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第179話 白銀のオーラ part.2

「私も少し真似させてくださいっ」

「うん、どうぞ」


 試したいことはありますが、何よりもまず基礎からですね。

 スライムという種族全般に言えることですが。

 厳密に定義づけすると、スライムという存在は核そのものを示しています。


 粘液はあくまでもオマケです。名前負けしていますね。

 ほらー、ファンタジー世界に準拠して名前を付けるから変なことになるんですよー。聞いていますかダンジョン内の生き物に名前を付けた法人の方々ー?


 先ほど恵那斗が削り取ったメタルスライムから染み出した粘液だって、厳密に定義すればスライムそのものではありません。こういうのって厳密に定義づけするとややこしいので、雑談程度に捉えておきますが。

 琴ちゃんはそういう細かいことにケチ付けたいだけです。悪いかっ。


 麻衣ちゃんからの解説を聞いて、おおよその攻略方法は見えました。

 なので後は実戦のみ。


 “炎弾”の時と同じです。きちんと学んでいきましょう。


「恵那斗ぉー、槍ちょうだいー」

「これね、お返しするわ」

「ありがとーっ、じゃあいくねっ」


 私は恵那斗に預けていた槍を返してもらいました。

 受け取った槍を持って、未だ空中に浮かんだままのメタルスライムへと向き直ります。

 

 にしても、これだけ継続して“時間魔法”を発動できる麻衣ちゃんって本当にすごい冒険者ですね。

 自身を中心とした空間停止だって難なくこなしていましたし、何気に最強格の冒険者じゃないでしょうか。やはり強者というのは存外目立たないものなんですかね。末恐ろしい世界です。

 

 そんな“時間魔法”を付与し続けている麻衣ちゃんは、私が槍を構えたのを見て大きく距離を取りました。

 なんとなく、恵那斗が武器を構えた時よりも距離を取っている気がします。信用無いなあ……。


 日頃の行いが悪いとでもいうんですかっ。なんですかっ、琴ちゃんは大真面目ですよ?


 ……まあ、何よりもまずは実践ですね。

 レベルが上がらないと話になりません。


 大きく深呼吸して、腰を落とし。

 大地と自身が繋がっているような意識をしつつ、靴底を地に押し当てます。

 そして、そのまま静かに魔法を発動させました。

 

「——“琴ちゃんブースト”」

「格好の付かん名称じゃのう……」


 なんで皆ツッコミを入れてくるんでしょうか。

 イナリちゃんは「やれやれ」と言わんばかりにため息を吐いてきました。


 まあツッコミ待ちなのは否定しませんけどね。琴ちゃんは皆からリアクションを受け取るのが楽しいので。



 そんなツッコミを受け取りながら発動させた“琴ちゃんブースト”。

 “魔素放出”によって、高濃度の魔素を纏わせる琴ちゃんオリジナルの魔法です。操作難易度が高いくせに“身体強化”の互換にしかならない魔法です。


 高濃度に凝縮した魔素は、大気に乱反射して白銀のオーラという形で世界に顕現します。

 今回は私の両脚と、槍に備わった穂先へと纏わせました。


 纏う白銀のオーラは、琴ちゃんの身体能力を急激に向上させます。

 もはや見慣れたお得意技ですね。


 というわけで今回も行きますよっ。

 白銀のオーラを纏った足で軽く、大地を蹴り上げました。


「よっ」


 高濃度の魔素は、いとも容易く私の身体を高く跳躍させます。空中に停滞するメタルスライムの高度を容易く超えました。

 大体高さにすれば2mほどジャンプは出来たでしょうか。

 やりすぎると天井に頭をごっつんこしちゃうので。お馬鹿な理由で怪我したくないです。


 そして加速する景色の中、魔素を纏わせた槍で突進攻撃を放ちます。


  

 ちなみにですが、“魔素放出”というのは自分の体の動きに勝手についてくるわけではありません。その都度、私が発動場所を設置し直しています。まあ、手間ですね。


 恵那斗の蛇腹剣は、高濃度の魔素を貯留させる機能が備わっているので良いんですよ。ですけど、そこら辺の武器にはそんな機能なんて備わっていません。

 “魔素放出”が自動で物質に付着してくれる機能がついてくれるのなら、もっと普及していても良いはずですもん。

 流行らないというのは、つまりそういうことです。ぶっちゃけ不便です。


 え? どうしてそんな話を挟んだかって?

 琴ちゃんは槍を使うのは初めてです。

 その上“魔素放出”を適切に対象に付与した上で攻撃を直撃させるというのは、シンプルそうに見えて難しいです。


 実戦形式でシミュレーションしたかったので、事前にメタルスライムへと“魔素放出”を付与させるのはプライドが許しませんでした。

 なので穂先に“魔素放出”を付与した上で、攻撃しようと思ったんですけど。


「かったぁーーーーっ!?」


 思わず悲鳴を漏らしちゃいました。

 穂先に魔素を纏わせるつもりが上手くいかず、柄に付与しちゃっていました。


 つまり、ズレました。


 こんだけ仰々しく演出して。

 メタルスライムに0ダメージなのムカつきますね。


 それどころかダメージの反動が戻って来て、むしろ私の方が大ダメージを受けました。電気信号として襲い掛かった反動ダメージは、私の手をびりびりと痺れさせます。

 あまりにも痛かったので、槍を落としてしまいました。


「……琴ちゃん。さっきから何してるのぉ……?」

「ううう……痛い……」


 メタルスライム1匹倒すだけで……しかも、殴り放題だというのにどうしてこうも無駄な時間を過ごしているのでしょう。

 無性に腹が立ってきました。


 もう良いです。

 数をこなして練習しろってことでしょーっ、分かりましたよ。ぶーっ!!


「麻衣ちゃん、もう倒していい!?」

「何で怒ってるの??」

「上手くいかなくてムカついたから!!」

「そ、そっかぁ……」


 もう良いですっ。

 どうせ次からちゃんとやればいいんですっ。


 という訳で空中に停滞したままのメタルスライム目掛けて指を差します。

 そしてそのまま宣言しました。

 

「お前はもう、死んでいるっ」

「こんなふざけたセリフで倒されるのも可哀想じゃのぅ……」


 むむっ。ふざけたセリフ扱いは酷いですよイナリちゃん。

 今回は“琴ちゃんパンチ”で見逃してあげましょう。


 

 槍は地べたに転がったままです。

 「いつも何か床に転がしてるなこいつ」とか言っちゃダメですよ。思うのも禁止です。

 

 

 という訳で、少しだけプライドが傷つきますが……空中に停滞しているメタルスライムへと“魔素放出”を付与しました。

 メタルスライムに纏っている鋼鉄製の粘膜が、ぐにゃりと形を歪ませていきます。


 粘膜の操作権限が私へと移行したのでしょう。

 もうこうなってしまえばお手の物です。


 ですが実践となると、すばしっこいメタルスライム目掛けて“魔素放出”を付与した一撃をちゃんと当てないといけないんですよね。

 今回は麻衣ちゃんがいるから良いんですけど、あくまでも今回の研修中しかいませんから。


 きちんとメタルスライムの倒し方も会得していきたいですね。



 ですがそれはそれとしてムカつきます。

 何度も痛い思いさせやがって!


 という訳で握りこぶしを作って、大きく振りかぶりました。

 白銀のオーラを纏った琴ちゃんの一撃を喰らえっ!!


「喰らえっ!! “琴ちゃんパンチ”!!」


 柔らかくなった粘膜をすり抜けるように、琴ちゃんの拳が通過します。

 そしてそのまま、メタルスライムの核へと拳が到達。


 迸れっ。琴ちゃんの稲妻よ!

 ……というイメージです。実際は白銀のオーラしか迸っていません。なんだか平常運転なのでそれはそれで面白くありません。

 

 こんなことなら属性石でも握りしめていれば良かったです。まあ、琴ちゃんウェポンについているもの以外は属性石持って無いんですけど。

 

 さっきからふざけたことしかしていないので、私以外の皆が白々しい目で見ている気がします。

 うう、次からちゃんとやります。なので今回だけは許してください。


 そんな胸中のまま、私の拳はメタルスライムの核をぶち破りました。

 

 零れた高濃度の魔素が、経験値という形で私に流れこみます。

 経験値が、私の新たな力となり——。

 


 -

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 耳を塞げども、目を閉ざせども。

 肌を撫でる灼熱の火の粉が、残酷な現実を突きつける。

 私達が愛した日常は、いとも容易く瓦解した。


 積み重ねた石段で出来た家は瓦解し、その隙間から誰かの手が姿を覗かせている。圧迫され、青紫色に変色していたその手はピクリとも動かない。


 子供の泣き声が聞こえる。その子供の傍で横たわるのは、親だった骸だ。

 懸命に現状を報告する声が聞こえる。

 だけど、その声も業火に飲まれて消えた。


 平穏は、どこへ。

 安寧は、どこへ。

 

 もはや、私にできることは願うだけ。

 私の知らない、次元の異なる遠い世界に……想いを託すだけ。

 

「……お願いします。誰か、世界を……救ってください……祝福を、祝福を——」


 

 ----

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 -


 

「琴?」

「ん、えっ?」


 あれ?

 今、一瞬何かが脳裏をよぎった気がします。

 ぼんやりと思考を巡った何かを思い出そうとしましたが、まるで雲をつかむかのように消えてしまいました。


 ……どうやら、放心状態となってしまっていたようです。


「どうしたの?熱でもあるのかしら」


 恵那斗は心配そうに私を覗き込んでいました。


 相も変わらず端正な顔立ちですね。そんなイケメンフェイスが間近にあるものですから、思わず鼓動が高鳴りました。


「んにゃっ、な、ななな……なんでもっ、ないっ!」

「そう?それならいいのだけれど。しんどかったらいつでも言うのよ?」

「う、うん。ありがとう……うう」


 うーんイケメン。耳が熱いです。


 にしても……。


 んー。

 なんだかボヤっとしたのが気になりますね。


 そう言えば琴男は“この身体は異世界の産物”だとか“レベルが上がることによって、体に秘められた力を取り戻すことができる”とか言っていましたっけ。


 レベルを上げることがこんな大きな意味を持つことってあるんですね。


(……異世界の産物、かー……)


 連想ゲームをするにはまだもう少しヒントが欲しいですね。

 レベルを上げることによって、私はまたダンジョンという不思議な存在の真相に近づくことができるんでしょうか。


 それ自体は楽しみですけど……。

 なんだか、ちょっとだけ……怖いです。





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 これは、少しだけ未来の話です。

 

 正直、レベルを上げたことに関しては後悔しています。

 こんなことなら、レベルアップ研修に参加しない方が良かったかもしれません。


 知ってしまうことと、知らずに過ごし続けること。


「……ごめん。私、お兄ちゃんを殺したい」

「まあ、そうなるよな。良いぜ、兄妹喧嘩と洒落込もう」


 一体、私はどっちの罪を背負うべきだったのでしょう。

 図書館で神話関連の本読んだのですが、

 ギリシャ神話のパンドラという女性の項目で「旺盛な好奇心から災いの入った壺を開き、人間に様々な災難をもたらしたとされる」って文面が書いていました。

 「琴ちゃんみたいだな」って思いました(クソ失礼)

(作者)

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― 新着の感想 ―
 どっちでしょうね?  連想力を発揮して中に入ってるものを察知して何もしないか、好奇心が勝るか。
更新お疲れ様です。 >パンドラって琴ちゃんだよね 否定する要素のが少ないから困るwwww しかも琴ちゃんの場合、出て来た災厄にばかり目を奪われる→箱の底の希望をスルーして蓋を閉じそうだからなぁ(笑)…
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