胸元にナイフを突き立てようとしてきました。

 私は左方向に軽く身体を運び、突きの軌跡から逃れます。

「ゴブリンの身体構造は私達人間と近いです。なので、向こうも同様に心臓を狙ってくることが多いですね。右利きが多いのも同じです」

 初動を回避され、隙だらけになった前衛ゴブリンをひとまず放置。私は次に立ち向かってきたもう一匹のゴブリンに視線を向けます。

「ギッ……!」

「だいたい、ゴブリンが狙うのは胸、腹のどちらかです。脳の大きさは人間の3分の1程度の大きさなので、手足を攻撃して機動力を殺ぐ……という考えに至ることはまずありません」

 狙い通り、ゴブリンは私の腹部を狙ってきました。

 男性の頃の姿と違い現在の私は、脂肪分が多く柔らかい身体になっています。

 防御力は皆無に等しく、短剣の突きを食らえばひとたまりもないでしょうね。

 私はゴブリンが短剣を持つ手へと目掛け、手刀を放ちました。

 すると「ギィ……ッ!」と苦悶の声を上げながら、ゴブリンは短剣を床に落とします。カランと甲高い金属音がダンジョン内に鳴り響きました。

「あと、園部君の場合は血液ごと焼いていたので大丈夫だと思いますが。基本的にゴブリンは同族の体液の匂いに敏感です。なので血液は床に散らさない……これが鉄則ですね」

 まあ、ゴブリンの素材を集めたい場合はあえて血液を床に散らしまくる人も居ますけどね。

 私はどちらかと言えば慎重派なので、「まず危険な場所に身を置かない」ことを心掛けています。私以外の冒険者が攻撃的すぎるんですよ。

 

 武器を失い、隙だらけになったゴブリン。その間に私は”アイテムボックス”からガーゼとナイフを取り出しました。

 痛みに蹲ったゴブリンへと背後から抱き着くような形を作り、ガーゼを這わせた後ナイフで頸動脈を一突きします。ドクドクと激しく脈打つ頸動脈の拍動と共に、血液がガーゼに染み込んでいきます。

 同時にずるりと崩れ落ちて絶命したゴブリン。

 ”もの”と化したゴブリンから零れ落ちる血液が地面に流れ出る前に、早々に麻袋を取り出します。それから再度ゴブリンの亡骸を麻袋に詰め込み、アイテムボックスに格納。生体はアイテムボックスに格納できないのですが、死体となれば話は別です。

 手慣れた動作でしたが、もう一匹のゴブリンからすれば何が起きたのか分からなかったのでしょう。

 瞬く間に同胞が死に、その場から存在を抹消された。

 怒りよりも恐怖が勝ったようですね。瞳孔が震えています。

「……と、まあこんな感じで、出来るだけ跡を残さないようにするのが大事です。園部君の場合は炎で焼いた方が早いかもしれないですね」

 そう一方的に告げてから、私は同じように残ったゴブリンを()()()しました。


「……あのぉ、聞いていますか?園部君」

「あっ、は、はい。聞いてます……はい」

 先ほどまでの活気はどこに行ったのでしょう。どこか園部君からよそよそしさを感じます。

 まあ一度に全部飲み込むのは難しいですよね。ゆっくりと勉強していきましょうね?


----


 あとで聞いた話だと、園部君は他の冒険者に「田中 琴先輩ってサイコパスなんですか?」と聞いていたらしい。

 なんでいつもこんな評価ばかり受けるのでしょうね?

 見た目か!

 見た目のせいか!!!!


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