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第38話 解除魔法

 さて、魔法使い研修は一週間の日程を掛けて行われる、というお話はしたと思います。

 ですが魔法使いとしてを業務を遂行するには、ただ「攻撃魔法が使える」というだけで終わってはいけません。


 後衛職として、俯瞰的に状況を把握する戦況管理能力。

 自身のMP残量を把握し、進む・後退するといった行動を選択する決断力。


 ……等々の、マネジメント能力もある程度求められるんですね。正直、私はそっちの方が苦手です。

 

 ただ攻撃魔法を唱えて使う、というだけが出来るだけでは駄目なのです。

 周りを見渡して「何が足りていないか」というのを瞬時に把握し、対処する能力というのも魔法使いに求められるスキルです。


 冒険者と言えども、結局のところは社会人。チームワークが求められるのは、どこも同じですね。

 うーんソロに戻りたいです。コミュニケーションが苦手すぎる。

 

----

 

「ねえ琴ちゃん!!本当に悪い男に乱暴された、とかじゃないんだよね!?」

「え?悪い男の人がいるんですか?」


 由愛さんは金と黒のメッシュヘアを揺らして、ずいとその可愛らしい顔を近づけます。

 あなたはもう少し自分の顔面偏差値を理解してください。気まずいです。

 

「いるって!琴ちゃん危機管理能力低すぎ!もっと自分を大事にして!?」

「そんなこと言われましても……」


 由愛さんが私の両肩を掴んで、切実な表情でそう訴えかけてきます。

 え……私、なにか悪いことしましたかね?

 

 助け舟が欲しいので、麻衣ちゃんに視線を送ってみますが……彼女も天を仰いで、呆れ返ったような顔をしていました。


「……ごめんねぇ、琴ちゃん。私も土屋さんに全面的に賛成」

「なんでですk」

「口調」

「……な、なんで、なの?私何も悪いことしてま……ないよ?」


 花宮さんは私が敬語になるのを許してくれません。うーん辛い。


 すると、麻衣ちゃんと由愛さんはお互いに視線を交わし合い、それから頷きました。え、なに?

 麻衣ちゃんはじーっと私の顔を見た後、しれっと私の背後に回り込みました。細い腕を伸ばし、私の首元に回してきます。

 

 毎回麻衣ちゃんの、ボディタッチの仕方がなんと言いますか……色っぽいんですよね。いつもドキドキさせられます。

 私、中年男性なんですから心臓に悪いことは止めてください。心臓病が怖いお年頃です。


 そして由愛さんも、私の両手を握ってニコリと微笑みました。2人してなんなんです?


「はーい、今日から私達が琴ちゃんのボディーガードでーすっ!よろしくねっ!」

「えっ、自分の身くらい自分で守れますが!」

「琴ちゃんの言葉は信用ならないからダメ!」

「酷くないですか!?」


 由愛さんは元気いっぱいに腕を掲げてそう叫びました。

 私としては不本意なので、必死に抗議しますが……2人は聞いてはくれません。


 そんな私達のやりとりを遠巻きに見ていた他の冒険者達は「おー今日も元気そうだなあ」とか、まるで娘や孫でも見るみたいな温かい目を向けていました。

 なんですか。見世物じゃ無いですよ。


 

 あ、ちなみにカッターシャツとスーツパンツは完全にシワになっていて、着れる状態じゃ無かったです。なので今の私はパーカーと半ズボンのラフな格好をしています。ストレートの銀髪なのも相まって、どこかパンクな雰囲気にも見えますね。おらおらっ。


 どちらかというと、カッターシャツとかの方が着慣れているので違和感があります。あのパリッとしたシャツが愛おしいです。

 

 さて。

 紆余曲折ありますが、本日は魔法使い研修二日目です。

 今回の研修の最終目標は、S級冒険者に匹敵するレベルで魔法を使えるようになることではありません。一週間でそのレベルまで到達できるのなら、大学で魔窟科なんて作られませんからね。

 「最低限、魔法使いとして獲得するべき技能を身につける」というのが、本研修のゴール目標です。


 なのでまあ、二日目の今は何をしているのかというとですが……。


 

「琴ちゃん、姿勢が安定してないねぇ。骨で身体を支えるイメージで!こらっ、土屋さん!オリジナルの構えを作らないっ!型を守ってっ!」

 

 麻衣ちゃんは厳しい目つきで、私と由愛さんの構えを指導しています。

 実際に“炎弾”を打ちたい気持ちはありますが、MPが切れては練習にならないのでキチンと管理されています。今朝の出来事もあってか、尚更鋭く目を光らされている気もしますね。大丈夫ですって。

 

「う……こう、かなっ?」

「腰が浮いてるよー。もうちょっと地面を踏み込んで。頭を軽く押さえ込まれてるイメージで、ほらっ」

「うきゅ……ちょっと、痛いよっ」


 姿勢を調整する為なのは分かっていますが、頭をぐっと押さえ込まれるのは痛いです。

 ちなみに隣に立つ由愛さんは落ち着きが無く、時々両手で銃の構えを作ると言った形で遊んでいました。


 隣で色々ふざけられると集中できないので、私からも由愛さんに注意します。

 

「由愛さん、ちょっと。真面目にやりましょうっ」

「琴ちゃんは真面目すぎるよーっ。肩の力抜いてやるのが大事なんだよ、ほらっ!“炎弾”っ!」

「あっ、ちょっと、駄目ですよ勝手に撃っちゃあ!」


 私が制止するも時すでに遅し、由愛さんの指先からは練り上げられた火の渦が生み出されます。


 それは由愛さんの指先を離れ、ゴブリンダミーに着弾するものかと思われました――


 ――が。


「……え?」

 暴走した火の渦は真っ直ぐに飛ぶことはありませんでした。

 突如として宙に舞い、虚空を泳ぎ始めます。


 ゆらり、ゆらりと揺れる“炎弾”の矛先は。


「――琴ちゃんっ!!」

「えっ、あ、え?」


 あろうことか、勢いよく方向転換して私の方へと。


 何の心構えも出来ていませんでした。

 

 警戒している状態であれば、咄嗟の判断で“アイテムボックス”を生み出して身を守る……と言うことも出来たのですが。

 炎の渦が目の前まで襲いかかってきているというのに、私が出来た行動は「ただ暴発した“炎弾”を眺める」ことだけ。


 あ。


 これ。

 まずいのでは――。



「――っ、“解除魔法”っ!!!!」



 本当に、紙一重でした。

 麻衣ちゃんが発した“解除魔法”。それは光の螺旋となり、暴発した“炎弾”を包み込みます。

 やがて光が蝕んだ“炎弾”は、ひび割れた楔のように、塵となってはじけ飛びました。


「……あ、っ……」

 突然近づいた“死”の文字に呆然とし、私はへたり込むしかありませんでした。

 由愛さんも、自身が生み出した“炎弾”が暴走したことに対して罪悪感を抱いているのでしょう。呆然として、手のひらを眺めています。その瞳は、明らかに動揺に揺れていました。

 それから、泣きそうな顔をして私に語りかけます。

 

「……琴ちゃん、ごめ――」

 由愛さんの言葉は、最後まで発せられることはありませんでした。



 麻衣ちゃんが、強く由愛さんの頬を引っ叩いたからです。



 ステータスで言えば、彼女は典型的な魔法使いタイプに該当します。ですから、与えたダメージというのはそう大きくないはずです。

 

 強いて言えば、由愛さんに精神的なダメージを大きく与えたくらいで。


「……土屋 由愛さん」

 そう静かに名前を呼ばれた、由愛さんの肩がびくりと震えます。


「……っ」

「ここは、遊びに来る場所じゃありません。神童だか何だか分かりませんが、仲間を傷つける為に魔法を学ぶというのなら……どうぞ、お帰りください」

「……ご、ごめんな、さい……」


 由愛さんは、それ以上なにも言いませんでした。

 俯くと共に、前髪は目元を隠します。愁いを帯びて、唇はきゅっと強く結ばれました。

 両手の拳は強く握られ、悔しい気持ちを全力で表現しているようです。


 そんな由愛さんは。

 ふらり、ふらりと身体を左右に揺らしながら、静かに修練場を後にしました。


「……うん」

 地面にへたり込んでいた私はゆっくりと身体を起こし、前髪を整えます。あっ、ちょっと前髪焦げてるかも。

 一度頭を左右に揺らし、髪型を無理やり整えました。それから、ちらりと麻衣ちゃんに視線を向けます。


「……由愛さんは、これまで失敗を知らなかったんでしょうねー……」

「だよねぇ……だけど。それが、琴ちゃんを危険な目に合わせたことを、正当化する理由にはならないよ?」

「分かってます。でも、さすがに放置できません」


 麻衣ちゃんだって、私の身を案じているからこそ……怒ってくれたのは分かっています。

 そして、由愛さんも決して私を傷つけたかったわけじゃないんです。

 

 彼女は将来有望な冒険者です。

 そんな優秀な(一応)後輩の心を折るようなことがあってはいけません。


「少し、行ってきますね」

「……お願いする、ねぇ……」


 麻衣ちゃんはどこか申し訳なさそうな表情を浮かべながら、私を見送りました。

 どこに居るか分かりませんが、まあそう遠くに行くことはないでしょう。


 ちなみに周りの冒険者達は、私達のやりとりが気になるのでしょう。ちらちらとこっちを見ていました。

 だから見世物じゃありませんって。ほら散った散った。解散。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 あ~、やらかしてしまいましたか…。まぁ人間神様じゃないし、失敗するのは当たり前の話ですが…ちょっとその内容がねぇ。 狙ってやった訳じゃないし、引き摺らずに持ち直して欲しいですな。…
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