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第30話 年の話

 さて、琴ちゃんクイズです。ででんっ。(出題音)

 世間に魔法技術が知れ渡った中で、特に女性にとって需要が高い魔法は何だと思いますか?

 

 あ、答えを待つのが面倒なので言っちゃいますね。

 正解は「時間魔法」です。


 時間魔法とは、その名の通り。「魔法を付与した対象の、特定の時間の流れを変化させる」という属性を持っています。

 では、何故「時間魔法」の女性需要が高いと思いますか?


 はい。

 アンチエイジングです。

 

 皺やシミの発生を遅らせ、更には肌のハリが老化によって低下していくのを防ぐことが出来る。これ以上に最高峰のアンチエイジングは存在しないでしょう。魔法技術をこんなことに使うなと言われたら、ぐうの音も出ない正論ですね。

 

 完全無欠のアンチエイジング。そりゃあ女性陣を中心として人気も出るというものです。

 ですが魔法を会得するということ自体が、かなり難易度の高いことです。

 

 初歩的な魔法でお話ししますと、対象を浮かび上がらせる「浮遊」でさえ会得には平均1~2週間の期日を要します。学生ならいざ知らず、社会人になってからそのような時間を確保するのは厳しいですね。

 まあ「浮遊」という魔法自体の需要は高いので、主婦層を対象とした魔法教室が開かれることはあります。主な使い道は「シンクの油汚れを浮かび上がらせる」です。地味ですが、案外これが役に立つみたいです。 

 

 さて、話を戻しまして。

 「時間魔法」というのは、会得におおよそ3~4年の訓練を要すると言われる、練度の高い魔法なんですね。

 ですがどれだけ需要が高いと言えども専門的である魔法を、それだけ長期間を掛けて会得しようとする人はあまりいません。

 時間魔法を会得するくらいなら攻撃魔法の熟練度を上げた方が効率が良いので、冒険者の中でも需要は少ないですね。

 

 つまり。市場的にはそれだけ希少性の高い魔法でもあるということです。

 一応「健全な国民の成長を阻害する可能性がある」という理由から、アンチエイジングとしての使用時期は成人を超えてから……という制限こそ兼ね備えていますが。


 

 ところで、そのような「時間魔法」を花宮さんは会得しています。

 それも私の”アイテムボックス”と同様に、日常的に使用するレベルまで熟練度が上がっているそうです。

 はい。


 日 常 的 に です。

 

 

 何故こういう前振りをしたのでしょうね。

 

 参考までに、私が新人時代の花宮さんを指導したのはおおよそ25年前です。

 それにも関わらず彼女は未だ、若々しい外見を保っています。10代後半と言っても通用する外見なんですね。


 ……彼女の実年齢は、考えないようにしましょう。

 

----

 

「す、すみません。担当者はこのままでいいですからっ!」

 

 一触即発の空気を生み出した張本人である花宮さんから引き離そうと、全日本冒険者協会の職員さんが担当変更を名乗り出てくれました。

 ですが誤解が解けたこともあり、慌ててそれを制止します。

 

 正直なところ、顔も知らない他人よりも、知人から指導を貰う方が気も楽ですし。ちょっとだけ不純な理由も入っています。


 すらりと背筋の伸びた、どこかセバスチャンを彷彿とさせる灰色のスーツを着込んだ職員さん。彼は心配そうに眉を顰め、私と花宮さんを交互に見比べています。

 しばらく間を置いた後、観念したようにセバスチャン(仮)はため息を吐きました。


「……分かりました。ここは田中 琴さんの希望に沿って、花宮さんを担当冒険者として続投します……ですが」

 そこでセバスチャン(仮)は凄みのある笑みを浮かべ、申し訳なさそうに項垂れている花宮さんに近寄りました。


「花宮さん」


 小さく、彼女の肩がピクリと震えます。

「っ、は、はい……」

「いい年して、何をしているんですか」

「年の話は、ちょっと」

「業務が終わってから、少しお話ししましょう」

「……」


 しばらく花宮さんは呆然と立ち尽くしていました。

 私は彼女に一体どのような声を掛けるべきなのでしょう。少し逡巡した後、魂が明後日の方向に飛んでしまっている花宮さんの隣に並んで話しかけることにしました。


「あの。花宮さん……ご指導、よろしくお願いいたします」

「田中、大先生……えっと……あー……はい?はい」

「シャキッとしてください。花宮さんがそのような体裁では、学ぶものも学べませんよ」

「すみません……」


 うーんこれは困りましたね。

 魔法使い研修に来たはずなのですが、どうしてこうも面倒が増えるのでしょうか。

 

 花宮さんは私の方をじっと見て、それから不貞腐れたように頬を膨らませました。

「……どうして、田中大先生は女の子の姿に……なっちゃったんですか」

「どうして、って言われましても」

「だって——っ!!あっすみません……だって、田中大先生は男性ですよね。いつも飄々として、あらゆる困難を技術で乗り越えてきたカッコいい男性ですよね」

 

 最初は感情に任せて語ろうとしたようですが、セバスチャン(仮)の視線を感じ取って、声を潜めたようです。

 それから花宮さんは私の銀髪を自身の掌に乗せました。髪質が細いので、シルクのようにさらりと流れます。


「こんな可愛い女の子を田中大先生だって思えないですよ……?まるで別人の肉体に憑依したみたいじゃないですか……?」

「……別人の肉体、ですか?」

「だっておかしいですよ。女の子になるとしても、少しは田中大先生の要素が、残っているはず……じゃないですか?せめて黒髪じゃないです?」

「……一理ありますね……」


 なるほど、さすが全日本冒険者協会所属の冒険者ですね。その視点はありませんでした。

 

 私の肉体が再構築されたのではなく、別人の肉体に人格だけが憑依したという可能性。

 確かにそれなら……ステータスの伸び方が、全く異なるものへと変わった理由も説明づけられます。うーむ賢い。

 ……その考えが正しいとすれば、私が元の身体に戻れないことが確定するのですが。一旦忘れましょうか。


 しかし、先ほどからの熱弁っぷりを見るに……自惚れでなければ、ですが。


「まさか、花宮さん……私のこと、好きだったんですか?」

「……っ!」

「むきゅ、ちょっと頬をつねらないでくださいっ」

「デリカシー……っ……!」

 

 花宮さんは顔を真っ赤に紅潮させて、私の両頬を摘まみました。


 ちなみにその後セバスチャン(仮)に「次はないですよ」と怒られていました。

 そりゃそう。


 

 余談ですが、セバスチャン(仮)の胸元にあった名札には「瀬葉須(セバス)」という名前が刻まれていました。やっぱりセバスチャンでした。

 女の子だったら合理的にセバスチャン呼ばわり出来たんですけどね。

 

 あなたも、美少女になりませんか?

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― 新着の感想 ―
瀬葉須ちゃんさあ…… って同期に言われてそうです
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