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第180話 一刀両断

「まずはメタルスライムを倒す感覚に慣れていきましょう」

「うむ、頼む」


 先ほど、唯一ダメージを与える感覚を体験できなかったイナリちゃんが頷きました。

 ぴょこんと大きな動きでお辞儀するイナリちゃんというのは愛くるしいですね。

 

 レンガで作り上げられた通路を進みながら、私達はメタルスライムを探し回ります。

 しかし、予備会場として扱われるだけあって……邂逅こそするものの、なかなか出会えません。


 そんなぐるぐるとダンジョンを探索して回っている最中。


 同じようにウロウロとほっつき歩いている人物が見かけました。

 見慣れた姿……と言いたいところですが、自身の後ろ姿なんて見ることが無いので。ある意味、誰よりも見慣れない後ろ姿です。


「あっ、お兄ちゃん」

「げっ」

「げっ、って何。妹の姿を見てげっ、は失礼じゃない?」

「お前、妹ムーブが板についてきたな……」


 琴男は私の顔を見て露骨に顔をしかめました。

 

 おいこら。美少女のご尊顔だぞ。

 元は異世界のメタトロンさんとか言う大天使様の身体ですけどね。んふふ。

 

 時々、芸能事務所からスカウトの声だって掛かりますね。地上波でゴブリンの死骸を映し出していいのなら、テレビの取材だって受けるんですけど。放送停止になりそうな未来しか見えないので。

 天使のような美しさ、というナンパだって受けたこともありますよ。そりゃそうでしょ、天使ですもん。


 という話は置いておきましょう。

 琴男は私の顔を見るなり、一目散に逃げようとしました。


 ですけどさすがに失礼すぎるでしょ。


「“琴ちゃんブースト”っ」

「おわぁ!」


 琴男が情けない悲鳴を上げました。おもろっ。

 両足に銀色のオーラを纏わせて、勢いよく前方向に跳躍。さっさとその場を立ち去ろうとした琴男の目の前に立ちはだかります。

 観念したように両手を上げた琴男の首根っこを掴み、仲間達の元へと連れて行きました。


「っ、お、おいっ。放せ論外女が!」

「誰が論外女だっていうんだよー?」

「お前ほんっとうに自由気ままだな! ちょっと雑魚狩りが一段落付いたと思ったら……」

 

 ステータス的に言えば、琴男が全力で抵抗すれば、私には成す術がありません。

 ですけど、私達を怪我させる結末を琴男は望まないというのは、文字通り私自身が良く分かっています。

 なので大人しくついてきてくれるんですねー。うんうん、偉い偉い。


 という訳で私は琴男を皆の前に突き出しました。

 ステータスが高い以上、体力的には一切問題ないはずですが。精神的に疲弊したようです。


「……はぁ、はぁ……高ステータスじゃなかったらぶっ飛ばしてたぞお前」

「女の子を殴るとか最低だよ」

「女の子……なあ?」

「何その目」


 ひと睨みしたところ、琴男は大人しくなりました。

 もはや諦めざるを得ない話ですが、今の私は女の子ですよ?


 女の子に嫌な思いさせるなんて、そんな酷いことをする琴男じゃないですよねぇ? 


 ……いや。

 まあ、長年まともに向き合わず、嫌な思いさせた恵那斗の前で……それを言えるかと問われれば。

 何も言えなくなるのですが。


 やめましょう。空気が沈みます。


「……なぁ」


 そんな中、ぽつりと琴男は口を開きました。

 なんだか琴男が捨てられかけの子犬みたいになっていますね。

 しばらく間を置いてから、私の方へと改めて訝しげな視線を向けました。

 

「……なんで俺連れてこられた訳?」

「逃げようとしたから」

「別にいいだろ。自由に攻略したってよ」

「んー……せっかく連れて来たし、何か使えないかな」

「おい話聞けよ。つか何だよ、俺を実験台みたいに言いやがって」


 なんとなく連れてきた方が面白いかなーって思って連れて来たんですけど、案外何も思いつきませんね。一発芸でもしてくれたらばの空気を濁せるんですけど。

 面白みに欠ける男です。やっぱリリースしようかな。放流だ放流。

 

 そんな中、琴男は助けを乞うように、恵那斗の方に視線を向けました。


「おい、恵那斗。この彼女どうにかしろよ……」

「良いじゃない。兄として妹のわがままに付き合ってあげなさい」

「……お前、いくらなんでも薄情がすぎるぞ」

「それをあなたが言えた義理かしら」

「……すまん」

 

 琴男はバカ正直に謝りました。

 兄妹揃って後ろめたい気持ちがあるので、恵那斗には逆らえません。

 こればかりはどうしようもないですね。これからちゃんと向き直っていきましょう。

 

 さて、琴男を何に使おうかと考えていた時です。


「ピィッ」

「ん?」


 遠くから、可愛らしい鳴き声が響きました。レンガの壁に跳ね返った声が、エコーを響かせながら私へと届きます。

 この鳴き声はあれですね。そう、あれです。

 

「あー。待ってろ」

 

 ですが私より先に、琴男がその鳴き声のする方へと視線を向けました。

 体勢を整えた後、ちらりとメタルスライムの方向へと向き直ります。


 静かに、彼の口が開かれました。


「……封m……“魔素放出”」

「ん?」

 

 今何か言いかけませんでしたか?

 一瞬黒いオーラが見えていたように見えたんですけど、気のせいですか?

 

 おい、琴男。何を隠した。

 

 そんな漆黒のオーラをすぐにひっこめた後、琴男は白銀のオーラを全身に纏わせて跳躍しました。

 私と違って、部分的に“魔素放出”を纏わせるという方法は会得していないようです。


 非効率ですよ、非効率。

 イナリちゃんが言ってくれた言葉の受け売りです。んふふっ。


「はっ!」


 琴男はメタルスライムが逃げる速度よりも素早くメタルスライムへと回り込んだかと思うと、むんずとその手でとっ捕まえてしまいました。

 

 本来。スライムは消化液を用いて、非捕食者を取り込むという恐ろしい性質を持っています。


 ですがメタルスライムというのは、その鋼鉄の身体を用いた突進攻撃によって非捕食者を倒した上で捕食する、という狩りの方法を選ぶらしいです。

 レベルアップ研修の資料に書いてました。


 どうやら魔物そのものの進化過程において、狩りの方法というのも大きく変化したようですね。

 

 そんなメタルスライムというのは魔素を多く溜め込む形に進化した魔物です。魔物の進化過程にもいろいろな違いがあるんですね。

 こうやって生体を紐解いていくと、少しだけ得体の知れないものという感覚が薄れます。


 

 まあ、突進能力を得た代わりに消化液を分泌する能力が衰退しているんですけどね。

 なので琴男が鷲掴みしているように、突進攻撃を阻害してしまえばメタルスライムというのは成す術もありません。


 普通は追いつくことも出来なければ、鷲掴みすることも出来ないんですけどね。何だこのお兄ちゃん。


「ほらよ、捕まえてやったぞ」

「さすがだね、お兄ちゃん。褒めてあげる」

「おー、さんきゅーな」


 私が手放しで褒めてあげると、琴男は鼻が高そうにしたり顔を浮かべました。

 ちょっと嬉しそうなのが分かりやすいですね。


 そんな琴男の前に麻衣ちゃんが歩み寄りました。彼女は琴男が鷲掴みしたメタルスライムの下に左手を差し入れました。


「琴男さん、私が受け取りますよ」

「花宮か、助かる……じゃあタイミング合わせろよ、逃げ出すぞこいつ」

「分かってます。行きますよ……1、2の……」

「3っ。ほらよっ」


 琴男が手放したタイミングで、すかさず麻衣ちゃんはメタルスライムへと“時間魔法”を付与。瞬く間に、メタルスライムを拘束してしまいました。

 相も変わらず簡単に確保されるメタルスライムが可哀想ですね。まあ、私達に出会ったのが運の尽きです。

 今回も実験体ゲットです。



 本当ならここでイナリちゃんの練習台として応用するところなんですけど。

 琴男、結構ステータス高いですよね。

 私のステータスを引き継いだ琴男というのは、かなりバカみたいに高いステータスをしています。

 

 ちょっとだけ、ちょっとだけですよ?

 少し気になることが出来ました。


「待ってお兄ちゃん」

「んぁ……?」


 琴男は不審な顔でこっちを見てきました。

 すごく嫌そうな顔をしています。

 自分自身からのお話だというのに、どうしてこうも嫌そうな顔しか向けられないのでしょう。


「さっきからなんだよお前……」

「いや、1回だけ。お兄ちゃん、メタルスライムぶっ叩いてみて?」

「は、なんで」

「いや、確認したいだけ。ごめん、イナリちゃん……ちょっと順番後でもいいですか?」


 一度確かめてみたいんですよね。

 多分、琴男の高いステータスなら、メタルスライムの装甲をぶち破れるんじゃないでしょうか。

 ゲームみたいな現象が現実でも起こせるのか、1回くらいは目視しておきたいんですよ。


 ですが順番的にはイナリちゃんをずいぶん後回しにしちゃっています。なので念の為にイナリちゃんへと確認を取ります。

 彼女は私の問いかけにコクリと頷きました。


「うむ。儂は構わんぞ」

「助かりますよ……という訳で、ほら。やってみて?」


 私は麻衣ちゃんへと歩み寄り、彼女の掌越しにメタルスライムを近づけました。

 結果的に麻衣ちゃんの手に触れる形となったので、彼女が「こっ、琴ちゃん!?」と困惑した声を上げていましたが。


 琴男は「お前……」と冷ややかな目を向けた後、呆れたように頷きました。


「まあ、分かったよ。1匹だけな」

「うんっ」


 メタルスライムを受け取った琴男。彼はまるでボールで遊ぶかのように、何度も宙に放り投げるという動作を繰り返していました。

 宙に投げては受け止め、投げては受け止め。


「そらっ……と!」

 

 そして、最後に高く放り投げました。

 空中に放り投げたメタルスライムをしっかりと視界で捉えながら、素早く腰に携えた王者の剣の柄を握ります。


 低く腰を落とした琴男は、流れるように鞘から剣を引き抜きました。

 描く金色の軌跡が、自然落下するメタルスライムに重なります。


「せあっ!」


 低く唸る声と共に、描かれる横一文字の一閃。

 まるで、私達が今まで攻撃を試みたメタルスライムと同じ個体に対する攻撃には見えません。


「ふむ……鮮やかな太刀筋じゃのう!」


 イナリちゃんは関心深そうな声を漏らしました。

 心なし、目がキラキラと輝いている気がします。というよりも狐耳と尻尾がピコピコと動いているので喜んでいますねこれ。可愛い。

 

 薙いだ一閃はまるで、通常個体のスライムでも切り裂くかのように。

 いとも容易く、その装甲を真っ二つに切り裂いて見せたのです。


 まさしく、一刀両断という言葉が相応しいです。

 

 断面からは、真っ二つになった核が露出しています。

 核に収まっていた魔石も、琴男の一撃によって鮮やかな断面が露わとなりました。魔石切っちゃった。

 

 零れ落ちたメタルスライムだったものは、核を真っ二つに切り裂かれたことにより生命活動を停止。

 頑丈な鋼鉄の如き身体は、どろりと溶けだして液状になっていきます。

 

「……っと危ない……“魔素放出”」


 そんなメタルスライムだったものが、レンガの隙間に染み渡っていかないように素早く琴男は詠唱を重ねました。

 高濃度の魔素を纏った粘液は、徐々にその形を凝縮させていきます。


 再びジェル状へと戻ったメタルスライムの粘液を手に取った琴男は、そのまま麻衣ちゃんへとそれを手渡しました。


「ま、ざっとこんな感じだ。参考までに、俺の物理攻撃はおおよそ750な」

「なるほど、実演助かりました」


 麻衣ちゃんは恭しく琴男へと綺麗なお辞儀をしました。

 腰から曲げたお辞儀というのは非常に綺麗ですね。背筋が曲がっていないので、しゃんとして見えます。最近の私に対する扱いとは雲泥の差です。


 なるほど。

 高ステータスとなると"魔素放出"を付与せずともステータスの暴力が出来るんですね。

 うう、羨ましい。私の名誉だぞ、返せ琴男。

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