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第181話 クソまずポーション卒業

「……ここまで出現率が低いとは……さすがに想定外ですねぇ」


 麻衣ちゃんは困ったように顎に手を当てました。

 琴男にメタルスライムを切ってもらってからというものの、メタルスライムを探して回っているのですが……一向に出会えません。

 時折琴男は左腕に装着した腕時計を見ては「そろそろ魔物を狩ってくる」と定期的に飛び出していっては戻ってくる、を繰り返していました。

 何というか、本当に雑用として優秀すぎますねお兄ちゃん。元は私なので、琴ちゃんは複雑です。


 しかし雑魚狩りを繰り返している琴男も、渋い顔をしています。

 戻ってきては露骨に顔を顰め、悪態をつきます。


「やっぱ予備会場だな、ここ」


 ……などという皮肉さえも漏らしていました。

 暗に「こんな会場を正式に研修会場に使えるわけないだろ」というニュアンスを含んでいますね。

 そんな皮肉たっぷりの意図を理解した麻衣ちゃんは「ごめんなさい」と苦笑を漏らしていました。


 しかし、ここまでメタルスライムが出ないのは想定外でしたね。

 さっきのメタルスライムを琴男に切らせたのは間違いでしたか。


 イナリちゃんが困ったように「儂はいつレベルを上げられるのかのぅ……」とぼやいています。狐耳と尻尾がへにゃりと萎れているばかりか、表情がすごく曇っています。申し訳ないんですけど、めっちゃ可愛いです。


 うーん。

 当面の機嫌取りという意味もありますが。

 ステータスの傾向から、誰のレベルを優先してあげるか考えた方が良いかもしれないですね。


 一応、今回の研修で私のレベルが30を超えるのは第一の目標です。

 ですけど、5日間という限られた時間で研修するとなれば、少しばかり優先順位も考え直さなければなりません。

 

「イナリちゃん」

「ぬぅ……?」


 私がそう呼び掛けると、イナリちゃんはのそっと顔を上げました。プリン頭……というんでしょうか。黒と金のグラデーションを描いた髪から覗くつぶらな瞳が、私と交錯します。

 じっと私と視線を交わした後、こてんと首を傾げました。わざとやってます?


 ……こほん。

 イナリちゃんの可愛さに悩殺される前に、私から提案をしてみましょう。


「先に、イナリちゃんからレベル上げしますか?」

「……ふむ。その理由はどうしてじゃ?」


 まあ、気になりますよね。

 大丈夫です、ちゃんと理由はありますよ。


「イナリちゃんって、私達の中で一番”身体加速”が高いじゃないですか?」

「うむ、そうじゃの。他のステータスは軒並み低いが……」

「それでも、ですよ?イナリちゃんのレベルを上げてしまえば、身体加速も大きく向上するはずです。そうすれば、挟み撃ちもしやすくなるんじゃないでしょうか!」


 そうです。

 そうなんです。

 イナリちゃんのステータス傾向を見ると、“身体加速”がダントツで高いです。それ以外のステータスは正直あんまり伸びてませんが……まあ、彼女の技術の前にはステータスなんてオマケです。

 彼女は単騎でも相応に立ち回れる実力者であることから、そのスピードを活かして、挟撃という選択肢も取れるようになるではないか、って思いました。


 つまり「逃げ出した! しかし敵に回り込まれた」です。


 私がそう提案すると、イナリちゃんは「ほう」と関心深そうに目を丸くしました。

 萎れていた狐耳と尻尾がぴんと起き上がりました。イナリちゃん復活です。


 それから嬉しそうに私の手を握ってぴょこぴょこと飛び跳ねました。なんですかこの子供。天使ですか? ……天使は私か。


「ぬぅ! なるほどなるほど、そういうことなら仕方ないのぅ……!」

「……んんん……こほんっ。恵那斗もそれで良い?」


 破壊力。

 破壊力がえげつないですイナリちゃん。

 咳払いして思考を切替えて、改めて恵那斗に声をかけてみます。


「……え、ええ」


 すると、恵那斗は額に手を当てて仰々しく空を仰いでいました。

 隠していますが、口元がニヤけています。わかりやすいです。


「……大丈夫よ……ふふっ」

「うん。おっけー! じゃあ決まりですっ」


 ……と、方向性が改めて決まったまでは良かったんです。

 さてここで改めてレベルアップ研修再開だ、と思っていたんですけど。


 麻衣ちゃんは申し訳なさそうに話に割って入ってきました。


「……ごめん。琴ちゃん。そろそろ初日の研修時間、もう終わりだよ」

「えーっ! なんで、なんで!! 私達しかいないんだから良いじゃんっ!?」


 “アイテムボックス”からスマホを取り出し、時間を確認してみればまだ16:00とかでした。全然時間使っていませんよ、まだダンジョン攻略できるじゃないですかっ。

 と不服を漏らしたんですけど、麻衣ちゃんは困ったような笑みを浮かべました。


「さすがに毎日ダンジョン攻略するからねぇ。体力は温存させるように、って上からの命令」

「……ぶー……」

「拗ねないの」


 むー、そういう方針なら仕方ないです。


 今回の研修は5日間かけて行われるものとなっています。


 その為、連日研修終わりまでずっと、ダンジョン攻略を繰り返すことになります。

 当然、体力も精神も削られます。


 黎明期からダンジョン攻略しているような冒険者である私達ならいざ知らず。昨今の安全管理の整った生温い環境で育った冒険者は、どちらかというと私生活を優先する傾向にあります。

 なので、長時間ダンジョンに籠るというストレス耐性はあんまりないみたいです。


 これも時代ですね。ダンジョン攻略をゲーム感覚で行える冒険者というのは、現代においては貴重です。

 

 まあ、仕方ないか。

 私にだって当然、メリットもありますし。


「ポーション飲まなくていいの最高だからいっか……」

「琴、本音が漏れているわよ」

「だって、魔法ほとんど使ってないし。やったー!」


 はい。

 前の魔法使い研修の頃はバカスカMP使ったんですけど。

 今回の研修初日では、ほとんど魔法を使わずに済みました。というか使えないだけなんですけど。

 さすがに“魔素放出”と“アイテムボックス”の2つしか実質使えないとなれば、そんなにMPを消費することもありませんから。


 ……“アイテムボックス”は本来MPをたくさん使うような難しい魔法というツッコミはナシです。もはやいつものくだりなので、ツッコむ気も起きないかもしれないですが。


 ただ、まあイベントに欠けるのは正直つまらないです。

 あー……なんか面白いこと起きないかなあ。


 ----


「ステータス・オープン」


 冒険者証を手に持ってそう告げると、私の眼前にステータス画面が表示されました。いつもの“幻惑魔法”です。

 麻衣ちゃんへとステータス画面を送信しながら、私自身も数値をチェックします。

 

 【田中 琴】

Lv:26

HP:194/194

MP:341/381

物理攻撃:65

物理防御:91

魔法攻撃:317

魔法防御:220

身体加速:62


 おっ、レベルが2も上がっていますね。

 ちなみに今回ステータス画面をチェックするのは私だけです。メタルスライムを倒したのが私と琴男だけなので。別に琴男は元々大台ですし、あんまりチェックする意味は薄いですけどね。

 なので彼はスルーしても良いというお達しになりました。なんだかこいつだけいつも特別扱いだな。


 合計の消費MPも40だけで済んだので、クソまずポーションは卒業です! わーいっ!

 

 ステータス画面を確認した麻衣ちゃんは「うん」と納得したように頷きました。


「このペースで行けば、琴ちゃんは早いうちに30レベルに到達できるかもねぇ」

「やった! これで見張り役を付けられなくて済むっ!」

「あはは……」


 麻衣ちゃんは困ったように愛想笑いを作りました。

 ギルドの方針からして「レベル30以上の冒険者1名をパーティに組み込むこと」と決められているので。今回の研修中に、少なくとも私はレベル30に到達しておきたいんですよ。

 ですけど、当然恵那斗とイナリちゃんのレベルだって上げないといけないので。


 私よりもレベルが低いはずの冒険者2人が、何の問題もなくついてくることが出来ているのは普通におかしいんですけどね。

 特にイナリちゃん。あなたレベル7ですよね? なんで平然と私達の戦いについてくることが出来ているんですか?


 まあ、正直。

 私達の中でイナリちゃんだけでも早々にレベルを上げてしまえば、彼女を軸とした戦い方を構築できるんじゃないか、という狙いもあるんですよ。

 その為にイナリちゃんのレベルアップも優先しなければなりません。


 

 ……という話は置いておきましょう。

 ダンジョンから出たら、ダンジョンのことは意識の外に置いやってしまいましょう。オンとオフ、大事です。


 という訳で更衣室に装備品の類を置いて、ダンジョンを後にしました。


「わあ、もう日が暮れているよ」

「ぬぅ、早いのぅ……んんん……」

 

 9月末となると、日が暮れるのも早いですね。

 差し込む夕暮れの日差しが、私達の影を伸ばします。

 

 隣に立つイナリちゃんは、両手を組んでぐっと背中を伸ばしました。ピンと狐耳と尻尾が垂直に伸びます。

 今回の研修中は、私達呪い三人衆+年齢詐称組しかいません。……麻衣ちゃんと琴男は年齢詐称組ですね、うん。

 なのでイナリちゃんは変装モードをしなくても問題ないんです。


 彼女は嬉しそうに尻尾を揺らしながら、感慨深そうな顔をしていました。


「こう……のびのびと変装せずに過ごせるというのは素晴らしいのぅ」

「良かったですね、イナリちゃん」


 私がそう呼びかけると、イナリちゃんは「うむっ」と嬉しそうに頷きました。

 それから、周囲の木々を見やってはぽつりと呟きます。


「……自由に過ごせるのなら、山奥の誰も居ない民家とかに……移住するというのもありなのかもしれんの?」

「あー……それは止めた方が良いと思いますよ?」

「なんでじゃ!?」


 さらりとイナリちゃんが提案してきましたが、私としてはそれに賛成できません。

 だってイメージしてくださいよ。


 人知れず、寂れた山奥の中。

 ふらりと訪れた、静かな民家の中。

 姿を現すのは、和服を着こんだ狐耳の幼子。


 ……どこぞの言い伝えか何かですかね?



 イナリちゃんはシチュエーション次第では、いかにもな雰囲気を出すことができるというのを自覚してほしいです。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 人里離れた場所に住まう狐耳美少女…端から見たらお稲荷様が隠れ住んでる状態です本当にありがとうございました。 これに関しては琴ちゃんの「いやアカンやろ」な意見が正しいですな(笑) …
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