第175話 メタルスライム
その核を纏うのは、銀色に輝く鋼鉄の如き粘膜。
その核を守るのは、弾性に富んだ白銀の鎧。
その地を滑るのは、私達冒険者の関心を一同に引き寄せる存在。
「とりゃあああああああああ!!私達の経験値となれええええええっ!!」
「ピギュ!?!?」
「あっ!? 逃げた!! もう少しだったのに!!」
視界に見えた範囲のメタルスライムをとりあえず追いまわしてみたのですが、聞いていた通りですね。私の姿を認識するや否や、まるでバネの如く一目散に私の視界から消えてしまいました。
分岐路へと飛び込んだかと思うと、とっくに私達の目の前から姿を消してしまいました。
どちらかというと、回避行動を取るつもりが力加減をコントロールすることが出来ずに吹っ飛んでしまったようにも見えますが。まあ、どちらにせよ私の経験値にはなりません。ぐぬぬ。
剣モードへと切り替えた琴ちゃんウェポンを振り下ろしたはいいのですが、空を切るのみに終わったのが虚しいですね。
せっかく高い金払って作って貰った武器を傷つけたくないので、大人しく鞘に戻しました。つまり杖モードへ移行です。
なんだか、武器振り回すだけなら別に琴ちゃんウェポンじゃなくてもいい気がしてきました。
今、私達が立っているのは洞窟型ダンジョンです。
基本的には薄暗い印象を受けることの多い洞窟型ですが、今回はいつもとは違いました。
赤茶色のレンガが等間隔で並べられた、どこか人工的な印象を受けるダンジョンです。どうやら天井そのものが光源となっているようで、私達の足元には影が落ちています。
レンガで出来た通路はどこまでも、どこまでも遠く一直線に伸びています。かと思えば分岐路が作られていたりと、どこか迷路じみたものにも見えますね。
複雑に入り組んだ、まさしく迷宮というに相応しい場所です。ジメジメとした雰囲気ではないのもちょっと琴ちゃんポイントを付与できるポイントです。
琴ちゃんポイントって何かって? 知りません。適当に名付けてそのまま使っています。
まあ、ダンジョンのマッピングもすでに行われているようで、案内板が立てかけられていますが。観光案内じゃないんですよ。
「未開拓の通路を開拓するロマン」というものすら感じられません。
余談ですが、マッピングが住んでいない箇所だって当然現代には残っています。ですがそういう場所というのは「そもそも社会的な需要が少ないダンジョン」になります。
攻略需要があるからこそ、冒険者それぞれが丁寧にマッピングして、ルートを示してくれているのです。
さすがに日本国内だけで5000もあるダンジョン全てを緻密に調査、などと考えるだけで骨の折れる話ですもんね。
ただ、未開拓のダンジョンを開拓する為に構成された公的機関、というのも存在するようです。
なんだか国家秘密機関みたいでカッコイイですね。まあ私達には関係ありませんが。
さて。本題に戻ります。
私が1人で突っ走ったのを見守っていた麻衣ちゃんが冷ややかに私を見やりました。視線がぐさぐさと刺さります。
それから、私の方を見やりながら、恵那斗達へと語り掛けていました。
「……このように。メタルスライムというのは、すばしっこく捉えることが困難な魔物です。改めて、メタルスライムの倒し方を学びつつ、経験値を稼いでいきましょうねぇ」
「琴、実演してくれて助かったわ。確かにこれは簡単に倒せなさそうね」
「ただ真っすぐに追い回すだけでは、容易く逃げられてしまいます。“身体加速”の高い冒険者であれば、この限りではありませんが……あと、大きな声を上げるのもやめましょうね」
「……この子も、少し前まではまともな冒険者だったのよ?」
あの。
私を悪い見本みたいな扱いするのは止めてもらって良いですか。
あと、恵那斗? 「まともな冒険者だった」って過去形はやめようね?
まあ、最近は皆が反応してくれるのが嬉しいのではっちゃけているのは否定しませんがね。えへへ。
今までだったら誰もリアクションしてくれなかったんですもん。
すごい、とかただの誉め言葉には一切心が躍りません。相手の感情が見えないと、つまらなく感じるんですよ。
つまり皆がリアクションしてくれるからこそ、今の琴ちゃんが出来上がったという訳です。
琴ちゃんはかまってちゃんなんですよ。反応が欲しいんです。
ただ安心してください。
私はもちろん、スライムの対処方法を把握しています。
分かった上で、先ほどのような行動を取ったんですよ?
麻衣ちゃんはその間にも、皆へと解説を続けています。
ですが、ここは言わせてください。
「スライムという個体と異なる点は、ただ体内に格納している魔素の量が他よりも多いだけではありません。体外から漏出する魔素を感知する能力に加え……」
「ちょっとまったぁっ!」
「えっ、な、なにっ」
「もう1回私にやらせてっ」
「……あ、うん」
私の返答に麻衣ちゃんは歯切れ悪く返答しました。なんというか、ここ最近私の扱いが悪い方向に傾いている気がしますね。
少しでも名誉を挽回したいんですよ私は!
ですが、さすがにこのダンジョンの中で“炎弾”は使えないですね。火力調整が出来ないので、あっという間に火の海を作り出してしまいます。そうなると、酸欠を引き起こす可能性だってあり、全滅を来たす可能性もあります。
嫌ですよ、研修に向かった冒険者5人が冒険者証を残して消滅なんて情報が流れるの。バッドエンドですよ。笑えません。
……こほん。
大体通路の幅は5mほど。バドミントンのシングルスコートくらいの広さですね。
高さはだいたい4m。道路のトンネルはこれくらいの高さに設定されることが多いようです。
なのである程度動き回る分には問題ありません。メタルスライムだって、基本的には後退しか出来ませんから。
さっきの魔物みたいに、分岐路に逃げ込まれてしまうとどうしようもありませんが。
ですが正直なところ。
琴ちゃんはメタルスライムとの邂逅経験が非常に少ないです。
そもそも、黎明期は過酷な冒険者間の競争に巻き込まれて戦う機会を確保できなかったこと。
冒険者が社会人の一員として組み込まれた時には、既に高レベル冒険者という枠組みにいたので、レベルアップ研修に参加する意義を感じ取れなかったこと。
単純にサンプル数が少ないこと。
という理由から、実質初戦と言っても遜色ありません。
ですがこうした問題点は、知識で補ってこそ。それでこそ、私はベテラン冒険者であると証明できるのですからっ。
……あの。
オチが見えるとか言うのはやめてくださいよ。
「また地べたに転がった“炎弾”のくだりやろうとしてる」とか思うのも禁止です。
私は大真面目ですよ。




