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第28話 外れ値

 冒険者の実力を図る、お約束の展開ってありますよね。

 謎の水晶体に手を近づけて、その冒険者が適した属性や魔力量を図るというものです。

 そこで主人公が規格外の数値を出して「ば、ばかな……こんなのは僕のデータにないぞ!」と周りが驚く——と言った状況を生み出すものですね。


 あ、ちなみに現代社会に水晶玉はないですよ。

 たまには前置きだって崩壊します。

 

 場所取りますし、そもそも「割れ物注意!」と扱われるようなものをほいほいと配置するファンタジー世界がおかしいんです。

 一時期……冒険者人口を増やす為に、雰囲気付けで水晶玉使ってたこともありましたが、まあ割って割って割って……始末書が重なるだけだったので、結局止めました。ちゃんと管理して?


 そもそも現代には「冒険者証」がありますからね。冒険者版の体組成計。

 冒険者証を手に持って「ステータス・オープン」と唱えるだけで眼前にステータスが表示される優れもの。そしてステータスを他者に共有する機能も備え付けられているので、利便性で言えば水晶玉に勝るのは当然と言わざるを得ません。落としても割れないですし。

 原価は水晶玉の方が安いですが……本人確認にも使える冒険者証に機能をまとめる方が都合が良いのです。ほぼマイナンバーカードみたいな感じです。


 なので、まあ……そこにロマンはないですね。現実的です。


 ----


 まず、研修を開始するにあたり行われるのはステータスの開示です。

 指導員である花宮さんの前に列を成した冒険者達。

 彼らの「ステータス・オープン」と唱える声が、次から次に聞こえます。

 皆さん冒険者証を片手に詠唱する姿は、まるでスマホ決済を彷彿とさせますね。スマホ決済代わりの「ステータス・オープン」。決済画面の代わりに出るのはステータス画面です。

 

 少し前にも話した気がしますが、ステータス画面は「幻惑魔法」の応用によって作られたものです。なので、私達は他人のステータス画面を覗き見ることは出来ません。

 見ることが出来るのは「ステータス送信」によってデータを受取った花宮さんだけです。

 確認したステータス画面を、花宮さんが素早くパソコンに打ち込んでいます。タイピング早いですね。400文字/分は超えてそう。


 ステータス画面の共有を終えた冒険者達から列を離れ、それぞれでグループを作って談笑しています。

 似たような年齢層の冒険者で固まっている印象ですね。今はまだダンジョンへ入る訳ではないので、皆私服のままです。


 さて、私の前に立つ由愛さん。

 せっかく交流を持った冒険者ということで、彼女のステータスは気になる所ですが。

 由愛さんは戦隊ヒーローよろしく、右手の第2、3指で冒険者証を挟みました。それから、仰々しく手を掲げて叫びました。


「ステータス……オープンっ!」

「普通にしてください」

「すみません」

 花宮さんにバッサリと切り捨てられ、怒られていました。


 周りの冒険者達が憐れむような目で由愛さんを見ています。なんとなく「あー自分もそんな時あったな―」みたいな達観した目に見えます。やめてあげて。


 そんな視線に、正直私まで恥ずかしくなってきました。

 ただでさえ、私も悪目立ちしているので勘弁してください。同年代(?)二人が悪目立ちするのは普通によろしくないです。

 

 そんな中で照れ笑いを浮かべながら、由愛さんはチロっと舌を出します。うーんあざとい。

 それから指先で、ある空間をタップしました。多分ステータスを送ったのでしょう。


 ステータスを確認しているらしき花宮さんの目が、関心深そうに見開かれていきます。

 

「……土屋さんは、16歳の割にレベルが高いですね。早熟型……ですか?」

「ふふーっ。どやっ」

 こら、ちゃんと返事しなさい。

 

 早熟型。

 恐らく体質的なものだと思いますが。常人と比較して、より魔素が結合しやすい体質を持った人のことですね。魔素が結合しやすいということは、それだけダンジョン内での成長度合いが早いということです。

 だからレベルが上がりやすい、という仕組みなんですね。遺伝子レベルの違いとは言え、羨ましいです。


 大体冒険者志望の学生なら、基本的に10レベルを超えれば上等です。

 荷物運搬と言った“ポーター”としてダンジョン攻略に参加するアルバイトを募集していたりもするので、そこで冒険者志望の学生はダンジョン攻略経験を積むことが多いです。


 ただ、命に関わる仕事なので両親の同意が必要だったり、低階層での攻略に限るといった条件付きですが。

 冒険者人口が増えない理由は、こういう部分にもあるんですね。親の庇護には勝てない。


 花宮さんの反応を見るに、まず由愛さんは10レベルを超えているでしょう。そして早熟型と分析した辺り、前線でも渡り合えるレベルはありそうですね。

 さて、ステータス確認を終えた由愛さんも列を離れます。

 そして私に向けて柔らかな笑みをたたえながら、手をひらひらとさせました。


「お先ーっ」

「あっ、はい」


 こういう時どう反応すればいいのか分からないので、とりあえず会釈だけしました。

 それから改めて正面に向き直れば、花宮さんがじっと私を見ています。


「田中……琴さん、ですね?」

「は、はい。よろしくお願いします」


 ぺこりと会釈を返すと、花宮さんは不思議そうに首を傾げました。

 魔法使いの様相をしていることもあり、どこかミステリアスな雰囲気にも感じ取れます。

 

「田中さんー……は、私とどこかでお会いしましたか……?名前を存じ上げているようでしたが……」

「えっ、あ、ああ、あっ……あー……知り合いに似たような苗字の人が居ただけ、です」

「そう、ですか……?」

 

 多分、花宮さんはあんまり納得していないですね。

 上手な言い訳が思いつかないのが悲しいところです。鈴田君、いますぐこっちに来て誤魔化し方を教えてください。


 ですが無駄話をする時間が惜しいと判断したのでしょう。一度咳払いをした後、本題に移りました。


「さて、田中さんのステータス画面を見せてください」

「分かりました……っと……あれ?」


 胸ポケットに入れていたと思っていた冒険者証が見つかりません。

 あれ?おかしいな、無くしたかな?


「……ちょっと待ってください。探します」


 心当たりがあると言えば、スーツケースの中かあるいは”アイテムボックス”の中ですね。ダンジョン攻略に関係した物品は基本的に”アイテムボックス”の中に格納しているので、そっちの可能性が高いでしょう。

 という訳で、花宮さんに断りを入れて早速”アイテムボックス”を顕現させました。


 研修会場がダンジョン内にあるというのは非常にありがたいですね。魔石を使用せずに”アイテムボックス”を発動させることが出来るのは便利です。

「……えっと、確か……この辺りに……あ、あった」


 指先に引っかかる感触を覚え、何かを一気に引っ張り出しました。そこから出てきたのはゴルフバッグほどの大きさを持ったカバンです。

 それをどすんと地面に敷き詰められたタイルの上に置きました。


 研修に必要になるであろう杖や簡素なポーションが入った大型のバッグ。

 その中の小物入れとして使えるポケットに冒険者証を入れていました。危うく無くしたかと思いました。セーフ。


 ですが、私が”アイテムボックス”を出したあたりから、周囲がざわつき始めました。


「あの子……”アイテムボックス”出してなかった……?」

「え、俺でさえ覚えてないのに」

「天才がなんでここにいるの?」

「ちょ、ちょっと見てあの子。すごい」


 などと、明らかに周囲から好奇心に満ちた視線を浴びました。

 

 ……あー。またやらかしましたかね?これ。

 花宮さんは驚愕した表情を浮かべながらも、その視線は私から離しません。明らかに期待の滲んだ表情です。


 なんだか期待されても、という気はしますが。

「……ステータス・オープン」


 そう合言葉を唱えると、幻惑魔法を介して私の視界にステータス画面が構築されました。


 【田中 琴】

Lv:7

HP:68/68

MP:153/154

物理攻撃:36

物理防御:26

魔法攻撃:116

魔法防御:84

身体加速:48


 はい。

 もう見慣れました、貧弱ステータスです。

 MPと魔法攻撃が異常に高いですね。確かに三上さんが魔法使い研修に差し向けるのも納得というものです。

 

 という訳で、目の前の花宮さんにステータス画面を共有します。“ステータス送信”ぽちっ。


「レベル、7……7??……え?え、ん?今さっき、”アイテムボックス”使ってました、よね?え?」

 

 花宮さんは表示されているであろうステータスに対して信じられない、と言わんばかりに目をしばたかせています。大丈夫ですか、ドライアイじゃないですよね?

 ギルド内ではもうほとんど誰も突っ込むことが無かったんですが、結構規格外なんですかね。これ。


 ですが、花宮さんの混乱は止まりません。

「消費MP1?レベル7で……?え、どういう状況です?は、外れ値……え……えー……うーん……」


 花宮さんの理解の限界を超えたようです。魔法使いのトレードマークであるとんがり帽子の隙間から湯気が漏れ出しています。

 挙句、彼女は机に突っ伏してしまい、考えるのを止めてしまった様子でした。


 困り果てた私は、脇に逸れていた由愛さんに助け舟を求めます。

「私、どうしたら良いですか……?」


 そう語り掛けながら、彼女に視線を送ったのですが……由愛さんも茫然としたまま、ぴたりと固まっていました。

 ですが私の声にハッとしたのでしょう。ふるふると首を横に振ってから、うん、と頷きます。

 

「や、うん。琴ちゃん……すごいね……?正直私以上の天才はいないって思ってたけど……これは……」

「……そ、そんなことないですよっ?別にそんな大したことないですっ」

「謙遜までして……”アイテムボックス”を出した上で大したことない、なんて……えぇ……?」


 何やら由愛さんにも大きな誤解を与えている気がします。

 だって、私。47歳ですよ?ベテラン冒険者ですよ?熟練度という引継ぎ特典があるだけです。

 

 16歳でバリバリ冒険者やってる神童の由愛さんの方がすごいんですよ。いや、本当に。

 だから凹まないでください。ね?

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